仕事をためないために「毎日やる」ことは重要ですが、そこには困難な壁が立ちはだかり、毎日やると決めても仕事がたまりがちなものです。また、週に一度の「タスク」も実行機会を失えば取り返せなくなり、仕事がたまってしまうことになります。このような仕事がたまるのを防ぐためのコツを身に付けていきましょう。

(本記事は、佐々木 正悟氏の著書『仕事の渋滞は「心理学」で解決できる』=KADOKAWA、2017年12月22日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

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「毎日やる」ことが大事

仕事をためないために何より必要なことは、基本的にルーティンタスクを毎日繰り返すことです。

1週間おきとか、1ヵ月おきにやればいいと思うようなことも、とにかく毎日繰り返すのです。

「受信トレイ」のチェックや処理も毎日やるべきですし、郵便物の処理だろうと、経費精算だろうと、とにかく「5日分をためて金曜日にやる」というやり方を避け、可能な限り、ありとあらゆることを「毎日やる」ことが大事なのです。

1日なら数秒で済む話

たとえば私のフリーランス仲間の大半が、毎年1〜3月になると、「確定申告問題」で慌て始めます。

この光景には、毎年どうしても解せないものを感じてしまいます。

単純に、税理関係の処理は「毎日」行うべきです。なぜなら、経費にかけたものが「何」であり、「何のため」であり、「どこで」「いくら」使ったかは、当日が一番よく分かっているからです。それに、当日のレシートには、当日の日付しか刻印されていません。

当たり前のことではありますが、それを翌日のレシートと交ぜてしまったら、当日分、翌日分と、仕分けしなければなりません。

もし、日付別にきちんと分けられたレシートの山を見た幼稚園児などが、面白がってゴチャゴチャに交ぜてしまったら、仕分けした人は怒るでしょう。

かなり温厚な人であっても、苦労して仕分けした直後だったら怒ると思います。要するにそれと同じことなのです。

すべてレシートは、それを手にした時点では日付順に仕分けされているはずなのに、それをためる人というのは、結局仕分けされたものを交ぜてしまっているのです。請求書であれ、領収書であれ、同じことです。

「後でまとめて処理する」というのは「交ぜる」ということに限りなく近いのです。

1日1回1分で済ませる

「それは今いいから」「後でまとめてやるから」という言葉を、私はけっこう頻繁に耳にして、そのたびごとに、「後でまとめてやると仕事が〈1つ〉に減るという幻想が生まれるんだ」と考え込みます。私たちの脳はそういう機能を確実に持っているのです。

「後でまとめる」ということはだいたいにおいて、仕事を増やします。もともと不要だった「仕分ける」「整理する」「記憶を掘り起こす」といった「仕事」が増えるからです。

大したことではないということもあるでしょう。でも「増える」ことはあっても「減る」ことはないのです。

たしかに、私は「税務処理」をほぼ1年に「365回」やっています。一方、まとめて1日でやる人は「年に1回」で済ませられてはいます。

その意味で、回数においては1日で済ませている人は私より364回減らすことに成功してはいますが、時間は確実に私のほうが短いでしょう。

もちろん私は疲れることもないし、記憶を掘り起こしたり、日付の記入ミスに悩むこともありません。ほぼすべてのデジタル式入力ツールは、「今日の日付」をデフォルトにしているので、当日分のレシートを転記する際に「日付の入力」など不要なのです。

メール返信やメッセージ処理もそうなのですが、この種の「1回にまとめる」という回数が減る幻想にはしかし根深いものがあって、どうすればその「苦行」をこの世から減らすことができるのか、いつも伝え方に悩みます。

確実に言えることは、365回の作業を1分ずつやるなら、全部で6時間で済みます。そのすべてを「年に一度でまとめてやろう」としたら、丸1日がかりでも終わらない作業になってしまうのです。

「毎日やる」の困難さ

「毎日やる」というのは実に難しいことです。たとえば毎日、1日も欠かさずに日記をつける、ということをやってみれば、その難しさがすぐに理解できます。

また、「毎日ブログを更新する」などということを実践している人もいますが、これは実に大変です。

ネタが続かなくなるということより前に、書く理由がすぐになくなって、そして半永久的に書かなくなってしまうのです。

毎日続けることの何が大変かというと、「それをする時間」をとることができなくなる日が、かならずやってくるからです。

たとえば夜に日記を書くことにしたとして、ある日は夕方からずっと飲み会で、帰宅したときには酔いつぶれそうだったとしたら、どうでしょう?

