はじめに
米国の景気拡大局面が長く続いている。2009年7月に始まった景気拡大は2018年7月で10年を超えた。
しかし、トランプ大統領の経済運営は不安定で、米連邦公開市場委員会(FMOC)の政策金利の利上げペースにも「景気を冷え込ませるのではないか」との指摘がある。また、現在の景気拡大はバブルではないのか、という懸念も一部から示されている。
果たして米経済の現状をどう見たらいいのだろうか。米市場関係者らの見立てを報告する。
※2018年2月配信記事を再編集したものです。
2月の株価下落はバブル崩壊の予兆だったのか
2018年2月上旬、米国の「エリート優良株クラブ」で構成されるダウ工業株30種平均(一般にはダウ平均として知られる)が1日で1000ドル以上下げる日が、1週間に2回も起こた。このとき、一部の市場関係者から「米株式バブルがついに弾け始めた」との声が上がった。
それまで、米経済は「ゴルディロックス」と呼ばれる適温経済状態だといわれてきた。堅調であり、熱すぎることもなく、不景気のように冷たくもないという意味だ。それでも、連日史上最高値を更新する米株式に、「バブルではないか」という声はちらほら聞かれていた。
その後、株価は復調し、このときの「バブル崩壊の危機」は杞憂に終わったが、バブルへの警戒は常に怠ってはならない。2月の下落局面で市場関係者らが米経済の状況をどう見ていたのか、振り返ってみよう。
「バブルではないが、高すぎる」との声も
そもそも、バブルとは何か。 「ウィキペディア」日本語版の定義によれば、「概ね不動産や株式をはじめとした時価資産価格が、投機によって経済成長以上のペースで高騰して実体経済から大幅にかけ離れ、しかしそれ以上は投機によっても支えきれなくなるまでの経済状態」を指すのだとされる。
2000年代の後半には米住宅価格のバブルが弾け、その後の金融危機や世界的な景気後退の引き金を引いたが、現在はどうか。供給が需要に追い付かない米住宅価格は上昇傾向にあるものの、住宅ローン金利は米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げに合わせてじりじりと上がって取引を抑制しており、米金融企業アーチキャピタルのチーフエコノミストであるラルフ・デフランコ氏は、「典型的な住宅バブルの兆候はほとんど見られない」と断言する。
焦げ付きが多発して明らかにバブルの領域に達しつつあった低所得者向けのサブプライム自動車ローンやクレジットカード負債についても、米ムーディーズ・アナリティクスのチーフエコノミストであるマーク・ザンディ氏は、「過去1年で貸出基準が引き締められたため、ローンの成長が著しく低下している」と述べ、家計にバブルのしるしが欠けているとの見解を示している。
経済評論家のティム・マレイニー氏も、「賃金にも、消費者の借金にも、そして確かに物価上昇率にも、まだバブル(を支える上昇)は見られない」と懐疑的だ。
では、株式はどうだろうか。ノーベル経済学賞を受賞したニューヨーク大学のポール・クルーグマン教授は、「資産価格は確かに高く見える。だが、懸念するほどではない。株価は2000年のITバブル当時ほど大きく過大評価はされていないように見えるし、住宅価格も2006年当時ほどは過大評価はされていないようだ」とした上で、「株式も住宅も同時に高値をつけており、1980年代の終わりに日本で株式と住宅のバブルが同時に弾けたような状況が起こらないとも限らない。資産価格が下落を始めれば、貯蓄をせずに買い物に勤しんできた米消費者が、消費から引く」と付け加えた。
2月初旬に退任したイエレン前FRB議長も同様の見解だ。2月2日にダウ平均が666ポイント下落したことについて、「株価が高すぎるとは言わないが、高いとは言える。株価収益率も歴史的に最高水準にある。また、商業不動産も非常に割高になっている」と指摘した上で、「これはバブルなのか、高すぎるのか。非常に判定しづらい。だが、資産価格がそこまで高くなっているのは懸念がある」と結んだのである。