(本記事は、野口悠紀雄氏の著書『「超」独学法 AI時代の新しい働き方へ』KADOKAWA、2018年6月9日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

AI時代の新しい働き方へ
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

【『「超」独学法 AI時代の新しい働き方へ』シリーズ】
(1)超独学法 フランクリン、リンカーン、カーネギー…彼らが「独学」で成功したポイント
(2)エジソン、ライト兄弟、フォードーー独学で成功した彼らの原動力となったものとは?
(3)ハーバードやスタンフォードが行う「無料の講義」の中身とは?
(4)本は2割だけ読めば良い 「野口悠紀雄流」読書術とは

学校でなければできないこと

AI時代の新しい働き方へ
(画像=Monkey Business Images/Shutterstock.com)

●学校のほうが効率的な場合

学校でなければできないことがある。あるいは、学校で学ぶほうが、独学より効率的である場合もある。

実際、基礎教育は、どこの国でも、学校の教室で大勢で受けることが普通だ。

こうする理由は、2つある。

第1は、勉強を強制する必要があるからだ。

第2は、生徒や学生の間の交流、情報交換、競争が重要であるからだ。学校教育は、人間が社会生活を始める最初の場を提供しているのである。

高等教育においても、学校のほうが優れている場合がある。それについて、以下に述べよう。

●大学の効用は人的交流

大学は言うまでもなく「学ぶ」ための場であるが、機能はそれだけではない。学生相互間の情報交換も、大変重要な機能だ。

大学の効用は、同じ目的意識を持っている人が周りにいることだ。

同じ問題意識を持っている人たちが1ヵ所に集まれば、そこでの情報交換は、大変重要な機能を果たしうる。勉強グループがよいのは励みになるからだが、なかなか長続きしない。大学がよいのは、そうした環境が用意されていることだ。

学生同士の情報の交換は、新しいビジネスを立ち上げるときには、重要な意味を持つ。

シリコンバレーのベンチャーの多くがスタンフォード大学から生まれた。

それは、スタンフォード大学で(あるいは大学院で)、「ベンチャービジネスの起こし方」という講義を行ったからではない。学生同士(あるいは、大学のスタッフ)が一緒に仕事をし、情報交換をしたからだ。

こうした効果を独学に期待するのは難しい。

独学をするなら、そうした機会は別途見つける必要がある。

組織が外に対して閉鎖的である日本の場合に、これは、とく重要なことだ。

会社人間になってしまって四六時中会社の中で過ごすと、会社の中の人との情報交換だけを行うようになる。すると、外の世界で何が起こっているかに関する認識が、大きくゆがんでしまう可能性がある。

こうした状況を打破するために、社外の人々との集まりは重要だが、ただ集まってもだめだ。同じ問題意識を共有していることが重要である。

この他の側面でも、大学という社会的機関の存在意義が失われたとは思われない。

なぜなら、教授と学生のコミュニケーション、学生と学生のコミュニケーションには、直接の対面でしかできないものも多く、ウェブ上に大学を作っても、多くを期待できないからだ。

例えば、ウェブ上の大学では、質問に対して教授からリアルタイムで返事をもらうことは期待できない。

他方で、大学のすべての側面がこれまでのままでよいとは思えない。

インターネットの拡大に伴って、大学の機能が変化することは、認めざるをえない。

●新しい大学MOOCsとは

MOOCsというものがある。これは、Massive Open Online Coursesの略だ。

インターネット上で誰もが無料で受講できる大規模な開かれた講義である。条件を満たせば修了証が交付される(有料の場合もある)。

ハーバード大学、スタンフォード大学などのアメリカの大学が行っている。東京大学は、2013年9月にコースを提供し始めて以降、いくつかのコースを提供している。長岡技術科学大学や大阪産業大学などの工学系大学も取り組んでいる。放送大学も行っている。

これらを統合する日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)が、2013年11月に発足した。

1週間で見るべき講義が5~10本公開される。各講義は10分程度の動画で、見終わると確認のための小テストが提示される。1週間の学習が終わると課題が提示されるので、提出期限内に提出する。

これを4週繰り返し、最後に総合課題を提出して完了となる。

週ごとの課題と総合課題の全体評価が修了条件を満たしていれば修了証がもらえる。受講生も講義を評価する。

アメリカの場合には、かなり有用な内容のものが提供されている。

しかし日本語で受講可能なMOOCsで本当に必要なものが提供されているかどうかと言えば、少なくとも現状では不十分だと言わざるをえない。

連続した講義形式の動画としては、AppleのiTunes Uもある。これは、Apple Storeでも提供されている。無料だ。

あるいは、Udemyというウェブのサービスもある。これは有料だ。まだ日本語のものが多くない。内容はIT関係のものが多い。

独学の問題は、カリキュラムを作るのが難しい点だ。

本の場合には系統立てて叙述する必要があるから、実用上はあまり重要でないところも書いておかなければならないという事情もある。

それに対して教室の中では、どこが重要かを知らせることができる。しかし、こうした点は、MOOCsなどのオンライン講座であれば、実際の教室と同じように強調できる。

カリキュラムを自分で組むのが難しいと考える人はMOOCs等のオンライン講座を利用したらよいだろう。

野口悠紀雄
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業。64年大蔵省入省。72年イェール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2017年9月より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。ベストセラー多数。ツイッター:https://twitter.com/yukionoguchi10