米国の「エリート優良株クラブ」で構成されるダウ工業株30種平均(一般にはダウ平均として知られる)が1日で1000ドル以上下げる日が、2月5日に始まった1週間に2回も起こるなど、「米株式バブルがついに弾け始めた」との声が聞かれる。

つい最近まで米経済は「ゴルディロックス」と呼ばれる適温経済状態だといわれてきた。堅調であり、熱すぎることもなく、不景気のように冷たくもないという意味だ。それでも、連日史上最高値を更新する米株式に、「バブルではないか」という声はちらほら聞かれていた。

株式が調整局面に入ったと一部で評される最近の米国における、バブルに関する論調を探ってみよう。

「バブルではないが、高すぎる」

米国バブル,株式市場
(画像=Rob Crandall / Shutterstock.com)

そもそも、バブルとは何か。「ウィキペディア」日本語版の定義によれば、「概ね不動産や株式をはじめとした時価資産価格が、投機によって経済成長以上のペースで高騰して実体経済から大幅にかけ離れ、しかしそれ以上は投機によっても支えきれなくなるまでの経済状態」を指すのだとされる。

2000年代の後半には米住宅価格のバブルが弾け、その後の金融危機や世界的な景気後退の引き金を引いたが、現在はどうか。供給が需要に追い付かない米住宅価格は上昇傾向にあるものの、住宅ローン金利は米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げに合わせてじりじりと上がって取引を抑制しており、米金融企業アーチキャピタルのチーフエコノミストであるラルフ・デフランコ氏は、「典型的な住宅バブルの兆候はほとんど見られない」と断言する。

焦げ付きが多発して明らかにバブルの領域に達しつつあった低所得者向けのサブプライム自動車ローンやクレジットカード負債についても、米ムーディーズ・アナリティクスのチーフエコノミストであるマーク・ザンディ氏は、「過去1年で貸出基準が引き締められたため、ローンの成長が著しく低下している」と述べ、家計にバブルのしるしが欠けているとの見解を示している。

経済評論家のティム・マレイニー氏も、「賃金にも、消費者の借金にも、そして確かに物価上昇率にも、まだバブル(を支える上昇)は見られない」と懐疑的だ。

では、株式はどうだろうか。ノーベル経済学賞を受賞したニューヨーク大学のポール・クルーグマン教授は、「資産価格は確かに高く見える。だが、懸念するほどではない。株価は2000年のITバブル当時ほど大きく過大評価はされていないように見えるし、住宅価格も2006年当時ほどは過大評価はされていないようだ」とした上で、「株式も住宅も同時に高値をつけており、1980年代の終わりに日本で株式と住宅のバブルが同時に弾けたような状況が起こらないとも限らない。資産価格が下落を始めれば、貯蓄をせずに買い物に勤しんできた米消費者が、消費から引く」と付け加えた。

2月初旬に退任したイエレン前FRB 議長も同様の見解だ。2月2日にダウ平均が666ポイント下落したことについて、「株価が高すぎるとは言わないが、高いとは言える。株価収益率も歴史的に最高水準にある。また、商業不動産も非常に割高になっている」と指摘した上で、「これはバブルなのか、高すぎるのか。非常に判定しづらい。だが、資産価格がそこまで高くなっているのは懸念がある」と結んだのである。

「これは、FRBとトランプのバブルだ」

一方、すでにバブルが形成されているとの意見も根強い。米高級紙『ワシントン・ポスト』は、テクノロジー株の急騰や「景気後退などない」との確信を持つ市場の熱狂など、「まるで2006年の再来のようだ」と題する記事を掲載している。

テクノロジー株については、現在のバブルについて懐疑的な経済政策研究センターのディーン・ベイカー共同所長でさえ、「ウーバーのようなもうけを出していない会社の時価総額が500億ドルにも達し、やっともうけを出す目途がついてきたアマゾンの時価総額は7000億ドルに近い。投資家が、『もうけはやはり重要だ』と変心すれば、これらの株価が暴落する恐れがある」と指摘する。

こうしたなか、バブル論の急先鋒として浮上してきたのが、2008年の経済危機を予言したことで広く知られる著名投資家のピーター・シフ氏である。緊縮財政や小さな政府、そして自由市場を信奉するシフ氏は、正統派保守の立場からFRBやトランプ大統領を「戦犯」視するバブル論を展開中だ。

シフ氏によれば、「FRBは30年にわたり、経済を活性化させるとの名目で、低金利という間違った政策を実行してきた。FRBこそが資産バブルを引き起こしたのだ。現在のバブル経済は、FRBが提供する超低金利がなければ崩壊する」と、厳しくFRBを批判した。

その鋭い舌鋒は、トランプ大統領にも向く。シフ氏は、「トランプ氏は2016年の大統領選挙中に米株式市場がバブルだと述べたが、その当時は彼のバブルではなかった。だが、就任後にトランプ相場を引き起こした。これは、(共和党員なのに、保守派が嫌う財政出動や緩和的な金融政策を好む)トランプのバブルなのだ」と容赦がない。

2000年代後半の住宅バブルの「A級戦犯」と目されるグリーンスパン元FRB議長も、「二種類のバブルが発生している。株式市場のバブルと、債券市場のバブルだ。特に債券市場のバブルが危ない」と警鐘を鳴らしている。

米保守派シンクタンクであるアメリカン・エンタープライズ研究所のデズモンド・ラックマン研究員は、「長きにわたって続いた非伝統的な金融政策で長期金利が歴史的な低レベルに抑えられるなか、世界的な国債バブルが発生している。株価については、20世紀に3回のみ見られた高レベルの領域にまで上昇している」と同意する。

一方、歴史上のバブルについて詳しいピーター・ガーバー氏は、バブル論を展開するこれらの論客を評して、「バブル神話は、『市場が狂乱しており、規制が必要だ』と主張する人々の言説上のツールなのだ」と指摘している。

バブルにはまだ到達していないで一致

このように、米国においてバブル論はまだ少数派であり、大多数の専門家の間では、「バブルにはまだ到達していないが、一部の領域はかなり熱くなってきており、警戒が必要だ」という点で一致しているといえよう。

ただ、ほとんどの論者の間で一致が見られるのが、仮想通貨のバブルである。2008年の金融危機を正確に予測したニューヨーク大学の「終末博士」ことヌリエル・ルービニ教授は、「ビットコインは人類史上最大のバブルだ」とまで言い切っている。

ノーベル経済学賞の受賞者で、『根拠なき熱狂』などバブルについての研究でも知られるエール大学のロバート・シラー教授は、「人々は理性的ではない。そのため、バブルは自然発生的なねずみ講なのだ」と看破している。

現在の米経済でバブルが起こっているか、見極める一つの方法は、「人々が理性を保っているか否か」にありそうだ。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)