5月30日、ブラジル地理統計院(IBGE)は、2019年1-3月期のGDP統計を公表した。2019年1月にボルソナロ政権が発足して最初の四半期GDPの公表となったが、1-3月期の実質GDP成長率は前期比0.2%減(季節調整済系列)と、9四半期ぶりのマイナス成長に陥った。

四半期GDPの概況

ブラジルGDP
(画像=PIXTA)

需要項目別に見ると、内需・外需ともにマイナス成長となった。特に、内需は前期に続いて民間消費が減速し、総固定資本形成もマイナス成長となるなど、減速が明確となった。

GDPの約3分の2を占める民間消費は、9四半期連続のプラス成長となったが、前期比0.3%増と前期の同0.5%増から減速した(図表1)。インフレ率の上昇と失業率の高止まりが重石となっている。

ブラジルGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

政府消費は、同0.4%増と前期(同0.3%減)からプラスに転じた。

総固定資本形成は、同1.7%減と前期(同2.4%減)に続いて2四半期連続のマイナス成長となった。

外需は、輸入の伸びが同0.5%増と、内需の低迷を反映し、前期(同6.1%減)に続いて鈍かった。一方で輸出の伸びが同1.9%減と前期(同3.7%増)からマイナスに転じた結果、純輸出の成長率寄与度は▲0.4%ポイントと前期(+1.4%ポイント)から大きく成長率を押し下げた。通関ベースでは、2018年の輸出総額を大きく押上げていた中国向けの大豆や鉄鉱石の輸出が、1-3月にはアフリカ豚コレラ発生に伴う大豆の需要減やヴァ-レ社の鉄鉱石減産の影響によって落ち込んだ。

供給項目別に見ると、GDPの約6割を占める第三次産業は辛うじて前期比プラス成長となったが、第一次産業と第二次産業はマイナス成長となった。特に、第二次産業は鉄鉱石世界最大手のヴァ-レ社が、1月の鉱山ダム事故によって一部操業停止に追い込まれ、鉄鉱石生産が落ち込んだことが影響した。

先行きのポイント

ブラジル経済の先行きは、内需を中心に今後も軟調に推移すると予想する。外需については、引き続き輸入の減少が成長率を押上げることも考えられるが、輸出は豚コレラや鉄鉱石減産などの問題について収束の目処が立っていない他、中国経済の減速懸念もあり、弱含むと予想される。内需については、足元でも改善の兆しが見られないため、低迷が続くと予想する。また、国内外の最大の注目点である年金改革の実現については2019年中に法案が成立することが見込まれるが、ただちに景気を押上げるとは考えづらく、2019年の成長率は、前年比1.1%に留まった2017年・2018年同様、1%台前半と予想する。

1-3月期の内需が落ち込んだ要因として、ヴァ-レ社の鉄鉱石減産という特殊要因の他、新政権への期待が早くも剥落したことが考えられる。政権発足当初は、政権支持率、消費者及び企業の景況感、為替(対米ドル)が上昇し、新政権に対する改革への高い期待がうかがえたが、政権内の対立の表面化や最重要課題である年金改革の行方に対する不透明感の高まりによって、3月にかけていずれの指標も低下した。国内外の期待の低下を受けて、経済指標についても3月にかけて落ち込みが見られた。レアル安の進行を通じて3月のインフレ率(IPCA、対前年比)は4.6%と約2年ぶりの水準まで上昇し、小売売上高は前年比4.5%減と2016年以来の大幅なマイナスとなった(図表2)。3月の鉱工業生産(季節調整系列)も約2年ぶりの水準まで落ち込んだ。

ブラジルGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

また、足元でも為替(対米ドル)は5月に一時4.0レアルを割り込むなどレアル安に歯止めがかかっておらず、4月のインフレ率は4.9%まで上昇した。外需についても、輸出が2月から4月まで前年比マイナスが続くなど、改善の兆しは見られない。これらの状況を受けて政府やブラジル中央銀行は、2019年度の成長率見通しを下方修正している。先行きの見通しが明るくない中で、財政出動や金融緩和が期待されるが、政府の財政状況が悪く、レアル安によるインフレ率も進行しているため、年金制度改革が実現しない限り、いずれの政策も実行は難しいだろう。

年金制度改革については、政府は2月中旬に下院へ提出した年金改革法案によって、今後10年間で約1兆レアル(約30兆円)超の財政改善効果を見込んでいるが(1)、法案通りの改革を実現するのは議会運営上難しいだろう。年金改革には憲法の改正が必要で、下院・上院それぞれ2回ずつの審議において60%以上の賛成が必要となる。上院(81議席)、下院(513議席)それぞれで49、308の賛成が必要とされる中で、与党PSL(社会自由党)の議席はそれぞれ4議席、54議席に過ぎない。少数政党が乱立するブラジルでは、歴代政権が議会工作(2)によって議会運営を行ってきたが、既存政治を否定するボルソナロ大統領は十分な議会工作を行ってこなかったため、法案成立に必要な賛成票確保の目処は未だ立っていない。今後、政府は法案の修正によって「条件付協力政党」を取り込むことが予想され、2019年中の法案成立が見込まれる。焦点となるのは、法案が成立するか否かではなく、修正した上でどれだけ財政改善効果を残せるかである。

年金法案が成立した場合、レアルが持ち直すと予想されるため、利下げの可能性が高まるだろう。また、インフレ率も落ち着くと予想されるため、民間消費にはプラスに働くであろう。一方で、消費者にとっては年金受給額の減少は可処分所得の減少となるため、民間消費に悪影響を与える可能性も否定できない。仮に、年金法案が成立したとしてもただちに景気を押上げるとは考えづらく、2019年は低成長が続くだろう。

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(1)4月には、2月に提出した法案より踏み込んだ内容に修正し、見込まれる財政改善効果は拡大している。
(2)閣僚ポストを与える代わりに、協力を求めること。

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神戸雄堂(かんべ ゆうどう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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