イーロン・マスク氏の火星移住計画などもあり、「地球外不動産業者を通して月の土地が買えるか?これは合法なのか?」が話題になっている。しかし、そもそも誰が月の所有権をもっているのだろうか?

将来的に人類が地球以外の惑星に移動し住宅や施設が建設されると仮定した場合、土地や不動産の所有権は誰のものか、といった疑問に答える「宇宙弁護士」なる職業が生まれている。ネブラスカ大学リンカーン校法科大学(The University of Nebraska College of Law)の宇宙法律専門家フランツ・フォン・フォン・ダンク教授がその先駆けだ。

地球外不動産業者とは?

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(画像=taffpixture / Shutterstock.com)

月の土地を販売しているのは、1980 年に設立されたLunar Embassy という地球外不動産業者。同社サイトによると、米国人のデニス・ホープ氏が月の権利宣言書を作成し、 国際連合と米国政府、ロシア政府(当時はソビエト連邦)に提出したという。つまり100%合法的な販売だ。同社いわく、「世界で唯一合法に月の土地を販売している業者」である。

現在は、月だけではなく、火星 や金星、水星などほかの惑星の土地にも手を広げている。1単位あたりの値段は124.95ドル。2.50ドル追加料金を払えば、土地権利書に自分の名前を入れてもらえる。

124.95ドルが高いのか安いのか判断に苦しむところだが、たとえ開発に100年、200年かかっても、子孫に遺産として残せるのであれば、気が遠くなるほどの長期的投資として購入してみるのも良いだろう。ちなみにLunar Embassyは日本にも代理店がある。

「宇宙は世界が法にしたがって共有するもの」

地球外不動産の販売に関しては、1967年に制定された宇宙条約と1984年に制定された月協定 がある。宇宙条約は米国やロシア、日本を含む「宇宙開発国」間で交わされた条約で、月を含む宇宙空間の探索・利用における国家活動を律する原則についての取り決めだ。宇宙条約下では、宇宙空間に対して、いかなる国家も領有権を主張できない。

これにより、月は個人、あるいは特定の国や地域が所有するものではなく、世界が法にしたがって共有するものという概念が定着した。

その2年後、世界で初めてアポロ11号が月面に着陸。ニール・アームストロング氏が人間で初めて月面を踏み、星条旗を立てた。「月は最初に上陸した米国が所有している」というイメージがあるが、これは人類初の試みを成功させた米国に対する、他国からの敬意の印と受けとる方が正解だろう。

宇宙条約の盲点

しかしこれで一件落着とはいかない。月探索が活発化するにつれ、にわかに月の土地をめぐる競走化の懸念が浮上している。既に小惑星鉱業を計画するPlanetary ResourcesやDeep Space Industriesといった企業が生まれているが、宇宙条約では月やほかの天体の天然資源の商業的利用に関する取り決めが成されていない。たとえば特定の企業が事業に適したスポットを占領しても、違法にはならないのだ。

この法の盲点が現在国際社会で議論の的となっているが、解決には至っていない。

宇宙弁護士の見解

そこで宇宙弁護士の出番となる。宇宙法律の先駆者として国際宇宙法律機関the International Institute of Space Lawから功労賞を受賞したダンク教授は、CNBC2018年7月31日の記事で2つの一般的な解釈をとり上げている。

米国やルクセンブルクなどは、月および小惑星の共有に同意している一方で、利益の共有については曖昧にしている。裏を返せばこれらの国の企業は正当な許可を受けて規則を遵守している限り、宇宙事業を営み、そこから利益を得ることが許可されているということだ。

ダンク教授はこうした点が、公海における国際漁業管理体制と似ていると指摘している。公海(各国の排他的経済水域、領海、内水、群島水域に含まれない海洋)は特定の国や地域の管理下にないため、各国・地域から正当な許可を受けた市民や企業であればだれでも漁業を営める。公海で釣った魚を売るのも認められている。

しかしロシアやベルギー、ブラジルなどは「宇宙は人類全体に属している=そこから得た利益は人類全体で共有すべき」、あるいは「少なくとも人類全体の利益を保証するために還元されるべき」という理論を支持している。

ダンク教授いわく、こちらは少し、深海から鉱物資源を採掘するために設立された制度と共通する。深海から採掘した金・銀・銅などの鉱物資源は、他国と恩恵を分かち合うのが一般的だ。

最先端のキャリア?宇宙弁護士

同教授の見解では「前者の方が法的にも実用的にもより理にかなっている」が、法廷闘争は決して終わっていない。中国や日本、インドなどアジアの国々国も宇宙探索計画に乗りだしているため、宇宙をめぐる所有権争いがいずれ勃発する可能性も懸念される。個人や企業間の競走という域を超え、国同士で摩擦が生じる可能性がある。

「宇宙は共有、利益は私物化」という考えと「宇宙は共有、利益も共有」という考えの中間をとるのが最も友好的なのだろうが、果たして両サイドが合意に応じるか否か。

根深い、そして前例のない争いを最小限にとどめる意図で、宇宙法律や宇宙弁護士の存在が注目されている。ネブラスカ大学リンカーン校法科大学以外では、ニューヨーク大学ロー・スクールやワシントン州のゴンザーガ大学などで宇宙法律が学べる。スペース弁護士の主な仕事は国際条約や国内法の草案作成だ(legalcareerpath.com より)。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)