(本記事は、桑原晃弥氏の著書『トヨタ式5W1H思考 カイゼン、イノベーションを生む究極の課題解決法』KADOKAWA、2018年9月21日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

安易に「あ、そうか」といってはいけない。トヨタの「5W1H」を実現する3ヵ条。

トヨタ式5W1H思考 カイゼン、イノベーションを生む究極の課題解決法
(画像=Joerg Huettenhoelscher / Shutterstock.com)

問題が起きたなら、その真因がわかるまで「なぜ」を5回繰り返すのがトヨタ式の「5W1H」です。

ただ、現実には「真因」にたどり着くのはそれほど簡単なことではありませんし、「なぜ」を繰り返すのも容易なことではありません。

どのような姿勢で臨むことが必要なのかを以下にまとめてみましょう。

1.安易に「あ、そうか」というな

大野氏の下でトヨタ式の普及に努めた経験のあるトヨタマンによると、「5回のなぜ」には1つの禁句があるといいます。

それは「ああ、そうか」という言葉です。

たとえば、「機械が止まる」ですが、「なぜ機械が止まったのか?」と調べたところ、「ヒューズが切れている」ことを発見して、「ああ、そうか」といってしまうと、そこで思考は止まり、それ以上「なぜ」を問うことをやめてしまうからです。

アップルの創業者スティーブ・ジョブズがこんなことをいいました。

「ある問題を検討し始めて、それがとてもシンプルだと思ったなら、君たちはその問題がいかに複雑かを理解していない」

多くの人は、その問題だけに通用する解決策だけを考えて、そこで終わってしまうのに対し、本当にできる人間はさらに深く分け入って、根本的な問題を見つけ、あらゆるレベルで通用するエレガントな解決策を見つけ出す、というのがジョブズの問題解決法です。

同様にトヨタにおいても1つの問題に一度か二度の「なぜ」を問いかけて、とてもわかりやすい原因に気づき、「ああ、そうか」といってしまうと、たとえば動かなかった機械が動くようになるかもしれませんが、真因を潰していないためにしばらくするとまた同じような問題が起きることになるのです。

そうならないためにも、わかりやすい原因を発見したからと、安易に「ああ、そうか」と納得するのではなく、「ちょっと待てよ、本当の原因は他にあるのでは?」と「なぜ」をとことん繰り返すという姿勢が必要なのです。

2.問題は「現行犯逮捕」する

トヨタ式の「なぜ」を繰り返すうえで大切な姿勢の1つは現地に行って現物を見て考えるという「現地現物」の徹底と、可能なら問題の起きる瞬間を目撃するまで1日中現場に張り付いて、現場をおさえるという「現行犯逮捕」を心がけることです。

たとえばある工場で車の何台かのドア部分に、小さなキズが見つかったとします。

ごく小さなキズなので塗装などでカバーすることはできますが、トヨタの担当者はすぐに現場に行って、キズの位置や大きさなどを確認しました。

キズは右のドアの取っ手の下あたりについていました。

キズの位置や大きさなどを確認した担当者は「なぜキズがつくのか?」と「なぜ」を繰り返しながら、現場の人たちの作業ぶりを丹念に観察していきました。

すると、ある作業者のベルトのバックルに目がいきました。

バックルの高さや大きさ、形状、作業時の姿勢などをじっくり観察していくと、その作業員の作業の前段階ではキズがないのに、作業員の作業のあとには時折車にキズがつくことがわかったのです。

原因は作業時の姿勢にありました。

作業者は時に作業時の姿勢を変えており、その際にベルトのバックルが当たり、小さなキズをつけることがあったのです。

担当者は直ちに作業者に正しい作業の姿勢について指導し、ベルトのバックルをキズのつかないものに替えるように指示しました。

同時に他の作業者全員に対して、ベルトのバックルで車を傷つけないように、車と接触してもキズのつかないバックルに替えるように指示をしました。

このように「なぜを5回繰り返す」は机上で行うものではなく、問題の起きた現場に行き、現物を見ながら、それも問題が起きる瞬間を目撃するまで現場に立ち続けるといった「現地現物」「現行犯逮捕」の姿勢で臨むことが大切なのです。

問題が起きた時、企業によっては問題の原因調査や対策をすべて現場任せにして、本来先頭に立つべき管理職は報告を受けるのみということがありますが、これでは「原因」にたどり着いたとしても、「真因」にたどり着くことは滅多にありません。

当然、真因を踏まえない対策は一過性のものになりがちです。

問題の瞬間を目撃するというのは簡単なことではありませんが、現行犯でつかんだ事実は、揺るぎない真実です。

「なぜを5回繰り返す」は机上ではなく、徹底した現地現物を前提にするというのがトヨタの「5W1H」なのです。

3.「見つかるまで探す」という姿勢を貫く

「5W1H」のためには「真因」を見つけることが不可欠ですが、時にはいくら「なぜ」を繰り返しても、いくら現地現物で調べても「真因」にたどり着けないことがあります。

そんな時にはどうすればいいでしょうか?

