昨年11月、OPEC(石油輸出国機構)が8年ぶりの減産に合意した。さらに翌12月にはロシアなどの「非加盟の産油国」も合流し、15年ぶりとなる協調減産に至った。減産は年明け1月から実施され、原油価格も順調に回復するかに思われたが、その後明確な上昇トレンドを描くことができずに失速している。

ウォール街の市場関係者からは「協調減産は失敗に終わった」との声も聞かれるが、それにしても半年前の期待を裏切る展開となったのはなぜだろうか。今年前半を振り返りつつ、年後半の原油市況を展望してみよう。

「供給過剰」が解消される見通しが立たない

原油価格,見通し
(写真=Thinkstock/Getty Images)

ニューヨークWTI原油は期近ベースで年初に53ドル台まで上昇する場面も見られたが、その後伸び悩む展開となった。今年1月から「主要産油国による減産」が実施されたものの、時間の経過とともに「供給過剰の解消には時間がかかる」との観測が広がったためだ。

それでも、5月のOPEC総会で「追加減産への期待」から大きく崩れることはなかったが、結果的にはそうした期待も裏切られることとなる。5月25日、OPEC総会で追加減産が見送られると、年内に供給過剰が解消されるとの期待が後退。その後1カ月ほどで約16%もの下落を余儀なくされた。

次回のOPEC総会は11月30日に予定されており、価格の低迷が続くようであれば「追加減産」の公算大となる。

もっとも、原油価格は昨年の減産合意前の水準へと逆戻りしていることもあり、「減産に向けての協議は既に水面下で始まっている」との観測もある。たとえば、40ドルを割り込むような事態となれば、正式決定は11月の総会としながらも「追加減産の暫定合意をほのめかす」などの口先介入に出る可能性もあるだろう。

米生産増とリビア、ナイジェリアでの生産回復が重し

OPECは当初、減産合意により2017年の後半には供給過剰が解消し、需要超過に転じると予想していたが当てが外れている。主因は米シェールオイルの増産とリビア、ナイジェリアでの生産の回復だ。

6月16日現在の米国の原油生産量は日量935万バレルと昨年11月から65万バレル増加した。協調減産は180万バレル弱なので、減産の3分の1以上が相殺されている計算だ。生産の先行指標とされるリグ稼動数を見ると、6月23日現在で758基と減産合意前の474機から6割増加した。増加傾向が続いていることから、当面は米原油生産量も増え続ける見通しだ。

リビアとナイジェリアはOPEC加盟国だが、政情不安で生産が落ち込んでいたことから、今回の減産合意では対象外となっている。5月のリビアの産油量は73万バレルで昨年7〜9月期の31万バレルから42万バレル増加、ナイジェリアは168万バレルで7〜9月期の138万バレルから30万バレル増加しており、両国を合計すると72万バレルの増加となる。

カナダやブラジルでも増加が見込まれていることから、これらの国々での増産により減産分はほぼ相殺されてしまう計算で、需要が予想外のスピードで増えるか、想定外の供給障害が発生しない限り、年内に供給過剰が解消される望みは薄いのが実情だ。

移民への規制強化で米ガソリン需要が減少?

需要サイドでは米国でのガソリン需要の低迷が気がかりだ。例年、米国では5月下旬のメモリアルデーから始まるドライブシーズンにガソリン需要が増加するが、今年は一向に上向く気配がない。6月16日までのガソリン需要(4週平均)は前年を1.6%下回っている。

ガソリン需要の低迷は今年1月から顕著となっており、トランプ政権の進める移民の取り締まり強化が関係しているとの見方も出ている。トランプ大統領が就任した1月以降、政府は交通取り締まりを通じて必要な書類を持たない移民を見つけ、国外に退去させるケースが増えている。「書類を持たない移民が車の運転を控えている」ことがガソリン需要の低迷の一因となっているとの見方もある。

きな臭さを増す中東情勢、上値波乱の火種も

一方、中東での地政学的リスクは依然としてくすぶっており、思わぬところで供給障害が発生しないとも限らない。

親イスラエル色の強いトランプ政権は、イスラエルと敵対するイランへの圧力を強めており、オバマ政権でのイランとの「核合意の反故」を目指している。同じくイランと敵対するサウジアラビアとの結束も強化しており、トランプ大統領は5月下旬にサウジとイスラエルを歴訪した。

その直後の6月上旬にはサウジやエジプト、UAE(アラブ首長国連合)など6カ国が突然「カタールとの国交断絶」を発表。表向きの理由はカタールによるテロ支援とされている。ただ、イランは「トランプ大統領のサウジ訪問が断交につながった」と非難しているほか、ウォール街の市場関係者からも米主導によるイラン孤立化の動きとの声も聞かれる。

トランプ大統領は2月、新たなイランへの経済制裁を発表し、「イランはオバマ前大統領の優しさに『感謝』していないようだ。私は甘くない」とつぶやいている。米国のイランへの経済制裁はいつ強化されてもおかしくない状況で、内容次第ではイランの石油輸出に影響を与える可能性もある。

中東での対立の軸はイスラエルとイランであるが、オバマ政権での傍観から一転し、トランプ政権は中東情勢に積極的に関与している。4月にはシリアへの空爆も実施するなど、中東情勢はきな臭さを増しており、原油市況にとっても「上値波乱の火種」となる恐れがある。

年後半のコアレンジは40〜55ドルか?

米シェールオイルの生産コストは30ドル台と推定されているが、これはランニングコストの話であり、初期投資の回収を含めた採算ラインは60ドル程度が見込まれている。OPECも減産に合意した当初は60ドルを目標にしていたが、原油価格は結果的にはこのラインには届かず失速している。

こうした経緯を踏まえると、年初来での抵抗線となった55ドルが上値目処としては妥当であろう。一方、下値の防衛ラインは40ドル程度が見込まれることから下半期のコアレンジは「40~55ドル」が目処となろう。

需給の改善が期待薄なことから、当面は40ドルを視野に入れての底値探りとなるが、11月末のOPEC総会に向けては追加措置が意識されて50ドル台を回復するのではないか。総会が物別れに終われば反落、対策が講じられれば内容によっては55ドルを突破してくるかも知れない。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)

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