日記のように、ただあったことを、誰にも見せないノートに書くことすら難しいのに、仕事の記録を残すとか、経費精算をするといったことを「毎日続ける」となったら実に難しい。というより、実はたいていの人にとって、これはできないことなのです。

毎日関われる時間帯を見つける

私は、毎日まったく同じことに携われる時間帯を見つけるというのは、実は不可能に近いくらい無理のあることだと考えています。これは、経験からそう思うのです。

私などは在宅で仕事をしています。だから、やろうと思えば、会社員の人よりは、容易に毎日同じことを、同じ時間にやれるはずです。

しかし実際には、たとえば毎日「早朝に散歩をする」といったことすら、とても難しいのです。

「早朝」には寒くて雨降りの日もあります。また、前日の夜に子どもが突然、熱を出すこともあります。さらに、足が痛いという日もあります。また、前の日、セミナーなどで夜遅くに帰ってきて、そもそも朝早くに起きられないこともあります。

つまり、「毎朝早朝に散歩する」というその「早朝の時間帯」を自分のために確保できないのです。

確保できる時間帯はあるのか?

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(画像=PIXTA)

それなら、いつだったらまとまった時間がとれるのでしょう?

これが私の経験上、ほとんどどんな時間帯でも、無理なのです。早朝が無理であれば、午前中はもっと無理です。

子どもが病気になり得るのはどの時間帯でも同じことですし、電話や、不意の訪問者があることもあります。これらは昼でも夜でも同じことです。

ならば「毎日」でなくてもいいではないかと思われるでしょうが、「毎日」でなくてもいいとなると、週にたとえば7日のはずが5日になり、忙しくなると3日になり、気がつくとゼロ日になってしまうのです。

これが仕事のたまる最大の難所です。「毎日やる」と決めて、ようやく週に3〜4日やれればいい方、というのが現実なのです。

したがって、最初から「週に3〜4日やろう」ではいけないのです。また、ただ「毎日やろう」というのもよくないのです。毎日、10時から12時の間にやることにする。なぜならその時間帯なら毎日できるはずだからだ、というのでなければ、後々かならず、「今日はできない。明日もできない。明後日も無理」というときがやってきてその仕事がまったく進まなくなるでしょう。

もちろん、会社員の場合には10〜12時の間に決めたのに、ミーティングがあったり、上司に呼び出されたり、後輩の頼まれ事をしたり、取引先からクレームが入ったり、といったことがどんどん重なって、気がつけば週にゼロ日ということになるはずです。

だから、「毎日この時間帯には間違いなく仕事を進められる」という時間帯はあったとしても、きわめて短いはずです。毎日同じ時間帯にできることは、あったとしてもせいぜいたった1つのプロジェクト。そう思っておいて間違いありません。

失敗すると取り返せない「タスク」

もうお分かりになると思うのですが、週に一度だけ実行する必要のある、繰り返しの「タスク」は、非常に難しい仕事です。

簡単に言うと、「たまりやすい」のです。

毎日やる仕事というのは、たとえ毎日できなかったとしても、挽回する機会に恵まれています。

しかし、週に一度しか実行機会がない仕事は、たとえば毎週月曜日の仕事を一度やり逃してしまうと、次の月曜日がくるまで待たなければなりません。

この最適の例は、収集日に出すゴミです。毎週水曜日にペットボトルが回収されるとすれば、もし水曜日を逃すと、14日分のペットボトルが家にたまることになります。

まさにこれが「仕事がたまる法則」なのです。

GettingThingsDoneというアメリカ発の有名な仕事術があります。その詳細をここで説明することはしませんが、その中で有名になった「週に1回、仕事のシステムを総点検する」ための「週次レビュー」という考え方があり、これに失敗するという人が多いのです。

なぜなら、週に一度しか機会が訪れない「週次レビュー」を、たいていの人は土曜日にやろうとするわけですが、何らかの理由で土曜日にやり損なうと、2週間分の「週次レビュー」がたまってしまって、実行する気力も時間もなくなってしまうのです。

週に一度のことは、かならず午前中にやると決める。こうして仕事がたまるのを防ぐために、打つことのできる手がいくつかあります。

その1つが「毎週一度しかやらないことは、かならず午前中に予定する(月曜日の午前中がベスト)」ようにすることです。

こうする理由は単純で、午前中にやろうとしていれば、仮に午前中やり損なったとしても、午後、または夜に実行できる可能性があるからです。

これが、たとえば「週に一度金曜日の夜にする」などといった計画ですと、たまたま「プレミアム・フライデー」があっただけで、仕事がたまってしまいます。週に一度しかやらないことを、夜に計画するなどというのは、きわめて無謀な話です。