トヨタマンAさんが協力会社で「かんばん」の導入を指導していた時のことです。

その会社の社員は「かんばん」そのものに慣れておらず、そのため「かんばん」の紛失が相次ぎました。

本来、トヨタ式において「かんばん」は生産に不可欠なものであり、「かんばん」がないのに生産することは許されません。

しかし、「かんばん」が次々と紛失してしまい生産に支障が出たと感じたAさんはしかたなく「かんばん」を探すのではなく、増発することにしました。

しかし、これではつくりすぎのムダが生まれる恐れがあります。

それを知った大野耐一氏は激怒し、「探して来い」とAさんに命令しました。

しかし、何時間探しても見つからず、Aさんが報告に行くと、大野氏はこういいました。

「1時間や2時間探したくらいで『ありません』とは何事か。なぜ見つからないかわかるか?答えは簡単だ。見つかるまで探していないからだ」

いわれたAさんはさらに時間をかけてあちこち探し回った結果、ついに部品などを入れる箱の下に「かんばん」がはり付いているのを発見しました。

「かんばん」を入れた箱を重ねた際、油などで箱の下にはり付いたために紛失してしまう、というのが「かんばん」紛失の理由でした。

Aさんは二度となくならないようにいくつかの改善を行い、以来、「かんばん」がなくなることはありませんでした。

真因を見つけるのはたやすいことではありません。

だからといって、適当なところで妥協しては、真因は決して見つかりません。本当の改善もできません。

「5回」というのは「5回まで」という意味ではありません。

見つかるまで、できるまで「なぜ」を繰り返すというのがトヨタの「5W1H」の基本姿勢なのです。

「なぜ売れないのか?」原因の探し方

「ものごとができない理由は100ほどもある」といういい方があります。

人間は「やりたくない」「やってもムダ」という気持ちがあると、「できない理由」をいくらでも考え出すものです。

仕事の現場でいくら「できない理由」を挙げたところでものごとが前に進むことはありませんが、業績が芳しくない企業で働く人たちも「売れない理由」「成績が伸びない理由」をあれこれと考えます。

「うちの製品は価格が高すぎて」「ライバルが強力で」「もう少し宣伝をしてもらわないと」「世の中不景気で」などです。

ある大手旅行代理店A社が、失敗した商談の原因分析調査をしたことがあります。

調査に関わった社員は課長クラスで、平均年齢38歳。最も信頼できる層です。

本人たちに失敗の原因を提出してもらうと、次のような理由が挙がってきました。

・相手の関連会社に旅行代理店がある。
・親しい人が旅行代理店にいる。
・提出したプランと相手のニーズが合わなかった。
・予算が合わなかった。

いずれももっともな理由です。

しかし、ここで「じゃあ、しかたがないな」と納得してしまったら「改善」などできません。

そこで、A社は調査会社に依頼して、お客さまとの面談で「なぜ失敗に終わったのか?」という問いの真の原因を探ってもらうことにしました。

すると、上記以外にも営業社員個人に起因するものがいくつも挙がってきました。

・約束の時間に遅れてきた。
・プラン提出の約束が守られなかった。
・マナーが悪い。
・清潔感に欠けていた。

営業社員の考えている原因と、本当の原因の間にこれだけの開きがあると、いくら懸命に対策を考えても成果が上がるはずもありません。

対策というのは「正しい原因」を元に考えるからこそ効果があるのです。

トヨタの販売店B社でこんな出来事がありました。

あるお客さまが車の購入を決めるまでに非常に長い時間がかかったことがあります。

普通はあきらめるほどの長さだったため、納車の日、気になった店長がお客さまに「なぜこれほど長い時間がかかったのでしょうか。

何がネックだったのですか?」と尋ねると、こんな答えが返ってきたといいます。

「店員のシャツのボタンが1つはずれていたのがどうしても気になった」

若い営業社員にしてみれば、「えっ、そんなこと」という理由ですが、お客さまにとってはシャツのボタンが1つはずれていた営業社員は「信頼できる存在」とも思えず、そのことが車を購入することをためらわせたというのです。

また別の日、1人の営業社員が店と長い付き合いのある年配のお客さまが「車を乗るのをやめるのでもう買わない」といっていますと店長に報告しました。

つまり、「このお客さまにはもう車は売れません」という報告です。

普通はここで「そうか、じゃあしかたがないね」となるところですが、そのお客さまをよく知る店長は「それはお客さまの本音なのか?

なぜお客さまはもう買わないとおっしゃったのか?」と営業社員に問いかけました。

「それは」と営業社員が口ごもったのを見た店長はすぐにお客さまを訪ね、早々に1台の車の購入を決めてしまいました。

「えっ、僕にはもう乗らないとおっしゃったのに」と驚いた営業社員が理由を聞くと、店長はこう説明しました。

「お客さまにはどうしても車を使わなくてはならない理由があることを私は長い付き合いでよく知っている。ただ、年齢的なこともあって、どうしたものかと迷った中から出てきたのが『乗るのをやめる』だった。

そこで、車はこれからも必要でしょうから、これまでの車ではなく、もっと安全性の高いお車にされてはいかがですかとおすすめしたんだよ。

営業社員はその辺のお気持ちも見抜かないと」。

大切なのは、うまくいかない理由を「外」にばかり求めるのではなく、自分たちでなんとかできる「内」なる原因もしっかり探り当てることです。

お客さまが口にする当たり障りのない理由や、営業社員の都合のいい言い訳に惑わされることなく、「真因」を見つけて、すぐにできることに着手します。

環境がどうであれ、「できない言い訳」ではなく「どうすればできるか」を真剣に考え、実行する人や企業だけが成果を上げることができるのです。

トヨタ式5W1H思考 カイゼン、イノベーションを生む究極の課題解決法
桑原晃弥(くわばら・てるや)
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。著書に『トヨタだけが知っている早く帰れる働き方』(文響社)、『トヨタ最強の時間術』(PHP研究所)、『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP文庫)、『1分間バフェット』(SBクリエイティブ)、『伝説の7大投資家』(角川新書)などがある。

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