会社組織で出世するには「風を読む」スキルが必要だ。
誰が勝ち組で、誰が負け組か。どうすれば勝ち組の上司に気に入ってもらえるか。誰と付き合い、どのグループに加わるべきか……。「風を読む」場面は様々である。

それは銀行員も例外ではない。とりわけ出世街道を登りつめた銀行の経営幹部は、卓越した「風を読む」チカラを有している。だが、それは「組織内の風」に過ぎない。いわば「コップの中の嵐」であり、そんなものは社会全体から見ればどうでも良いことなのだ。

いま最も大切なのは、金融業界全体を取り巻く「風向き」の変化を感じ、真摯に受け止めることだ。にもかかわらず、彼ら風見鶏はそれを理解していない。いや、本当は理解しながらも、あえて無視している嫌いさえある。

官民あげての「インチキセールス」

投資信託,大損
(写真=Thinkstock/Getty Images)

野村総合研究所の推計によると、2016年度の株式投信の購入額から売却額などを除いた「資金流入額」は約1兆3000億円にとどまった。これは前年度に比べ8割の減少だ。

投資信託が売れない。それは具体的な数字をあげるまでもなく、銀行の金融商品販売の最前線に立つ人間なら誰でも身をもって感じていたことだ。「世界的な低金利で運用難が続いている」「金融庁が分配金に否定的だから、毎月分配ファンドの販売が落ち込んでいる」そんな分析を聞かされるまでもなく、現場の人間は風向きの変化を感じている。

金融庁の姿勢も様変わりしている。不良債権処理にカンカンだった金融庁が、今度は預かり資産販売を標的にし始めた。

諸外国と比較して国民の金融資産に動きが見られない。大量の資金が預金に留まったままだ。「これはけしからん、銀行や証券会社が無茶苦茶な販売で個人投資家をカモにしているからだ」とオカミはご立腹の様子だ。

結果、「フィデューシャリー・デューティー」なる言葉がいたるところで使われるようになった。直訳すれば受託者責任ということになるが、要するに金融機関の都合ではなく「顧客のことを第一に考えろ」と言うことだ。

それにしても……この強烈な違和感は何だ。個人の金融資産が健全に増えないのは本当に金融機関「だけ」の責任なのだろうか?

「預金ではインフレに対抗できません」
「インフレに備えて運用を始めましょう」

つい最近まで、そんな言葉が銀行や証券会社で配られるパンフレットに並んでいた。パンフレットだけではない。投資初心者を対象としたセミナーでは必ずこの「フレーズ」が使われていた。マネー誌では著名なFPがこぞって同じセリフを繰り返した。そればかりか、政府だってそうやって「貯蓄から投資へ」と国民を誘導していたではないか。

で、その結果どうなったか?
先月、イオンの岡田元也社長が会見で「脱デフレは大いなるイリュージョン(幻想)だった」 と語り、話題を呼んだのを覚えている人もいるだろう。国民の多くが同じことを感じ、共感しているはずだ。

「化けの皮」は剥がれたのだ

このような経緯を鑑みると、リスクを取って運用するよりも、銀行預金から動かさないほうが「安全」と考える人が増えるのは当然ではないか。

つまり、投資信託が売れないのはそういうことだ。「無理に運用なんてする必要はない」多くの人がその事実に気付いたに過ぎない。

「インフレに備えて運用を始めましょう」
「運用しなければ将来困ることになりますよ」

そんな脅迫めいた官民あげての「インチキセールス」に皆が辟易しているに過ぎない。

銀行の金融商品販売の現場に立ち、お客様と直接向き合っている私には分かる。最近の投資信託のニーズは明らかに様変わりしている。化けの皮は剥がれたのだ。

単なる装飾に成り果てた「風見鶏」

もはや誤魔化しは通用しない。これからの時代、銀行が自分たちの都合で金融商品を販売するのではなく、真に顧客のことを考えなければ生き残りは難しい。率直に言って、一方的に銀行を悪者に仕立て上げようとするオカミの巧妙な手口に憤りを感じるが、それでも「フィデューシャリー・デューティー」の必要性は認めなければならない。

もちろん、「フィデューシャリー・デューティー」が広く浸透すると、銀行の金融商品販売による手数料収入が減少することは避けられない。融資による収益が落ち込むなか、手数料収入をあてにしなければならない銀行の台所事情を考えると、こうした「風向き」の変化は致命的な痛手となりかねない。銀行経営者達は、それをどれだけ認識しているのだろうか。

いや、きっと彼らはそれを十分理解しているはずだ。彼ら風見鶏は、いまどんな風が吹いているのかを誰よりも良く知っている。表面的にはあえてそれなりのポーズを取ってみせながら、風を「やり過ごそう」としている。

「風の変化」に本気で対応するには、販売手数料に依存しない収益モデルを考え出す必要がある。だが、私には銀行が本気でそれに取り組もうとしているとは到底思えない。

「いつかまた風向きが変わるだろう」
「それまでもうしばらくやり過ごせば良い」

塔のてっぺんに立ち、進むべき方向を示すはずの風見鶏は、いまや単なる装飾に成り果てたのかも知れない。(或る銀行員)

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