英国の離脱期限は再延期

4月10日のEU首脳会議で2日後に迫っていた英国のEU離脱の期限の再延期を決めた。当初の期限である3月29日からの延期は、メイ首相の要請よりも短期間だったが、2度目の延期は10月31日までと要請よりも長期の延長を認めた(図表1)。10月31日以前でも、離脱協定を承認し、法律上の手続きが終れば、翌1日には離脱が可能だ。

長期延長には、フランスのマクロン大統領が強く反対したとされるが、結果として、5月の欧州議会選挙への参加を唯一の条件に長期の延長を認めた点で、EU首脳会議は寛容だった。

英国,EU離脱
(画像=ニッセイ基礎研究所)

メイ首相は超党派の合意を通じた「合意あり離脱」の道を探る

英下院が12日からイースター休暇に入ったことで一時休止となった離脱手続きは、23日の下院審議の再開で本格的に動きだす。メイ首相は、EU首脳会議の再延期の決定後の11日、下院で与野党協議を通じて妥協点を探り、早期の協定承認を目指す方針だ。

メイ首相の協定案は、過去3回の採決で、徐々に賛成票を増やした。1月15日の第1回の採決での大差の否決の後、メイ首相は、EUと再交渉し、離脱派が強く懸念した「アイルランド国境の厳格な管理を回避するための安全策」の発動回避を目指す方針などを確認した「付属文書」を引き出し、3月12日の2回目の採決では賛成票が40票増えた。さらに、1回目の離脱期限延長後の3月29日に実施した3回目の採決では、メイ首相がEU離脱後の辞任の方針を表明したことで、賛成票が44票増えた。しかし、強行離脱派と政権協力するDUPが「アイルランド国境の安全策」が残る協定に反対を続ける一方、よりソフトな離脱や離脱撤回への布石となる再国民投票を望む野党が反対を続けたことで可決には至らなかった(図表2)。

EUは、4月10日の首脳会議でも「離脱協定を再協議しない」方針を確認しており、協定に基づく離脱の道を探るのであれば、「離脱協定」ではなく「将来関係の政治合意」の修正を求める野党の協力を仰がざるを得ない。EUも、「政治合意」に関しては、英国がレッドライン(超えられない一線)を修正するのであれば、修正に応じる構えだ。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

政治合意のソフト化と信認投票の組み合わせならば賛成票を得られる可能性はある

超党派の合意点を探ろうとすれば、EUとの将来関係は、メイ首相の政治合意よりもソフト、つまり、EU市場により近く、EUから取り戻せる権限が制限されたものへと傾きやすい。

与党・保守党の英下院で、3月27日と4月1日に実施された議会の支持動向を探る2回の「示唆的投票(indicative vote)」では、第1回目は8案、第2回目は4案の採決が行われた。これらの結果からは、「合意なき離脱」は、例え、2年間の現状維持期間を確保するなど「管理された」ものであったとしても、メイ首相の協定案よりも不人気であること(図表3-①)、国民投票での承認を離脱協定と政治合意に関する批准の条件とする「再国民投票」は、第2回目の投票で、最も多くの賛成票を得たが、与党からの賛成はごく少数に留まり、大半が反対したこと(図表3-②)、関税ゼロだけでなく、EUと通商政策の調和を図る「関税同盟」には、与党・保守党からも一定数の賛成があるが、残留支持者が多いスコットランドのSNPは反対したこと、(図表3-③)、「ノルウェー+」あるいは「共同市場2.0」と呼ばれる単一市場への残留と包括的な関税枠組みを組み合わせたさらにソフトな案には、与党・保守党からの一定数の賛成に加え、第2回目の投票でSNPが賛成に転じたことで賛否の票差が縮まったことなどがわかる(図表3-③)。

一連の示唆的投票の結果からは、メイ首相の協定案、あるいは、関税同盟などソフトな将来関係のソフト化案と、協定の信認を問う国民投票を組み合わせることで、超党派の妥協を探る余地はありそうだが、切り捨てられる強硬離脱派には容認し辛い方向転換だ。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)