世界で進む脱プラスチック議論

脱プラスチック問題
(画像=PIXTA)

レジ袋やストロー等のプラスチックごみによる海洋汚染の問題が契機となって、世界中で脱プラスチック議論が進んでいる。

2016年1月の世界経済フォーラム年次総会での報告書によれば、少なくとも毎年800万トンもの廃プラスチックが海洋に流出し、このまま行くと2050年には海洋中のプラスチックの量が魚の量を凌駕する(重量ベース)という。

歯磨き粉や洗顔料のスクラブに活用されるマイクロビーズのようなマイクロプラスチックも問題視されている。海洋等に流出し、食物連鎖の中に取り込まれてしまう等、生態系への影響が懸念されているのだ。

こうした課題を前に、国際社会も対策に向けて大きく動き出している。2030年までの国際開発目標として掲げられたSDGs(Sustainable Development Goals)でも、持続可能な消費や生産、海洋資源の保護等が目標として設定されている。

踏み込んだ目標や規制も出てきている。2018年1月には、欧州委員会が「欧州プラスチック戦略」を公表し、2030年までに全てのプラスチック包装を再利用または素材としてリサイクルすることを目指し、使い捨てプラスチック製品を削減していく目標を掲げた。2018年6月のG7シャルルボワ(カナダ)サミットにおいては、具体的な数値目標が盛り込まれた「G7海洋プラスチック憲章」が、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、英国、EUにより承認された。一方、米国と日本は同憲章に署名せず、国内外から批判的な声も上がった。市民生活や産業への影響を慎重に検討する必要があったこと、(カナダから案の提示を受けてから)産業界や関係各省庁との調整を行う十分な時間がなかったことが背景にあるようだ。

足もと、欧州ではストロー等の使い捨てプラスチック製品の流通禁止に向けた法制化も進められている。欧州には、国際社会での議論をリードし、ルール見直しや規制による「ゲームチェンジ」を通じて域内企業の競争力を高めていくという目論見もあるようだ。

6月に開催されるG20大阪サミットでもプラスチック問題が議題になると見られ、議長国となる日本の対応に注目が集まっている。

日本でも対応が進む

国連環境計画(UNEP)の報告書によれば、日本の人口1人当たりのプラスチック容器包装の廃棄量は、米国に次いで多いとされるが、国際社会の動きからみると、日本はやや後手に回った感がある。また、中国が2017年12月末から実施している廃プラスチック輸入禁止措置の問題にも直面している。禁止措置以前、日本は年間約150万トンもの廃プラスチックを資源として輸出しており、その約半分を中国に輸出していた。東南アジアが代替先になったものの、輸出は全体として減少しており、行き場を失った廃プラスチックが国内で滞留してしまう。国内の処理能力にも限界があり、国内処理業者の中には受入制限を実施、もしくは検討している先もあるようだ。また、輸出代替先となっている東南アジアの国でも、輸入制限の動きがあり、日本は国内での資源循環体制の再構築の必要に迫られている。

そうした背景もあり、日本も動きを加速させている。2019年3月には、環境省の中央環境審議会でプラスチック資源循環戦略(案)が取りまとめられた。そこでは、重点戦略としてレジ袋有料化の義務付けや、中国等の禁輸措置を受けた国内資源循環体制構築、途上国への対策支援等が掲げられた。また、2030年までに使い捨てプラスチックを累積25%排出抑制する等の具体的な数量目標も盛り込まれている[図表1]。

脱プラスチック問題
(画像=ニッセイ基礎研究所)

現状を考えれば、それなりにハードルもある目標設定と言えようが、欧州の打ち出した目標と比較すると踏み込み不足との指摘もある。G20大阪サミットに向け、国内で更なる議論や対策が進んでいくことが期待される。

日本企業も動き出している。外食チェーンの一部では、プラスチック製ストローの提供を取りやめた。また、プラスチック廃棄をゼロにする目標を掲げたり、ラベルレスのペットボトル飲料の販売を進めている企業もある[図表2]。

脱プラスチック問題
(画像=ニッセイ基礎研究所)

