シンカー:プライマリーバランス(PB)そのものを黒字化させることに注力し、財政の景気自動安定化装置の役割を減じてしまえば、景気が悪い時には税収が減少した分だけ財政支出を抑制するため、総需要が破壊されたままとなり、雇用・所得環境の悪化を通して、家計の富が奪われることになってしまう。景気の下方への振れを大きくしてしまうことになる。景気の振れが大きくなればリスクも大きくなるため、企業の投資や雇用の行動は抑制される。そうなると、生産性が上昇できず、若年層がしっかりとしたラーニング・カーブを登れる職を得ることができず、将来世代の所得の拡大が困難化する。景気の悪化を放置することは、将来世代の所得拡大の機会を喪失させるという負担を押し付けてしまうことになる。負担を押し付けられた将来世代は、自分たちの所得を自由に使う選択肢を奪われてしまう。そのようなことを避けるため、グローバルなスタンダードでは、景気循環要因を除いたPB、すなわち構造的PBをターゲットにしている。来年の骨太の方針では、最低限、PBそのものの黒字化ではなく、構造的PBの黒字化へ変更し、グローバルなスタンダードに合わせる必要があろう。

SG証券・会田氏の分析
(写真=PIXTA)

財務大臣の諮問機関である財政制度審議会の2018年度の政府予算編成に向けた建議は、日本の財政状況が深刻で財政健全化は将来世代に対する責務であると主張している。

そして、「政府が掲げている2020年度の「プライマリーバランス(PB)の 黒字化」の実現の旗を降ろすことは許されない」と主張している。

「PB は、現在の政策的経費を税収等でどの程度賄うことができているかを表す指標である。

PBが赤字であるということは、今を生きる我々が、過去の債務の償還・利払いに加え、自らの直接的な受益に見合う負担も負わず、将来世代にこれらの負担を押し付けていることを意味する。

負担を押し付けられた将来世代は、自分たちの税収を自由に使う選択肢を奪われてしまう。

そのようなことを避ける「PB黒字化」は、将来世代に対する最低限の責務である。」と説明されると、皆が罪悪感をもってしまう。

しかし、日本でPBの議論をする時に、グローバルなスタンダードとの違和感を感じるのは、構造的PBではなく、PBそのものがターゲットになっていることである。

財政のシステムには、政策に変更がなくても、景気の良い時には税を多くとり財政緊縮気味になり景気を抑制し、景気の悪い時には税を少なくとり財政拡張気味になり景気を刺激するという景気自動安定化装置が働くメカニズムが内在されている。

もしPBそのものを黒字化させることに注力し、この財政の自動安定化装置の役割を減じてしまえば、景気が悪い時には税収が減少した分だけ財政支出を抑制するため、総需要が破壊されたままとなり、雇用・所得環境の悪化を通して、家計の富が奪われることになってしまう。

景気の動向にかかわらず、PBそのものの黒字を目指すことは、景気の下方への振れを大きくしてしまうことになる。

景気の振れが大きくなればリスクも大きくなるため、企業の投資や雇用の行動は抑制される。

そうなると、生産性が上昇できず、若年層がしっかりとしたラーニング・カーブを登れる職を得ることができず、将来世代の所得の拡大が困難化する。

最悪の場合、こどもの貧困が問題となり、貧富の格差や格差の固定など、社会不安につながってしまう。

このように、景気の悪化を放置することは、将来世代の所得拡大の機会を喪失させるという負担を押し付けてしまうことになる。

負担を押し付けられた将来世代は、自分たちの所得を自由に使う選択肢を奪われてしまう。

そのようなことを避けるため、グローバルなスタンダードでは、景気循環要因を除いたPB、すなわち構造的PBをターゲットにしている。

景気が悪いときにはターゲットは低く(赤字がより許容される)、景気が良い時にはターゲットは高くなる。

2018年度の政府予算編成に向けた骨太の方針では、債務のGDP比率の安定化が、PBの黒字化と同等の目標に格上げされた。

PBの黒字化は、債務のGDP比率の安定化というグローバルなスタンダードにおける財政安定化の目標の手段でしかなく、手段が目標より格上だったこれまでは異常であった。

PBそのものの黒字化は、景気の下方への振れを大きくするため、デフレ完全脱却を阻害してしまうことになり、債務のGDP比率の安定化という目標があれば、そもそも撤廃しても問題ない。

来年の骨太の方針では、最低限、PBそのものの黒字化ではなく、構造的PBの黒字化へ変更し、グローバルなスタンダードに合わせる必要があろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司

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