要旨

積立投資,若い世代の資産形成
(画像=PIXTA)

若い世代は仕事の“伸びしろ”も大きい。一番大事なのは本業の仕事で「稼ぐ力」を高めることだが、シリーズ第1回に述べたような社会情勢の変化を考えると、「毎月1万円」などコツコツと投資する「積立投資」の併用が資産形成・資産防衛の支えになるだろう。

株は長期的には値上がりが期待できる

よく「株や投資信託は怖い」という声を聞く。確かに、以前は株も投信も怖いものだったが、近年は個人が長期的な資産形成を始める環境が整ってきた。日本の株式市場はバブルの清算を終え、米国など海外の株や投信も購入しやすくなった。金融行政・金融業界も個人の資産形成を後押しする方向に舵を切った。

さらに、若い世代は老後まで数十年という時間がある。これが最大の武器だ。「時間を味方につける」とはどういう意味か。そもそも株式というのは(株式を組み入れいている多くの投資信託も同様)、短期的には値上がりと値下がりを繰り返すが、長期では値上がりが期待できる。

なぜなら、株式の適正価格(理論価格)は(1)自己資本(資本金や過去に稼いだ利益の蓄積など)と(2)将来の予想収益(現在価値に換算)の合計で決まる(図表1)。一般に企業は稼いだ利益の一部を自己資本に加算する。赤字が続かない限り長期的には自己資本が増えるので、株価も上昇するということだ。

積立投資,若い世代の資産形成
(画像=ニッセイ基礎研究所)

「時間を味方につける」積立投資とは?大儲けは狙わないが、大損も避ける

それでも日本では「株は上がらない」というイメージが強いのはなぜか。最大の原因はバブルだ。1980年代のバブル期は株価が適正価格より高くなりすぎたため(ピーク時は適正価格の4倍くらい)、その調整に20年近くかかった。この20年間は株価が少し上がるとすぐに下がることを繰り返したため、「株は上がらない」というイメージを植え付けられたのだろう。

しかし、2010年頃にようやく調整を完了すると、その後のアベノミクスや世界的な景気回復による企業業績の改善を受けて、適正価格も実際の株価も上昇した。

その様子を示したのが図表2だ。日経平均ベースの自己資本は、アベノミクス前から趨勢的に増えたことが分かる。これが株価の下値メドとなり、2000年代初頭の世界同時株安、2008年のリーマンショック、その後の株価急落時も概ね自己資本と同じ水準で下げ止まった。

株価が自己資本に見合う水準まで下落すると、それ以上は株を売る投資家が減るからだ。実際、日本株も米国株もリーマンショック前の水準をとっくに回復している。

積立投資,若い世代の資産形成
(画像=ニッセイ基礎研究所)

今後も景気循環や政治不安などで株価が乱高下する場面はあるだろうし、バブルもいつか起きるだろう。「時間を味方につける」とは、こうした一時的な株価乱高下の影響をならすことだ。換言すれば、バブルに踊ることもなければバブル崩壊を悲観することもしない。

積立投資とは、大儲けを放棄すると同時に大損も避けつつ、企業本来の長期的な価値創造の一部を享受することに他ならない。

日本は人口が減るのに、株価が上がるのはなぜ?

ところで、日本では人口減少と一層の高齢化が確実視される中で、なぜ日経平均が値上がりすると考えて良いのか不思議に思った読者もいるだろう。セミナー等でも同様の質問をよく受ける。その質問に答えよう。

まず、日本企業の多くは海外で稼ぐようになった。欧米などの先進国にとどまらず、アジアやアフリカなど新興国への進出も目覚ましい。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、日本企業の海外売上高比率は2000年度に3割に満たなかったが、2017年度には6割程度に増えた。海外で稼いでいるのだから、国内の人口減少を理由に日本株市場の先行きを悲観するのは大間違いだ。

もうひとつ、日経平均の採用銘柄が定期的に入れ替わることも重要なポイントだ。日本経済新聞社が“各業種の代表選手”として採用銘柄を選ぶときに、株式市場で活発に取引されているかが重視される。その結果、衰退企業は自動的に日経平均から除外され、代わりに人気銘柄が補充される。

定期的なメンテナンスによってクオリティが維持される仕組みも、日経平均の長期的な上昇を支えている。

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井出真吾(いで しんご)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 チーフ株式ストラテジスト・年金総合リサーチセンター兼任

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