SDGsや、ESG投資(環境、社会、コーポレート・ガバナンスの観点を組み込んだ投資手法)が浸透しつつあることも、日本企業の背中を押している。

日本のプラスチックを巡る現状

我々は、実に多くのプラスチックに囲まれて生活し、その恩恵を受けている。プラスチック製容器包装は、食品の安全や衛生、鮮度や栄養価の保持、かさばる食品の効率的な輸送等に役立っている。また、惣菜の容器やレトルト包装等によって、家庭における調理の負荷軽減にも繋がっている。食の安全、フードロス削減、共働き世帯や高齢者世帯の増加等、社会課題の解決やライフスタイルの変化への対応に大いに貢献してきたことは間違いない。

一般社団法人プラスチック循環利用協会の推計(2017年)によれば、排出された廃プラスチックの約86%が有効利用されており、残りの約14%が単純焼却や埋め立てに回っている。有効利用率はここ数年上昇傾向にあり(2000年の有効利用率は約46%)、多くが埋め立て等に回っている米国等と比較すると高い水準にあると言われる。有効利用の内訳は、廃プラスチックを原料としてプラスチック製品に再生する材料リサイクルが約23%、化学原料として再生するケミカルリサイクルが約4%、そしてごみ焼却熱発電等に活用する熱回収(サーマルリサイクル)が約58%となっている。この有効利用率を更に高めていくことも今後の課題の1つである。また、中国等の廃プラスチック禁輸を受けた資源循環体制の見直しも必要だ。

更には、回収すらされない不法投棄やポイ捨て、地震や津波による災害ごみの問題もある。また、日本の沿岸部には、漁具やブイ、外国のペットボトルも多数漂着しており、漁業の現場における対策や、近隣国を巻き込んだ対策も必要になってくる。

これまで、日本においてもスーパー等におけるレジ袋有料化や、リサイクル及び分別回収の推進が進められてきた。そこから更に踏み込んだ、コンビニエンスストアでのレジ袋有料化や外食産業におけるストローの利用削減等の取り組みは大きな一歩になることは間違いないが、他にも難しい課題が山積しているのが現状だ。

日本の消費や社会生活を改めて見つめ直して議論していく必要あり

ある一定の条件の下で微生物等の働きによって最終的に水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチックや、植物等の再生可能な有機資源を原料にするバイオマスプラスチックの開発や普及が期待されている。現状では、通常のプラスチックと比べて製造コストが高く、本格的な普及には至っていないが、一層のコストダウンに向けて、産学官の更なる取り組みが期待される。

また、一部の使い捨て容器包装・製品のような回避可能なプラスチック使用を極力減らす、出来る限り長くプラスチック製品を使う、使用後は分別回収、再利用を徹底するという、より「賢い」プラスチックの使い方が求められる。代替素材の利用や、リサイクルの徹底だけではなく、無駄なプラスチック利用を減らすという視点が大前提になり、大きな変化には消費者や企業の痛みを伴う可能性がある。利便性と環境負荷軽減をどう両立、バランスさせていくのか、我々の消費や社会生活にプラスチックが深く浸透しているだけに、難しい議論になる。日本の消費や社会生活のあり方を改めて見つめ直し、議論していく必要があろう。

そして、国際的な対策や議論を日本がリードしていくという視点も求められる。プラスチックごみが海を渡って他国に漂着しているように、日本だけが取り組んでも問題解決には至らない。日本の技術やノウハウを、他国の問題解決に活用していく視点も必要だ。また、欧州中心に進んでいる規制、ルール作りについても、日本にとって不利な規制やルールが出来上がってしまうリスクも潜んでいる。あらゆる分野で規制、ルール作りを巡る国際競争が激しさを増している。新しい規制やルールが「ゲームチェンジ」を引き起こし、国家や企業の既存の競争環境に大きな変化が生じる可能性がある。地球環境を守る、持続可能な社会を作るという理念に疑いの余地は無いが、背景にはしたたかな国際競争があることも認識しておく必要があろう。

世界的に大きな動きを見せている脱プラスチックの議論。6月のG20サミットでは、議長国としての日本の手腕が問われる。一筋縄ではいかない難しい論点を含んでいるが、前向きな議論が進むことに期待したい。

矢嶋康次(やじま やすひで)
ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 研究理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任
中村 洋介(なかむら ようすけ)
ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 主任研究員・経済研究部兼任

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