(本記事は、野口悠紀雄氏の著書『「超」独学法 AI時代の新しい働き方へ』KADOKAWA、2018年6月9日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

AI時代の新しい働き方へ
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

【『「超」独学法 AI時代の新しい働き方へ』シリーズ】
(1)超独学法 フランクリン、リンカーン、カーネギー…彼らが「独学」で成功したポイント
(2)エジソン、ライト兄弟、フォードーー独学で成功した彼らの原動力となったものとは?
(3)ハーバードやスタンフォードが行う「無料の講義」の中身とは?
(4)本は2割だけ読めば良い 「野口悠紀雄流」読書術とは

良き時代のアメリカの独学者たち

AI時代の新しい働き方へ
(画像=Anatolii Mazhora/Shutterstock.com)

●印刷物を読みあさるフランクリン

18世紀から19世紀のアメリカには、独学で成功した人が多い。

アメリカ式サクセス・ストーリーだ。

まずは、ベンジャミン・フランクリン(1706年─1790年)。彼は、1776年にアメリカ独立宣言の起草委員となった。トーマス・ジェファーソンらとともに、独立宣言に最初に署名した5人の政治家のうちの1人だ。

政治家であるだけでなく、物理学者、気象学者でもあった。凧を用いた実験で、雷が電気であることを明らかにしたのは有名だ。

彼の独学ぶりは、『フランクリン自伝』(岩波文庫、1957年)などで知ることができる。

学校の成績は優秀だったが、学費の負担が重いので、10歳で退学し、印刷業者の徒弟になった。

仕事場にある本や新聞などの印刷物を、仕事の合間に読みあさった。それによって、数学や科学の初歩を学ぶことができた。

昼休みになると、フランクリンは1人職場に残って、弁当をさっさと食べてしまう。

あとは本を読んで過ごした。

弁当なら、お金が節約できるし、勉強の時間もとれる。一石二鳥だったと、彼は述べている。

あるとき、活字を組んでいた哲学書の内容に根本的な誤りがあると感じ、それを論文にまとめ、活字に組んで、小冊子としてわずかな部数印刷した。

冊子を読んだライオンズという人物が訪ねてきて、バーナード・デ・マンデヴィル(1670年─1733年。『蜂の寓話』という著書で有名な思想家)を紹介してくれた。

●独学人生のリンカーン

エイブラハム・リンカーン(1809年─1865年)は、「歴代アメリカ合衆国大統領のランキング」において、しばしば、「最も偉大な大統領」に挙げられている。

ケンタッキー州の1室しかない丸太小屋の貧しい家に生まれた。正式な教育は、巡回教師からの18ヵ月間の授業だけで、あとはまったくの独学。

借りることのできたすべての本から学んだ。

青年時代にイリノイ州に移住し、船乗り、店員、民兵などとして働き、測量術を独学して、測量技師の仕事についた。イリノイ州の下院議員選挙に立候補し、歳で初当選を果たした。

その後、独学で法律を学んだリンカーンは、25歳で試験に合格し、弁護士の資格を取得した。

その学習方法について、「私は誰にもつかずに学んだ」と語っていたそうだ。

まさに、自助努力の人の典型だ。

弁護士になってから後も、独学で腕を磨いた。毎晩、最高裁判所の図書館に行き、担当している訴訟に関係のある判例を研究した。

彼の書いた弁論趣意書は、イギリスのコモン・ローにまで遡って、細部まで詳細に準備されていた。

最高裁判所に出廷する機会も多くなり、「法律家の中の法律家」という評判をとった。

●鉄鋼王カーネギーの恩返し

鉄鋼王アンドリュー・カーネギー(1835年─1919年)はスコットランドで生まれ、1848年に両親とともにアメリカに移住した。

最初は、工場で作業員として働いていた。その後、電信会社で電報配達の仕事についた。

彼は働き者で、仕事熱心だった。

当時の普通のやり方は、受信したモールス信号を紙テープに刻み、そのテープを解読するということだったのだが、カーネギーはモールス信号を直接に耳で聞き分ける特技を習得し、電信技士に昇格した。

本を買うこともできず、図書館も普及していなかった。ところが、近くに住んでいた篤志家が、働く少年たちのために毎週土曜の夜に約400冊の個人蔵書を開放してくれた。

カーネギーはそこに通って読書好きになった。

1870年代にピッツバーグでカーネギー鉄鋼会社を創業。

この事業は大成功し、1890年代には、同社が世界最大で最高収益の会社となった。

カーネギーは、引退後の人生を慈善活動に捧げ、教育、科学研究などに多額の寄付をした。中でも、公共図書館の設置に力を入れた。

全部で2509もの図書館を建設したが、それは、少年時代に利用できた個人図書館への恩返しだったのかもしれない。

野口悠紀雄
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業。64年大蔵省入省。72年イェール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2017年9月より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。ベストセラー多数。ツイッター:https://twitter.com/yukionoguchi10