(本記事は、野口悠紀雄氏の著書『「超」独学法 AI時代の新しい働き方へ』KADOKAWA、2018年6月9日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
【『「超」独学法 AI時代の新しい働き方へ』シリーズ】
(1)超独学法 フランクリン、リンカーン、カーネギー…彼らが「独学」で成功したポイント
(2)エジソン、ライト兄弟、フォードーー独学で成功した彼らの原動力となったものとは?
(3)ハーバードやスタンフォードが行う「無料の講義」の中身とは?
(4)本は2割だけ読めば良い 「野口悠紀雄流」読書術とは
書籍から知識を得るテクニック
●読書の技法
独学の際に、知識を得る基本は、読書だ。
そこで、まず最初に、本を選ぶ方法が必要だ。
書評で選んだり、読んでいて参考文献に出ているものを読む、というのが普通の方法だ。
いまでは、アマゾンで選ぶと関連の書籍が出てくるので便利に使える。読者の評価もある。これも参考になる。
ただし、それに完全に頼ってよいのかどうか、疑問に思う場合もある。
昔、東京駅の新幹線改札口の近くにあった小さな書店では、推薦書を示していた。SFなどかなり的確な推薦だった。
他の書店もこのようなサービスを提供してくれるとありがたい。
世に「ビジネス書」と言われているものの中には、内容がないものも多いので、注意が必要だ。
実際、「自己啓発書」と言われているもののほとんどは、役に立たない。とくに、「手軽に勉強できる」ことを売り物にするものが、そうだ。
考えてみれば明らかなように、手っ取り早く学べることは、すぐだめになる。お手軽啓発書は、何の役にも立たない。
そこで、本を買ってきたら、全体をパラパラめくって「見る」。読むというよりは、その準備段階だ。「読む価値があるものか?」を判断する。15分間程度あれば、見当がつくだろう。
どこから読めばよいか?読みたいところから読む。順番にこだわる必要はない。
小説は最初から順に読まないとだめだが、ビジネス書や教科書であれば、最初から読む必要はまったくない(岸信介は書類を最後から見たそうである)。
目次も参考になる。
また、すべてが重要であるわけでもない。著者としては、体系的に書く必要がある。
しかし、それらすべてが同じ重要性を持っているわけではない。
●大学院生のとき、図書館の本をどう読んだか?
問題は、「どこを読めばよいか」だ。
これに関連して、私がアメリカの大学院で勉強していたときの話を述べよう。
アメリカの大学院では、膨大な量のリーディングアサインメントがある。
これは、授業を受ける前提として、来週までに読むように、という参考文献のリストだ。
英語を母国語としない留学生には、これはかなりの重い負担になる。英語を速読できないというハンディキャップがあるからだ。「1週間のうちに厚い本を10冊も読め」などというリーディングアサインメントは稀ではないのだが、とても対応できない。
そこで、私は図書館に行ってアサインメントの本を借り出し、本を地(本を立てた場合、下側になる切り口)から眺めた。すると、ページが黒くなっている部分がある。
黒くなっているのは、その箇所がよく読まれていることを示している。
多くの学生は、その本を最初から最後まで一様に読んだのではなく、黒くなっている部分を読んだのだ。これは、つまり、その部分が最重要ということだ。
多くの場合に、それは本全体の2割にもならない。
これは、速読ができないためにやむをえずせざるをえなかった対応だが、そうでもしなければ、膨大なリーディングアサインメントはとてもこなせない。しかし、いま思えば、リーディングアサインメントへの対応としては、正しい方法だったと思う。
「こんなにたくさんは読めない」としてギブアップしてしまうことに比べれば、ずっと積極的な対応だ。
●本に書き込みをしよう
ついでに言うと、本にある書き込みで重要な情報を得たこともある。
図書館の本には、「ここが非常に重要」とか、「この記述はおかしい」などの書き込みもあり、大変有益だった。
私は、こうした形で先人と会話できたことに感激し、その知恵に感謝しながら、図書館の本を読んでいたのである。
図書館には、「蔵書に書き込みをしないでください」という注意書きがあるが、あれは間違っていると思う。正しくは、「蔵書には一定水準以下の内容の書き込みはしないでください」とすべきだろう。
そうしなければ、貴重な知的財産を失うことになる。
この方法はいまの私には使えない。しかし重要なことを教えてくれる。
本の中核となっている部分は、全体の2割にもならないということだ。
2割どころか、数%しかない場合も多い。そして、そこを重点的に読めば、すべてを平板に読むよりずっと多くを学べるということだ。
私は本を読むときに、線を引いたり書き込みをしたり、本の最初の余白の部分に要約を書いたりしている。これは、私なりの索引である。後になって読み返す場合に便利だ。
「本をきれいに読まなければならない」というのは、間違いだと思う。
野口悠紀雄
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業。64年大蔵省入省。72年イェール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2017年9月より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。ベストセラー多数。ツイッター:https://twitter.com/yukionoguchi10