売れ筋のビジネス書は、時代を映す鏡だ。そして、米国で売れるビジネス書がわかれば、しばらく経ってから日本のビジネスパーソンの必読書のトレンドになるものがわかる。今、米国ではどんな本が売れているのか。この記事では、米アマゾンでの今年上半期のビジネス部門のベストセラーを分析し、そのテーマと傾向を読み解く。

不確実な時代に進行する革命

米国,ビジネス書
(画像=Webサイトより)

いま米国で売れている本には、違った内容に見えても共通のテーマがある。そのひとつが、「不確実性」だ。

(1)『ゆるぎないもの(原題は Unshakeable: Your Financial Freedom Playbook )』

世界的に有名なファイナンシャルアドバイザーであるトニー・ロビンズ氏が2月に世に送り出した『ゆるぎないもの(原題はUnshakeable: Your Financial Freedom Playbook)』は、その題が示す通り、「経済のボラティリティに満ち、ありえなかった変化に揺らいでいる、あまりにも不確実な世界。そこにおいて、一般の人が身動きの取れなくなる取引の恐怖を利益へと変え、真の安心をもたらす」ことが目的の本だ。

具体的には、「近い将来に不可避の暴落や調整局面において、あなたとその家族を守り、利益を最大限化する戦略」が記されており、大きな経済的惨事が再び起こるとの前提で書かれていることが特徴だ。この著書が売れるということは、読者もまた市場の危機を予期していることを示す。

(2)『警告(原題は Warnings: Finding Cassandras to Stop Catastrophes )』

一方、著名コンサルタントのリチャード・クラーク氏などが5月に上梓した『警告(原題はWarnings: Finding Cassandras to Stop Catastrophes)』では、自分が警告を与えた誰にも信じられなかった、破局を象徴するギリシャ神話の悲劇の預言者カサンドラに因み、「米国経済だけでなく、米国防や西洋文明そのものに危機が訪れようとしている」と警鐘を鳴らす、異色のビジネス書だ。

そのような破局がやってくる経路として、人工知能(AI)の暴走や生物科学の悪用、など、文明の内側からの崩壊を予告している。ロボットや人工知能に、人間の仕事や決断のプロセスさえ奪われるとの怖れが高まるなか、時代の方向性を読み解き、人々が知りたい対処法を示す。

(3)『理解のカギ(原題は Sensemaking: The Power of the Humanities in the Age of the Algorithm )』

フォード、アディダス、シャネルなどの一流企業でキャリアを積んできた経営コンサルタントのクリスチャン・マスビェア氏が3月に出した『理解のカギ(原題はSensemaking: The Power of the Humanities in the Age of the Algorithm)』は、「人間はAIのしもべになってしまった。企業は考えることをやめ、機械に思考を任せるようになっている。だが、顧客の心をつかむには、人文系の知識に基づいた経営が必要だ」と主張する、テクノロジー脅威論だ。

(4)『新興シリコンバレー企業の変える世界(原題は The Upstarts: How Uber, Airbnb, and the Killer Companies of the New Silicon Valley Are Changing the World )』

テクノロジー脅威論に分類されるもう一冊が、1月に出版されたブラッド・ストーン著の『新興シリコンバレー企業の変える世界(原題はThe Upstarts: How Uber, Airbnb, and the Killer Companies of the New Silicon Valley Are Changing the World)』だ。何かと話題の配車サービスのウーバーや民泊のAirbnb(エアビーアンドビー)に焦点を当て、技術と倫理が往々にして両立しないことを指摘し、テクノロジーに基づいたビジネスの将来像を占う。

(5)『第四次産業革命(原題は The Fourth Industrial Revolution )』

そうしたなか、「テクノロジーこそが不確実性を抑え、人類に希望を与える」とするのが、1月に出版されたクラウス・シュワブ著の『第四次産業革命(原題はThe Fourth Industrial Revolution)』だ。世界経済フォーラムの創設者であり会長でもあるシュワブ氏が、「この産業革命が、我々の働き方と生活を良い方向に根底から変える」と主張する、注目の書である。

シュワブ氏は、「人類史上かつてなかった人とテクノロジーの融合が、AIなどに仕事を脅かされる人間の能力を強化し、雇用などでエンパワーメントを与える」として、希望のパラダイムシフト、楽観的な将来を語っている。

新しいリーダー像

(6)『火花(原題は Spark: How to Lead Yourself and Others to Greater Success )』

不確実な時代に求められるのは、強いリーダーシップだ。興味深いことに、1月に発売されたアンジー・モーガン氏の他、米海兵隊や米空軍の元将校が著した『火花(原題はSpark: How to Lead Yourself and Others to Greater Success)』が、ビジネス書の売れ筋に入っていることだ。

指導者は生来の才能を持つ少数の者にしかなれないという常識に挑戦し、「誰もが群を抜くリーダーになる素質を持っている」と説くところがウケている。そうした一般人が、いかに指導者に成長していくか、段階ごとに必要な訓練をわかりやすく解説する。

(7)『過激な率直さ(原題は Radical Candor: Be a Kick-Ass Boss Without Losing Your Humanity )』

キム・スコット氏が3月に世に送り出した『過激な率直さ(原題はRadical Candor: Be a Kick-Ass Boss Without Losing Your Humanity)』も、従来のリーダーシップ本とは少し違い、一方的に部下を引っ張るのではなく、十分なフィードバックを与えながら、部下に思いやりを示せと説く。女性著者らしい優しさが核心である一方、「部下に直接的なチャレンジを行え」とするなど、男性的なハードな手法も併用するように勧めている。この本には、フェイスブックの最高執行責任者(COO)のシェリル・サンドバーグ氏の推薦がついている。

(8)『二番目の計画(原題は Option B: Facing Adversity, Building Resilience, and Finding Joy )』

締めくくりは、そのサンドバーグ氏が書いた、『二番目の計画(原題はOption B: Facing Adversity, Building Resilience, and Finding Joy)』だ。2年前に突然夫を亡くした彼女が、愛する人を失う悲しみにどう立ち向ったかをまとめた本だが、4月の発売以来、ビジネス書としてベストセラーにランクインしている。

個人的な悲しみの克服体験がなぜビジネスに関係あるのか。それは、サンドバーグ氏が解決法を共著者のビジネススクールの教授(ペンシルヴェニア大学ウォートン・スクールで組織心理学を教えるアダム・グラント氏)に求めたからである。彼の支援を受けて、サンドバーグ氏は新しいリーダーに生まれ変わった。

『WIRED』誌はこの本を、「技術的な困難を解決するハッカーのように、逆境に立ち向かうことと、立ち直る力を身につける方法をテーマとした回顧録でもあり、科学的な解説書」だと評している。

答えを探し求める社会

このように、2017年にアマゾンで売れ筋となった米国のビジネス書ベストセラーは、①テクノロジーがもたらす不確実性や脅威に怯える社会の不安を反映、②地政学的・政治的・経済的イベントによる破局を予測、③そうした不安の時代の強いリーダー像の提示、④時代がリーダーに求めているものは思いやりや克服体験だと示唆、などの特徴がある。

この大きな流れのなかで、ベストセラー本は難問への回答としての「革命」を、さまざまな切り口と表現で提言している。米国のトレンドを追う日本でも、これらのテーマや解決策が、より深く議論されてゆくことになろう。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)

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