日本の借金は1105兆円――これは財務省が2019年11月に発表した同年9月末時点の残高である。この額は今世紀初めと比べて2倍以上に膨らみ、今後も当面増え続ける。主要先進国の中で最大の借金を抱える日本は破綻しないのだろうか。そして私たちの生活はどうなるのだろう?

国民1人あたり876万円?

国の借金
(写真=PIXTA)

この額を2019年の総人口で割ると1人あたり約876万円で、これにはもちろん0歳児も含まれる。年間の給与所得の平均441万円(19年、国税庁調べ)と比べると約2倍だ。誤解のないよう申し添えると、これはあくまで国(日本政府)の借金で、後述のように国民はむしろ貸している側である。

借金がここまで膨らんだのは、政府が長年赤字を続けているからだ。2000年以降で見ると年間の平均赤字額は30兆円以上にのぼり、これがほぼそのまま借金になる。2019年度の予算がざっと100兆円だから、雪だるま式に増えてきたといってよいだろう。国民総生産(GDP)に対する比率で見るとこれも主要先進国の中で最悪である。

この収支を月収40万円の平均的な家計で例えてみよう。金額は大ざっぱだが、この家計の支出は収入を大きく上回る月62万円。内訳は、年金や医療など社会保障費が21万円、借金の返済・利払いで15万円、生活費が26万円である。

社会保障と借金関連の合計36万円は右から左に出て行ってしまうから、収入の残りはわずか4万円。したがって生活費の不足分22万円は毎月借金で賄わざるを得ない。社会保障費はこのまま行くと増え続けるから、今後はさらに借金を増やさないと生活していけない。

こんな状況が続けば借金が返せなくなり、普通なら破産してしまうところだが、日本がそうなると心配する声はほとんど聞かれない。そう、日本政府は「絶対に」破綻しないのである。その理由は以下の通りだ。

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それでも日本は「絶対」つぶれない

政府の借金の約9割を占める国債の保有者内訳をみると、国内の民間金融機関が約4割、中央銀行(日銀)は約5割で、海外からの借り入れは1割にも満たない程度だ。個人が直接保有する国債はごくわずかだが、実はその預金や保険の積立金が金融機関を通じて国債に投資されている。

日本では永らく低金利が続き、この運用難のなかで個人や銀行にとって値下がりリスクの小さい国債は数少ない選択肢のひとつ。また日銀も金融緩和策の一環として毎年80兆円程度の国債を買い入れており、当面は買い続けるだろう。買う人が十分にいる限り、国債が発行できなくなる、あるいは暴落してパニックに陥るようなことはない。

2つ目の理由は、日本はその厳しい財政状況とは裏腹に、世界最大の債権国であることだ。日本の企業や個人、政府が海外に持つ資産は、18年末の合計で1018兆円。ここから海外からの投資などを差し引いた対外純資産は341兆円と世界で最も多い。

さらに、日本には家計の貯蓄が2019年度9月末で1864兆円以上もある。政府の約1100兆円の借金を差し引いても国全体で見れば700兆円規模の資産があるわけだ。これらはいずれも、海外債務に対して返済能力が十分あることを示す。したがって、外国から見れば日本は信用力が高く、保有国債を売る理由はとくに見当たらないのである。

3つ目、そして「絶対に破綻しない」究極の理由は、日本の国債が円建てであることだ。これは当たり前のようだが、実は対GDP比の借金が日本よりはるかに低いギリシャが、10年ほど前に債務危機で騒がれたのと決定的に違う点である。同国は自国通貨を持たないため、共通通貨ユーロをEU(欧州連合)諸国から借り入れざるを得ず、十分な貸し手がいるかどうかが破綻懸念につながった。

しかし、日本は自分で紙幣を印刷できる。大量に発行すると日本円の価値が下がり、大幅なインフレになる恐れはあるが、返済を迫られたらお札を刷れば済むのである。「なんだ、それなら借金が巨額でも問題ない」、と思ったらそれは違う。真剣に心配しなければならないのは、私たちの生活だ。

国はつぶれなくても、生活は苦しく

日本では前述のように社会保障費が当面増えるため、税収が増えなければ他の予算を削らざるを得ない。また、収支改善のために医療費補助、年金給付などの支出を抑えると、国民全体の実質所得が減り、消費が冷え込む。そうなると再びデフレマインドが強まり、賃金も上がりにくくなる。これらはいずれも景気のマイナス要因となり、税収にも響く。

また、日銀が緩和策を強化し、紙幣の流通をさらに増やすとインフレが加速する恐れがある。賃金が上昇すれば、勤労者はある程度吸収できる。しかし年金生活者は、この先の給付減・負担増がほぼ確実で、物価上昇はダブルパンチになる。消費の大きな割合を占める高齢者層が生活を守るためにさらに節約すれば、国全体では景気悪化の方向に向かう。

このように、財政・金融政策の小手先の対症療法だけでは国民生活は苦しくなるばかりだ。ご存じの通り、日本では少子高齢化がさらに進み、総人口は2050年に現在より2割以上減り、1億人を割る見通しだ。現役層の社会保障負担がさらに増す、すなわち手取りが減ることを考えると国内需要は人口減以上に縮むだろう。

日銀は2017年4月末の景気判断で「拡大」という言葉を約9年ぶりに盛り込み、2019年末でも「緩やかに拡大している」という姿勢を崩していない。確かに大都市圏では建設ラッシュや人手不足が続いている。しかし現在の「拡大」は、20年の東京五輪に向けた需要が支えている部分も大きいだろう。この特需がなくなった後のことを考えると空恐ろしくなる。

他方、政府には約700兆円もの資産があるから実質的な借金はそれほど多くない、との楽観的な見方もある。理屈上は確かにその通りだが、これは鵜呑みにできない。なぜならこの資産は、年金給付への備えや政府機関の土地・建物、そして幹線道路などのインフラがほとんどを占め、少なくとも借金返済には使えないからだ。実際に売却できるのはごくわずか、単なる憶測だが100兆円にも満たないだろう。

つまるところ、国民生活が苦しくならないようにするには、経済をその分成長させるしかない。安倍政権の看板政策だったはずの「3本の矢」は既に死語と化した感もあるが、成長のために強力な規制改革を謳った3本目の矢は今どこを飛んでいるのだろう。

ネット上には「日本の借金時計」のサイトがいくつかある。その数字自体は地方政府の債務も含むなどそれぞれ違うが、借金が刻々と増える様を目の当たりにすると切迫感を覚える。これを一番見てもらいたいのは、永田町と霞ヶ関はいうにおよばず、全国津々浦々の政治家と役人だ。

そうすれば、少なくとも「税金のムダ遣い」が少しは減るのではなかろうか。そして現役世代には、将来に備えた資金を今から蓄えるよう心底おすすめする。(シニアアナリスト 上杉光)

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