週に一度やることを午前中に定めたら、次にやるべきは、実行の前日に、当日になってそれが実行できるかどうかを検討することです。

毎週水曜の朝にやることになっていたら、火曜の夜には、水曜朝に週一タスクを実行できるかどうかを考えるのです。

最後に、もしそれができそうもないなら、木曜日にできるかどうかもそのタイミングで検討します。つまり、週一タスクを「実行できるかどうか」について、毎週前日には検討する、無理そうならその翌日にやれないかを検討するという「タスク」をあらかじめ用意しておくのです(ゆえに週に一度のことは、週の前半、特に月曜日の午前に予定するのがベストです)。

こうまでしても、なかなか週に一回のタスクを予定どおり確実に実行するのは困難です。しかしこれは確実に実行するべきです。なぜなら、2週分ためてしまうと、ずっと続いていたことですら急に破綻しかねないからです。

昨今、世間を騒がせている「ゴミ屋敷」の問題では、そのきっかけに、「ゴミ収集のタイミングを何度も逃しているうちに、ゴミがたまってしまった」というものがあります。その家の人は、ゴミをまとめることもできれば、掃除もできるのです。それでも、ゴミ収集のタイミングを逃してしまったばかりに、家にゴミがたまってしまった……。

分別さえすればいつでもゴミの出せるようなマンションなら、こういうケースはあり得なかったでしょう。毎日やればできることを、週に一度にまとめるとできなくなる。そういうことは起こり得ることなのです。

たまる作業とたまらない作業がある

たとえば週に1回しか収集されないゴミを一度出し損ねてしまうと、どんどんたまっていってしまうし、仕事でもそういうことになるといった話をしました。

したがって、ルーティン化されている作業は、確実に毎日、毎週、毎月こなすようにしていかないとならないわけですが、一方で一度や二度スキップしたとしても、たまることはない作業もあります。

たとえば爪を切るということは「ルーティン」ですが、たとえ週に一度爪を切ることにしていた人が、たまたま2週間放置していたとしても、爪切りに2倍の時間が必要にはなりません。

何が言いたいかというと、2回分をためてしまったら2倍以上時間がかかることになる仕事と、そうはならない仕事とがあって、ためてしまったら長い時間を要する仕事ほど、毎日やるようにする必要があるということなのです。

一般的に言うなら、メールチェック、郵便物の処理、経費精算などは、可能な限り毎日やるべきでしょう。

これらの仕事は、ためた分だけ確実にたまり、しかもためるほど処理に余計な時間がかかるからです。

一方で、ミーティングなどは、なるべく定例でやらないほうが時間の節約になります。

どうしても定例でなければならないなら、その頻度を少なめにするほうが、時間節約のためには効果的です。

よほど効率的なミーティングを心がけていない限り、ミーティングを1回「ためて」しまって2回分をまとめたからといって、2倍の時間を要することはあまりありません。

非常につまらないことを言うようですが、たとえば会議前には「ちょっとした雑談」とか「挨拶のようなやりとり」をするのがふつうです。2回の会議を1回にまとめたからといって、雑談を2回やるとか、挨拶を2回やるといったことはないはずです。

つまり、ほとんどのミーティングは、回数を減らしても2倍、3倍、4倍の時間が必要にはならないのです。であれば、時間節約の観点からいえば、まとめられるだけまとめてしまったほうが、より大きな効果を期待できるわけです。

もちろんだからといって、必要な会議はありますし、「親睦」という観点から集まるということもあるでしょう。しかし、もし「親睦」がメインテーマであれば、それに徹することが大事です。「親睦」を兼ねてよく分からない目的のために集まって時間を無為にすれば、現実に仕事のために時間を使わねばならない人が、本当に困ったことになるからです。

まとまった時間は「計画」に使う

一般論として、まとめてしまうと時間がかかることをまとめてしまってはいけないのです。これは何度も言いたくなるくらい、無視されている法則です。

会議の記録などは特にそうです。思い出す時間がムダになるので、後でまとめてやるのに向きません。

一方、ミーティングとならんで、そこそこ「まとめて」しまったほうがいいのが「計画」です。計画は、作り直すことはもちろん必要なのですが、毎日毎日マメに作るよりは、まとめてきちんと作ることに意味があります。

