要旨
- 中国は経済成長による所得の向上や、デジタル化による生活における利便性の向上によって、これまで主流を占めた経済的な豊かさを強く求める生き方や働き方は減退しつつある。一方で、生活習慣病や生活におけるストレスなどによる健康不安は高まりつつある。
- しかし、これまでと同様、公的・私的医療保険にかかる自己負担や保険料は高いままである。特に、所得が相対的に低い層は、長年、公的・私的医療保険の両方へのアクセスが難しく、医療受給に係る格差は広がりつつある。
- このような困難な状況があったからこそ生み出されているのが、ITを活用した様々な医療保障である。特にこれまで経済的な理由で治療を諦めていた地方・小都市の居住者や、農村から都市に移住した若手の就労者など、所得が相対的に低い層を中心に急速に普及している。中国でフィンテック、インシュアテック分野で、先進国とは異なる新しいモデルが次々と生まれる背景には、単に規制が緩いという理由があるだけではない。
- 医療費の救済を専門とするクラウド・ファンディングはその一例で、患者本人の治療費を募る寄付型に加えて、最小限の保障コストで給付が受けられる相互扶助型の保障プラン(相互扶助プラン)の提供、更に、運営会社がブローカー免許を取得し、保険会社の保険商品も取り扱っている。
- ただし、直面している課題は、その新たなビジネスモデルをどのように収益化し、継続させていくかであろう。特に、医療保障は疾病の治療という生きる機会を与え、貧困からの脱却など、その後の生活にも大きな影響を及ぼす公益性の高いものであるだけに、更に慎重な検討が必要であろう。