結果の概要:雇用者数が前月、市場予想を上回り、失業率は前月、市場予想を下回る

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5月3日、米国労働省(BLS)は4月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+26.3万人の増加(1)(前月改定値:+18.9万人)と、+19.6万人から下方修正された前月を上回ったほか、市場予想の+19.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も上回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.6%(前月:3.8%、市場予想:3.8%)と、こちらは前月から▲0.2%ポイント低下し、横這いを見込んでいた市場予想を下回った(後掲図表6参照)。労働参加率(2)は62.8%(前月:63.0%、市場予想:63.0%)と、前月から▲0.2%ポイント低下し、市場予想も下回った(後掲図表5参照)。

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(1)季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
(2)労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

結果の評価:雇用者数が大幅に増加する一方、賃金の伸びは緩やか

4月の雇用増加数が20 万人を大幅に上回った結果、19年通年の月間平均増加数は20.5万人増と20万人を上回ったほか、18年通年の同22.3万人増からの低下幅も限定的に留まった。当研究所は労働市場の回復が長期化する中で労働力不足が深刻化しているため、20万人を超える伸びを維持するのが難しいと考えていたが、雇用増加ペースは当研究所の予想を上回り、依然として堅調な水準を維持していることを示した。

一方、失業率は前月から低下し、1969年12月以来およそ50年ぶりの水準に低下したものの、労働力人口の減少を伴う労働参加率の低下による影響が大きいため、4月は失業率が示すほど労働需給は逼迫していない。

また、時間当たり賃金(全雇用者ベース)も、前月比+0.2%(前月:+0.2%、市場予想:+0.3%)、前年同月比が+3.2%(前月:+3.2%、市場予想:+3.3%)と、前月比、前年同月比ともに前月並みの伸びに留まり、加速を見込んだ市場予想を下回った(図表1)。

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このようにみると、4月の結果は順調な雇用増加がみられる一方、賃金の伸びは緩やかであることを示した。先日行われたFOMC会合後の記者会見では、物価の基調を示すコアインフレ率が足元でFRBの予想外に低下していることに対して、パウエル議長は一時的な要因によるとの判断を示していたが、賃金上昇が緩やかに留まっていることから、コアインフレ率が上昇基調に転換するには暫く時間がかかる可能性がある。

事業所調査の詳細:専門・サービス、建設業雇用の伸びが加速

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+20.2万人(前月:+15.8万人)と前月から伸びが加速した(図表2)。

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民間サービス部門の中では、小売業が前月比▲1.2万人(前月:▲1.6万人)と3ヵ月連続で減少したほか、医療サービスが+2.7万人(前月:+4.8万人)と前月から伸びが鈍化した。

一方、人材派遣業が+1.8万人(前月:▲0.6万人)と前月から増加に転じたこともあって、専門・ビジネスサービスが+7.6万人(前月:+2.4万人)と前月から伸びが加速した。

財生産部門は前月比+3.4万人(前月:+2.1万人)と前月から伸びが加速した。製造業が+0.4万人(前月:横這い)と前月から小幅に増加したほか、建設業が+3.3万人(前月:+2.0万人)と前月から伸びが加速した。

政府部門は、前月比+2.7万人(前月:+1.0万人)と前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が+1.1万人(前月:▲0.4万人)と前月から増加に転じたほか、州・地方政府が+1.6万人(前月:+1.4万人)と前月から伸びが加速した。 前月(3月)と前々月(2月)の雇用増(改定値)は、前月が+18.9万人(改定前:+19.6万人)と▲0.7万人下方修正された一方、前々月が+5.6万人(改定前:+3.3万人)と、こちらは+2.3万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+1.6万人の上方修正となった(図表3)。

なお、BLSの公表に先立って5月1日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+27.5万人(前月改定値:+15.1万人、市場予想:+18.0万人)と、+12.9万人から上方修正された前月改定値を大幅に上回ったほか、市場予想も上回った。この結果、4月は雇用統計、ADP統計ともに前月比で20万人台後半の伸びとなり、雇用増加ペースが非常に高かったことを確認した。

4月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が27.77ドル(前月:27.71ドル)となり、前月から+6セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.4時間(前月:34.5時間)と、こちらは前月から▲0.1時間減少した。その結果、週当たり賃金は955.29ドル(前月:956.00ドル)と前月から▲71セント減少した(図表4)。前月比での減少は18年1月以来である。

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家計調査の詳細:労働力人口の減少に伴い労働参加率が2ヵ月連続で低下

家計調査のうち、4月の労働力人口は前月対比で▲49.0万人(前月:▲22.4万人)と3ヵ月連続で減少した。内訳を見ると、就業者数が▲10.3万人(前月:▲20.1万人)と減少したほか、失業者数も▲38.7万人(前月:▲2.4万人)と3ヵ月連続の減少となり、労働力人口を押下げた。一方、非労働力人口は+64.6万人(前月:+36.9万人)と3ヵ月連続で増加した。

この結果、労働参加率は62.8%と2月の63.2%から2ヵ月連続で低下した(図表5)。さらに、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率も、4月は82.2%(前月:82.5%)と前月から▲0.3%ポイント低下した。男女の内訳でみても男性が89.2%(前月:89.5%)、女性が75.5%(前月:75.7%)をいずれも前月から低下した。このように、4月はプライムエイジも低下したため、労働参加率低下が高齢化に伴う人口動態変化を反映したものではなく、労働需給が緩和したことによると考えられる。

このため、失業率は予想外に前月から低下し、50年ぶりの低水準となったものの、前述のように4月の労働需給は失業率が示すような改善は示していない。

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4月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は123.0万人(前月:130.5万人)と前月から▲7.5万人減少した。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは21.1%(前月:21.1%)と、前月から横這いとなった(図表7)。一方、平均失業期間は22.9週(前月:22.2週)と、こちらは前月から+0.7週長期化した。

最後に、周辺労働力人口(141.7万人)(3)や、経済的理由によるパートタイマー(465.4万人)も考慮した広義の失業率(U-6)(4)をみると、4月は7.3%(前月:7.3%)と、通常の失業率(U-3)が前月から低下したのに反し、前月から横這いとなった(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は3.7%ポイント(前月:3.5%ポイント)と、前月から+0.2%ポイント拡大しており、広義の失業率(U-6)も通常の失業率(U-3)の低下にみられるほど労働需給が逼迫していない可能性を示した。

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(3)周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
(4)U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。

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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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