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こんにちは、経済学修士号を取得後、株価推定の事業・研究を行っている「たけやん」です。宜しくお願いします。

米国の対日貿易赤字が問題となってきた歴史の中で、変動相場制への移行やプラザ合意など、様々な取り組みがされてきました。そこには、経常収支の不均衡は為替レートの変動によって調整されるという理論的背景があります。経常収支の一部を構成する貿易収支も為替レートの変動に影響するでしょう。

そこで本稿では、貿易収支と為替レートの関係を見る事で、両者がどの程度連動するのかを見る事にします。まず、貿易収支について簡単に説明した上で、日米の貿易収支と為替相場の推移を概観します。その上で、日米の貿易額を用いて回帰分析を行った上で、その関係性について考察します。


貿易収支について

国際収支説(国際貸借説)という古い経済学の理論があり、その理論では、為替レートは国際貸借で決定する事が仮定されています。国際収支説では国際貸借の状況を代替的に経常収支で捉えるのですが、もしこの理論に蓋然性があれば、貿易収支を使ってもある程度は為替レートの説明が可能なはずです。貿易収支は経常収支の一部を構成するからです。

国際収支は、複式簿記上では経常収支・資本収支・外貨準備増減・誤差脱漏で構成されます。そのうち、経常収支は、貿易収支・サービス収支・所得収支・経常移転収支で構成されています。

為替需給全体で見れば貿易収支は一部に過ぎないように見えますが、この貿易収支でどの程度為替レートを説明する事が可能でしょうか。


貿易額・貿易収支と為替相場の概観

統計の連続性を考慮し、ここでは1995年以後の日米の貿易額・貿易収支を見ます。

図1は、日米貿易収支と円ドルレートの推移を示しています。日米貿易収支は、日本の対米輸出額から対米輸入額を引いたもので、要するに日本の貿易黒字(=米国の貿易赤字)です。図によると、両者は同様の動きを示している部分が多いように見えます。相関係数は0.632で中相関です。

図1:日米貿易収支と円ドルレートの推移

図1:日米貿易収支と円ドルレートの推移

出典:日米貿易収支は『 財務省貿易統計 』より計算。円ドルレートは『 世界経済のネタ帳 』。

注1:左軸は貿易収支(億円)。右軸は円ドルレート(円/米ドル)。

注2:特に断りが無い限り、以下に出てくる図にも出典と注1が適用されます。

また、対米輸出額と対米輸入額に分けて円ドルレートを比較したものが図2・図3です。相関の程度はいずれも高いようで、対米輸出額と為替レートの相関係数が0.803、対米輸入額と為替レートの相関係数が0.749となっています。

図2(上):対米輸出額と円ドルレートの推移

図3(下):対米輸入額と円ドルレートの推移

図2(上):対米輸出額と円ドルレートの推移

図3(下):対米輸入額と円ドルレートの推移


分析手法

では、貿易収支と円ドルレートの動きを説明する為に、ここでは回帰分析を2つ行います。(結果だけを知りたい方は、この節を読み飛ばしても問題ありません。)

一つは円ドルレートを日米貿易収支のみで説明する単回帰分析、もう一つは、対米輸出額・対米輸入額・日本の全輸出額・日本の全輸入額を主成分分析した上での重回帰分析を行います。

本稿で計量経済学的のテクニカルな説明は行いませんが、簡単に言えば、

単回帰分析:一つの説明変数(ここでは貿易収支)と被説明変数(ここでは為替レート)の間に式を当てはめ、被説明変数をどれくらい説明出来るのかを分析すること

重回帰分析:回帰分析において説明変数が複数存在する場合の分析

です。但し、輸出入額には変数間の相関が高く、そのまま重回帰分析を行うと多重共線性の問題が起こりやすいです。この場合、輸出額と輸入額は好景気ならばどちらも増える傾向にあり、不景気ならばどちらも減る傾向にあって相関係数が高く、そのまま説明変数に使う事には問題があります。そこで、対米輸出額・対米輸入額・全輸出額・全輸入額を主成分分析という方法で合成して新しい合成変数を作成します。

参考までに、以下にSPSSによる主成分分析の結果を示しておきます。

①

②

③

なお、主成分を求める式は以下の通りです。

主成分1 = -0.109x1 – 0.420x2 + 0.925x3 + 0.979x4

主成分2 = 0.941x1 + 0.841x2 + 0.360x3 + 0.125x4


分析結果

貿易収支で為替レートを説明する単回帰分析の結果は、

為替レート(円) = 0.000546 x + 73.9957376

自由度修正済み重決定係数:0.362 標準誤差:12.049

④

であり、日米の貿易収支では円ドルレートの36.2%しか説明出来ない事になります。(36.2%も説明出来ると言うべきでしょうか。)

主成分分析を用いた時の重回帰分析の結果は、

為替レート(円) = -7.364x1 + 11.023x2 + 107.557

自由度修正済み重決定係数:0.742 標準誤差:7.655

⑤

であり、対米輸出額・対米輸入額・日本の全輸出額・日本の全輸入額で為替レートを74.2%説明出来る事になります。


分析結果の背景

分析の結果、日米貿易収支だけでも円ドルレートの36.2%を説明出来る事が分かりましたが、一方で貿易額を分解して、そこから因子を抽出して合成変数を作り出す事によって、為替レートの説明力を大幅に高める事が出来ました。

貿易収支だけで為替レートを説明する事の限界には、「輸出と輸入の増減のダイナミクスが反映されていない」事が最大の理由でしょう。例えば、同じ「1兆円の貿易赤字の増加」といった現象でも、「日本からの輸出額の影響」が大きいのか「米国からの輸入額の影響」が大きいのかは、貿易収支額だけを見ても分かりません。

結局、貿易収支で円ドルレートを見る場合でも、個別の要因を出来るだけ分解して分析する必要があり、それが2つの分析の大きな差になっていると思われます。但し、貿易収支額についても、「貿易収支額の対GDP比」などの数値を用いて分析を行えば、為替レートをうまく説明出来る可能性はある事は補足しておきましょう。