中国の若者の生活は簡便になる一方である。かつて外出時の持ち物に、財布は必携だった。それが今はどこへ行くにもスマホ1台でよい。大都市では、外食、映画、ショッピング、何を支払うにも「支付宝」「微信支付」さえあれば事足りる。現金盗難の心配をする必要もない。モバイル決済は、伝統的な支払い方法を淘汰しつつある。近付く無現金時代の見通しと当局のスタンスを、ニュースサイト「今日頭条」「捜狐」などが伝えている(1元=17.15円)。

支付宝と微信支付

中国経済,キャッシュレス,今日頭条,捜狐
(画像=Freer / Shutterstock.com 2018年1月1日、中国・中山市で撮影)

民間調査機関・艾瑞のデータによると、直近のモバイル決済シェアは、阿里巴巴の「支付宝」54%、騰訊の「微信支付」40%、この2大企業集団で94%を占めている。このテリトリーを“統治”しているといってもよい。手数料収入(0.6%)を得るだけでなく、両者のビッグデータ収集源にもなっている。両者シェア争いは譲れない。この競合関係は、モバイル決済の普及を大きく後押しした。

同じく艾瑞のデータでは、2016年、中国のモバイル決済規模は、9兆ドルに達した。2017年には10兆ドルをはるかに超える。この金額の0.6%は600億ドルに達する。これは国内有数の大都市のGDP水準である。

一方2016年の伝統的現金消費額は、10兆ドル(66兆人民元)であり、この数字は2年で10%下落している。これにより国有銀行各行は、2015年だけで、23憶ドルのカード手数料を失っている。

なお2016年のモバイル決済の伸びは380%に達し、この年が決済変革の画期として記憶されることになりそうだ。さらに2020年には2016年の6倍が見込まれるなど、拡大はどこまでも続きそうな勢いだ。中国は正に無現金時代に突入しつつある。

人民銀行(中央銀行)のスタンス

この状況を中国人民銀行(央行)は、あまりお気に召していないようである。央行は現在新しい決算システムを構築中だ。阿里巴巴や騰訊のモバイル決済もすべて、央行の新しいシステムを通さなければならなくなる。そして2017年、央行はモバイル決済各社に対し、94件の違反行為を指摘、罰則を出している。その罰金総額は2500万元に近い。また24社のモバイル決済許可を取り消した。

これらは、いずれも業界に対する命令や指導である。新しい業界と不正行為はセットのようなものだ。中国ではよく「業界の整頓」と表現する。当局の使命ともいえるものだ。ところが昨年12月末、央行は“条碼支付業務規範(試行)的通知”(以下通知)を出し、利用する側に対する規制スタンスを明確に表明したのである。

QRコードスキャンは1日500元

通知の内容を見てみよう。現金決済以外の支払いをA、B、C、Dの4級に分け、それぞれに制限を設ける。

A級……デジタル証書または電子署名+指紋認証と暗唱暗号。1日の限度額は金融機関が自主設定。
B級……指紋認証と暗証番号。1日5000元以内。
C級……指紋認証または暗唱番号。1日1000元以内。
D級……QRコードスキャン。1日500元以内。

これに対し、ネット上では「500元ではとても足りない。これは計画経済か?逆行だ。正しいことだと思っているのか。一体どういう感覚だ。人民の望みに背いている。央行は低能だ。」などの声が上がっている。

央行の意図は、不法分子による詐欺被害の一掃、小口金融の過熱防止、ひいては金融そのものの安定にある。それはわかる。しかしそれ以上に、正常な経済活動への支障が大きそうに見える。個人消費を冷え込ませかねない。これは無現金時代実現への避けられない踊り場なのだろうか。

通知には試行とあり、実施は4月1日からである。しばらくの間、央行と人民の間でせめぎ合いが続きそうだ。これはなかなかの見ものである。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)