ライブドアと村上ファンドによるニッポン放送株取得とフジテレビ買収劇―この騒動に度肝を抜かれた人も多いだろう。テレビ局は日本のマスコミを代表する企業である。世間にも大きな影響を持つテレビ局「フジテレビ」が、新興のIT企業、ライブドアに買収されようとしたのである。一般の人にとっては、狐につままれたように感じる話だったはずだ。

(本記事は、大村 大次郎氏著『 お金の流れでわかる日米関係 元国税調査官が「抜き差しならない関係」にガサ入れ 』KADOKAWA (2017/6/1)の中から一部を抜粋・編集しています)

ライブドアに資金提供したアメリカの投資銀行

大村大次郎,税,日米関係
(画像=Webサイトより)

ライブドアは、結局、フジテレビを買収することはできなかった。しかし、フジテレビの株の買い戻しにより、140億円もの莫大な利益を上げることができた。この一連の出来事を見て、マスコミや有識者はこぞって「時代は変わった」という見解を表し、ホリエモンや村上ファンドを時代の寵児のごとく捉えた。

しかし、ライブドアや村上ファンドがとった手法というのは、新しいものでもなんでもない。実はアメリカの投資銀行によって20年前に開発されていたものなのである。

そもそもライブドアや村上ファンドが台頭してきたのは、金融業界の規制を大幅に緩和した金融ビッグバンの影響でもあるのだが、この金融ビッグバンを主唱したのはアメリカなのである。

そして、ライブドアや村上ファンドは、アメリカの金融機関と直接関係もあるのだ。ライブドアはアメリカの投資会社「リーマン・ブラザーズ」と深いつながりがあった。リーマン・ショックを引き起こしたあの「リーマン・ブラザーズ」である。

リーマン・ブラザーズは、フジテレビ買収騒動のときにライブドアの資金的な後ろ盾だてになっていた。リーマン・ブラザーズはこの騒動の影の仕掛け人ともいえるのだ。ライブドアは当時、リーマン・ブラザーズ社に800億円もの大量の社債を引き受けてもらっている。社債というのは、簡単にいえば会社の借金である。つまり、ライブドアはリーマン・ブラザーズから800億円借りたということになる。

そしてこの社債は、希望すれば株式に転換できる「転換社債」となっていた。

転換社債というのは、「社債を償還する代わりに、株式に転換する」というものだ。つまり、リーマン・ブラザーズはライブドアに貸したお金を現金で返してもらうこともできるし、ライブドアの株で返してもらうこともできるのだ。

ライブドアがリーマン・ブラザーズに引き受けてもらった転換社債というのは、ライブドアの株が上がっても下がってもリーマン・ブラザーズ社が一定の利益を得られるような条件になっていた。具体的にいえば、「社債を株式に転換するときは、市場株価の9割でいい」ということになっていたのだ。

つまりリーマン・ブラザーズは、ライブドアの株を1割引きで取得できることになっているため、株に転換してすぐに売却すれば、それだけで10%の儲けは出ることになる。ライブドアがつぶれない限りは、絶対に儲かる仕組みになっていたのだ。

金融取引において、こんな虫のいい条件はない。

通常、投資というのは、状況によって損得が生まれるものであり、リスクを冒すからこそ、リターンがあるものである。しかしリーマン・ブラザーズ社は、ライブドアに関しては、どう転んでも自分たちが儲かるような条件を飲ませていたのである。

当時のライブドアに対し、法律ぎりぎりの行為で金儲けをするズル賢い会社のような印象を持っていた人もいるかもしれないが、リーマン・ブラザーズ社と比べれば、大人と子ども以上の差があったのだ。

というより、新興IT企業のライブドアがフジテレビを買収するような巨額な資金を持てたのは、リーマン・ブラザーズなどのアメリカ系金融機関があってこそである。逆にいえば、アメリカ系金融機関の手助けがなければ、ライブドアのあのような大がかりな買収劇など演じられなかったのだ。

