はじめに
金融とIT技術を組み合わせた「フィンテック」の浸透、拡大は近年、世界規模の潮流として注目を集めている。国内市場においても2017年にマネーフォワードが上場し、2018年にはLINEがキャッシュレス分野に参入するなど、株式投資の1テーマとして確立されたと言えるだろう。また、日経新聞社が集計した未上場企業で企業価値100億円を超える「NEXTユニコーンランキング」においても、AIやIoTなどに並びフィンテック企業が上位にランクインした。今後このような企業が上場することもあるかもしれない。
一方で、急速にキャッシュレスが進んだ場合のセキュリティリスクなど課題も指摘されている。
本連載では国内外の潮流を追いながら、フィンテックが本当に成長産業として市場を牽引しうるのかに迫る。
【第1回】では2017年、2018年における大手企業によるフィンテック参入の動きをお伝えする。
多業種から大企業が続々と金融に参入
JAL <9201> と、SBIホールディングス <8473> は2017年10月3日、FinTech事業を手がける共同出資会社「JAL SBIフィンテック」を設立したと発表した。第1弾として国際ブランド・プリペイドカード事業に参入していくという。
2017年は他にも、サイバーエージェント <4751> やドンキホーテホールディングス <7532> など、異業種からの金融関連事業への参入が相次いだ。2018年に入ってからもLINE、エイベックス、クラウドワークス、エキサイトなど名だたる大企業、それも金融とは業種の異なる企業群が続々とフィンテックに参入している。その背景にはいったい何があるのだろうか。
異業種の金融事業へ参入する背景
自動車メーカーとGoogleが電気自動車で競うように、金融業界も他の業種との競争がはじまっている。
かつての銀行は、お金の振り込みや入出金業務を窓口で処理していたが、最近ではATM以外で銀行を使わないという人も多いのではないだろうか。ネットバンキングも発達し、振込も自宅や会社でできるようになったので、わざわざ銀行の窓口に行く必要がないからだ。また、税金などの各種支払いについてもコンビニで24時間支払いが可能なので、銀行に行く理由がなくなりつつある。
これらの変革は、銀行が人件費削減のために合理化の一環として行ってきたものだが、IT技術によって機械化や外部委託が進んだため、本来の銀行業務の必要性が相対的に低下している。
さらに最近は、電子マネーやクレジットカードの利用が増え、現金自体の流通量が減っている。現金が使われないということは、既に数字だけの世界になりつつある。数字だけならばコンピュータで処理ができるので、異業種でも比較的簡単に算入しやすい。
かつて小口支払いは現金対応が一般的であったが、その代表格である電車やバスは既に電子マネーの方が多数となっている。コンビニやスーパーも電子マネーでの支払いに対応している店舗が多い。レジでの滞留は現金の精算業務によるものが大きいので、全てが電子マネー化されれば、レジの時間短縮と人件費削減が可能になり、消費者にとっても企業側にとってもメリットが大きいからだ。
コンビニは今や社会的インフラになりつつあり、ATMもコンビニで利用するのが定着してきている。セブンが銀行業を始めると言ったとき、銀行や他のコンビニ会社は窓口業務のない銀行などやっても意味が無いと冷ややかな目で見ていたが、2018年3月に発表された決算短信によれば、セブン銀行は通期の経常利益1166億5000万円のうち、96%を超える1124億8400万円がATM手数料などの役務取引等収益で占められている。
このような状況を見て、ローソンは2018年9月にローソン銀行を開業し、ファミリーマートはゆうちょとの連携を強めている。とはいえ、後発組がセブン銀行に収益面で追いつくのは至難の道だろう。