長期金利上昇に対する市場の恐怖を背景に米国が震源地となり、2018年2月に突然起こった世界同時株安。その後、金融・資本市場はひとまず落ち着きを取り戻しているが、米10年物国債の利回りが3%に近づくなど波乱要因は消えておらず、安値を再び試す可能性もある。

こうした市場の乱高下の増大は懸念要因だが、それよりも怖いのが、米国や世界が景気後退に沈むことだ。すでに2008年の金融危機後の経済回復は10年間と、1周回した感が強いだけに、不安も高まる。

米著名人投資家にも、「2018年の後半から2019年にかけて、金融危機が到来する可能性がある」との説を唱える一派が現れ、現下の市場の不安定さと併せて、注目を浴びている。

ダリオ氏は「2019年に景気後退」

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(画像=Getty Images)

約1620億ドルの資産を運用する世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエーツを率いる「ヘッジファンドの帝王」ことレイ・ダリオ氏は2月21日のハーバード大学での討論会で、「2020年の次回の米大統領選挙より前に、米経済が景気後退に陥る可能性は70%くらいだ」と述べて大きな注目を浴びた。

ダリオ氏はこれに先立つ2月12日に、「2019年から景気後退が起こる可能性が高い」と述べている。2008年の米金融危機やその後の欧州の債務問題など市場の危機を予見したことで投資家から信頼されるダリオ氏は、2019年に経済が後退する理由として、「トランプ米政権が巨大な減税や財政出動で経済のアクセルを思い切り踏み込み、それが逆効果を生むからだ」との見解を表明した。

政権の一連の政策が米経済を過熱させ、結果として米連邦準備制度理事会(FRB)の金利引き上げによる金融引き締めにつながり、資産価格が軒並み下落するという「トランプリスク」のシナリオだ。事実、ダリオ氏は「米経済はバブルの寸前であり、すぐにでもバブルになり得る。それに続くのは相場の崩壊だ」と分析している。

実はダリオ氏は、2017年夏ごろから弱気な相場観に傾いていた。その時も理由は、①北朝鮮の核ミサイルをめぐるトランプ大統領と金正恩朝鮮労働党委員長のチキンレースと、②米議会が2017年秋に債務上限引き上げに失敗し、米政府が債務不履行に陥り、政治への信頼が失墜することという、「トランプリスク」だった。これらによる相場の下落は結局実現しなかったのだが、ダリオ氏にとっては、トランプ大統領が景気後退の引き金を引くという確信が変わっていないようだ。

そうしたリスクの中で、どのような投資戦略が有効なのか。推定純資産177億ドル(約1.9兆円)のダリオ氏は、「人と反対のことをせよ」と助言する。

「自分の中に怖れがない時にこそ売り、恐怖に襲われたなら、その時には買え。相場が上げて皆が買っている時は株価が高過ぎるのであり、相場が崩れて人々が『最悪だ』と考えている時こそ、安いからだ」と、ダリオ氏は言う。

さらに、「数億ドル払って情報を入手しているプロに勝ち目はない。そういう連中と張り合えば負ける」と付け加えた。国際情勢からマクロ経済、金融政策、歴史、社会のトレンドなどが引き起こす需給の変化を綿密に調査し、そこから価格の大きな上昇または下落を予想してポジションをとる「グローバル・マクロ」方式を重んじるダリオ氏ならではのコメントだ。

討論会で同席していたローレンス・サマーズ元米財務長官は、「ダリオ氏のアドバイスは聞くに値する」と賞賛した。

景気回復局面の終わりや債務の増大も危ない

S&P グローバル・レーティングは2019年夏まで、米国史上2番目に長期間となった現在の景気回復局面が継続するとしているが、米バンクオブアメリカ・メリルリンチの2月の投資家意識調査では、「この局面は景気循環の最終段階に来ている」とする回答が多かった。 米投資企業のグーゲンハイム・パートナーズに至っては1月に、「2019年末か2020年に次の景気後退がやってくる」と予想している。ダリオ氏と類似したタイムラインだ。

景気後退とは言わずとも、「トランプ政権のアクセルの踏み込みによる経済の過熱とFRBのブレーキによる不整合で、市場の乱高下が起こる」という見立ては、多くの投資家が共有している。米ゴールドマンサックスのロイド・ブランクファイン最高経営責任者(CEO)もその一人だ。

ダリオ氏とロジャーズ氏の"見方"の違い

こうしたなか、「歴史的大局観のグローバル・マクロ投資法」で知られる大物投資家のジム・ロジャーズ氏は、従来からの「大きな危機がやって来る」という持論を改めて展開している。ロジャーズ氏は2月8日、「前回の金融危機以降、グローバル経済の債務がさらに積み上がり、米国ではそれが特に顕著だ」と指摘した。

また、その後のS&P グローバル・レーティングによるインタビューのなかでロジャーズ氏は、「イエレン前FRB議長は、彼女の生きている間に危機は二度と起こらないと言った。だが、私は彼女が間違っていて、危機は再びやって来ると考えている。それは、私の人生で最悪の危機になる」と主張した。

ダリオ氏が「トランプ大統領の経済拡大政策に、FRBがブレーキをかけようとして危機が起こる」という見方をするのを対し、ロジャーズ氏は「(金融危機後の世界的な規制強化にもかかわらず)世界中で債務がさらに増えた」ことを挙げるところが違いだ。債務が膨れ上がっていることに注意を喚起するのは、2月13日に米経済ニュース専門局CNBCの番組に出演したエール大学のシニアフェロー、スティーブン・ローチ氏も同じだ。

ロジャーズ氏が分析する「避難場所」

ロジャーズ氏の分析で注目されるのは、こうした不安定な状況の中で、「安全資産である米ドルが2018年から2019年にかけての避難場所になる」としているところだ。米経済のファンダメンタルズに根差した買いではなく、不安の市場心理から来るものだ。

そのため、「米ドルは、実は安全な避難先ではない」という。「米国は世界史上最大の債務国で、債務は拡大を続けている」からである。ロジャーズ氏は、「米ドルが買われ過ぎ、バブルに発展する可能性がある」とさえ言う。実際にはドルは売られて安くなっているのだが、次回の金融危機では彼の予測通りになるかも知れない。

このように、近い将来における金融危機の到来を予想する著名投資家が存在することは、留意が必要な点だ。トランプ政権の財政出動拡大は続き、それに合わせてFRBの利上げも進んでゆく。3月に連邦公開市場委員会(FOMC)が利上げを決定した場合、市場が素直に受け入れるのか、それともかんしゃくを起こすのか。それが「2019年の金融危機」のプレリュードとなるのか。目が離せない。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)