ライブドアは、そもそもホームページ作成などを行っていたオン・ザ・エッジ社が発展したものだが、当初は高い技術力を持った優良IT企業だった。しかし、2004年にプロ野球球団大阪近鉄バファローズを買収しようとしたころから、急速に企業買収や投資で収益を上げる体質に変化していった。その経営方針に対して入れ知恵し、強力にバックアップしたのは、リーマン・ブラザーズなどのアメリカ系投資会社だったのかもしれない。

村上ファンドとゴールドマン・サックスの関係

ライブドアとともに世間を騒がせた村上ファンドも、実はアメリカの金融機関の"手下"ともいえる存在だった。村上ファンドの資金調達の一翼を担っていたのは、アメリカ系投資会社のゴールドマン・サックスである。ゴールドマン・サックスと村上ファンドの結びつきは深く、六本木ヒルズでも、それ以前でも事務所は同じビルの中にあった。

村上ファンドの村上世彰氏と当時の日銀の福井俊彦総裁とは親交があり、福井総裁が村上ファンドに投資していたことが社会問題にもなっているが、その福井総裁はゴールドマン・サックスの顧問を務めていたこともあったのだ。また村上ファンドが阪神電鉄の買収をしかけていた2006年3月末の阪神電鉄の株主には、第4位にゴールドマン・サックスが名を連ねている。

ゴールドマン・サックス社は、村上ファンドが阪神電鉄買収を仕掛ける1年前に、「六甲おろしワラント」という商品を販売していた。これは阪神電鉄の株が上がるか下がるかを予想するという金融商品だったが、このときからすでにゴールドマン・サックス社は阪神タイガースに目をつけていたと考えられる。

村上ファンドは、元通産省官僚の村上世彰氏を中心に、元警察官僚、元証券会社役員などによって1999年につくられた。

しかし当の村上氏は特に金融に詳しいということはなく、1998年の通産省官僚時代には、あるコンサルタント企業を訪れた際に「ファンドって、何?」と聞いていたそうである。

村上ファンドは設立当初はオリックスをはじめとした財界の後ろ盾があり、株主総会やマスコミなどでの発言によって「もの言う株主」として目立ってはいたが、不動産会社昭栄の買収に失敗するなど、芳しい業績は上げていなかった。

2000年1月にファンド運用を始めた当初は、38億円の資金しかなかった。最盛期の100分の1にも満たない。

その村上ファンドが資金を大幅に増加したのは2004年以降である。

2005年3月末には、1653億円、そして2006年3月末にはなんと4444億円にまで膨れ上がっている。この莫大な資金のほとんどは外国資本なのである。

村上ファンドに出資している外資がどこであるのかは、明らかではない。ファンドがファンドに投資するという形を取り、分厚いフィルターにかけられているので、本来の金主がだれなのかは、外部からわからないようになっているのだ。

しかし、この多額の外資は、ゴールドマン・サックスなどを通して集められてきたことは疑う余地のないことである。

ゴールドマン・サックス社は1869年、バイエルン出身のドイツ系アメリカ人のマーカス・ゴールドマンによって設立されたアメリカ投資銀行の最大手である。当初は、商業手形の割引業務などをしていたが、1882年に投資銀行として業務を始める。

リーマン・ショックによりダメージを受けたが、破綻までには至らず、現在もアメリカの金融部門を代表する企業である。

大村大次郎(おおむら・おおじろう)
元国税調査官。国税局に10年間、主に法人税担当調査官として勤務。退職後、ビジネス関連を中心としたフリーライターとなる。単行本執筆、雑誌寄稿、ラジオ出演、『マルサ!!』(フジテレビ)や『ナサケの女』(テレビ朝日)の監修等で活躍している。ベストセラーとなった『あらゆる領収書は経費で落とせる』をはじめ、税金・会計関連の著書多数。一方、学生のころよりお金や経済の歴史を研究し、別のペンネームでこれまでに30冊を超える著作を発表している。

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