総額運用資産1500億ドルの巨大ヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエーツを率いるレイ・ダリオ氏が、220億ドル相当の大手欧州企業株をショートポジションで積み上げていることが明らかになった。

ダリオ氏はかねてからかつてない規模にまで拡大した所得格差や欧米を中心に拡大するポピュリズム、先進国における生産性の低下など、市場を不安定にさせるマイナス要因に警告を発しており、市場が「事業および短期的な債務サイクルの末期」にさしかかったと確信している。

サノフィ、ユニリーバ、Adidas株などで空売りポジション

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(画像=Getty Images)

レイ・ダリオ氏が過去数週間にわたり空売りを行っている大手欧州企業株の総額は、216.5億ドルにものぼるという。

フィナンシャルタイムズ紙2018年2月16日の報道によると、空売りポジションをとっているのは、収益の半分以上が欧州圏外というサノフィやシーメンス、ユニリーバ、Adidas、イタリアの高級アパレルMoncler、欧州での売上げが全体の3分の1にも満たないAirbusなど、少なくとも9銘柄だ。

ブリッジウォーター・アソシエーツがつい最近まで株式市場の繁栄ぶりを歓迎していただけに、この矛盾した戦略に市場に困惑を禁じ得ない空気が流れている。

ダリオ氏自身も今年1月のダボス会議に参加した際、「インフレーションは問題ないし、成長も文句なし」との見解を示し、「(株に投資せずに)まだ現金をもっているのなら、後悔するだろう」とコメントしていた。

「好況でも株価や資産価値は下がる」?

しかし今年2月、ダウ平均やS&P 500種の一時的な暴落が市場を不安におとしいれた際、共同CCIOのボブ・プリンス氏が「混乱の回復には時間を要するだろう」 と指摘。長期間にわたり加熱気味だった市場が調節期に入ったとの見方は、JPモルガン・チェースの国際複合資産戦略家なども示している。

市場の混乱後、ダリオ氏はLinkedInの寄稿の中で、「底固い経済が株価や資産価値の下落をともなうのは珍しいことではない」とし、「好況なのに株価が下がるとは夢にも思わない投資家は、市場がどう動くか分かっていない」と述べている。

ダリオ氏いわく、市場は「事業および短期的な債務サイクルの末期」にさしかかっている。世界経済を動かす3大原動力は「事業・短期的な債務サイクル」「長期的な債務サイクル」「生産性」で、財政政策と金融政策がこれらをコントロールしているという。

同氏は昨年5月の時点で、世界市場は「短期的債務サイクルの中盤にある」と判断していた。周期がめぐり、いよいよ末期にさしかかったということになる。債務総額が膨張し、年金や医療、福祉などの非債務が経済を圧迫しているが、中央銀行の力では修正できる範囲に限度がある。

それに加え、ポピュリズム、テロ、移民問題、内部紛争、所得格差といった問題が、世界平和に暗い影を落としている。かつて連動していた世界経済と世界情勢のバランスは崩れ去った。

生産力の低下も軽視できない。発展途上国の平均実質GDP成長率が4%を上回っているのとは対照的に、先進国の平均は2%にも満たない(IMF世界経済見通し2016年データ参照)。 生産性の低下は経済成長に歯止めをかける。

「強気の2018年」ではなく、1年、2年後に焦点を当てた見解

ダウ平均、SP500種による市場の混乱直後、ダリオ氏は「周期の循環が予想以上に速度を上げていることに気付いた」ものの、「市場が末期サイクルのどこに位置するのかは分からない」と認めている。「債券市場はピークに達した」が「株式市場や経済のピークにいつ達するのかは不明」である。

利益成長の速度が金利が上がる速度を上回れば、市場は強気に傾く。多額の現金が余っている状態であれば最後にもう一度株価が高騰し、中央銀行が利上げに踏みきる—ダリオ氏はこの古典的な方程式を、株式市場のピークを見極める決定要因としている。

中央銀行の金融政策が市場のバランスをとれる限界は超えており、すでに切り札はでつくした感が強い。ダリオ氏が「1年半〜2年後に景気後退に突入する危険性が高まっている」と懸念する要因はそこにある。

そうした観点から、多くの投資家が「強気の2018年」に焦点を当てて動いているに対し、ブリッジウォーター・アソシエーツは「2019、20年に焦点を当てて動いている」。2019年にはBrexit、2020年には次期米国大統領選も行われるなど、市場に大きな影響をおよぼす要因もひかえていると考えると、ダリオ氏の懸念は決して度を越えているとはいえないだろう。

英投資企業CEOが反論「欧州大手企業株にはとてつもない価値がある」

ダリオ氏の賭けが吉とでるか、凶とでるか—専門家の意見は様々だ。

ダリオ氏はイタリアの銀行インテーザ・サンパオロの株も、ショートポジションで積み上げている。ロンドンを拠点に総額120億ドルを運用するアルジェブリス・インベストメンツのデヴィッド・セラCEOは、これに反論。欧州の大手企業には「とてつもない価値がある」とし、欧州中央銀行が政策を正常化し利上げに踏みきれば、「イタリアの銀行の利益力は強力に高まる」とブルームバーグのテレビ取材で語った。

つまりダリオ氏の予想は見当違いで、ブリッジウォーター・アソシエーツは大損をこうむるとの予想だ。

アルジェブリスが昨年9月の時点で、資産の20%をイタリアの銀行の株や社債に投じていた事実を考慮すると、セラCEOが異議を唱えるのも無理はない。

ダリオ氏の懸念が的中するか、セラCEOのような楽観的予想が的中するかは、周期を一回りして初めて明らかになるといったところだろか。ダリオ氏は希望材料として、「2007〜2009年に見られたほどの脆弱性は市場や経済から感じられない」点を挙げている。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)