つまり、まとまった時間ができたら、可能な限りそれを計画作成にあて、作業時間にするべきではないのです。作業時間は、まとめて取るよりも、やはりマメに細々取ったほうが現実的です。

計画作成自体は、それで作業が進むわけではないため、まとまった時間を使うと時間がもったいないと思われるせいか、そのために時間を取るということがなされません。しかし計画は、3ヵ月とか半年など、ある程度の期間の「時間の使い方」を左右するものです。それによって、時間がムダになったり有効活用できたりするものなので、時間をかけるに値するのです。

ドラえもんの失敗

藤子・F・不二雄さんの『ドラえもん』に「ドラえもんだらけ」という小話があります。

ご存じの方も多いでしょうが、この話は、相変わらず宿題をため込んでいたのび太くんが、うまいこと全部ドラえもんに押しつけてしまうところから始まります。

とても朝までに片づく分量ではないと思ったドラえもんは、タイムマシンを使って未来から数時間後の自分を連れてくることにします。

5人の自分で取り組めば、時間も5分の1で済むわけです。こうして2時間後、4時間後、6時間後、8時間後のドラえもんが一堂に会し「ドラえもんだらけ」になるわけです。

大人になって考えてみれば、ですが、これでは結局仮眠をとりながら徹夜で宿題をやっているのと何も違いがないと分かります。

現に、8時間後のドラえもんなどは、宿題を終えて眠ったと思ったとたん2時間後、4時間後、6時間後、そして8時間後にもたたき起こされることになって、ボロボロです。

「平準化」ではなく「思いやり」

5人の自分で片づければ、時間も5分の1で済むというのは時間管理の基本です。現に私たちはそうした発想に基づいて、たとえば30日間かかる仕事を30日に振り分けるのであって、それを1日でやろうとはしないわけです。

そういう中で、たとえば計画を立て間違えたりすると、ある日(たいていは締め切り間際の日)に仕事が集中することになって、「8時間後のドラえもん」みたいなことになってしまいます。つまり、やってもやっても仕事が終わらず、終わった頃にはボロボロになってしまう。

長期的計画を組む際に、可能な限り多くの日数を割り当てて、ある一時期や、ある特定の日に集中的に仕事をせずに済むようにすることを指して、よく「仕事の平準化」と言います。要は、毎日「食べきれるサイズ」にあらかじめ割っておけば無理なく仕事を進められるということでしょう。

結果としてはそうなのですが、自分で自分の仕事を分けるのですから、もっと思いやりを持ちたいものです。

「結局は平準化ということですね」とばかりに、総仕事量をただ日数で割るのではなく、その日その日の自分の状況をよく検討して、その日の何時頃に、どんなことをやったらいいのか。

もし終わらなかったらどこか他の日に再度割り振ることは可能なのかまで、細かく自分に「手紙を書いておく」ことが望ましいのです。

私はこれを、グーグルカレンダーのような、クラウド型のデジタルカレンダーに書くようにしています。たとえばこの本を書いている8月3日に書かれていることには【終わらなければ8月8日に追加分を書く】とあります。

こういう申し送り事項を細かく書いておくことで、「仕事に取り組んでいる自分たち」をつないでいくことができます。こういうちょっとしたことが「仕事をためない」結果につながるのです。

「自分たち」の言い分をもっと聞こう

同じ意味で、仕事が終わったら、そこでパタッとやめてしまう前に、少しつらくても「どうしてつらかったのか?」を書き残すことが非常に重要なのです。

「ドラえもんだらけ」を読むとつくづくそうだと思いますが、「2時間後の自分」と「8時間後の自分」が感じることはまるで違います。

1つのプロジェクトの中で「自分たち」が思うこと、気づくこと、後悔すること、悩むことは実に様々です。

私は本を書く仕事をしていますが、1冊1冊本を書いている最中の「日々の自分が考えたこと」をかならず全部、書き残すことにしています。

これらの記録を読み返してから本を書く仕事に取り組むと、いつも「締め切り」を1日でも延ばしておいてもらうことにずっと真剣になれますし、いつ、どんな理由で「投げたく」なるかも予測できるため、なるべくその「芽」を摘んでおくこともできるようになります。

佐々木 正悟(ささき・しょうご)

心理学ジャーナリスト。「ハック」ブームの仕掛け人の一人。専門は認知心理学。1973年北海道旭川市生まれ。97年獨協大学卒業後、ドコモサービスで働く。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、04年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。帰国後は「効率化」と「心理学」を掛け合わせた「ライフハック心理学」を探求。執筆や講演を行う。