日経平均株価は6月に3.3%上昇した後、7月も前月末比で上昇を維持するなど、株式市場は総じて底固い展開になっています。米中通商摩擦の長期化が心配され、世界的に景気・企業業績に対する不透明感が強まっていますが、FRB(米連邦準備制度理事会)が金融緩和スタンスを明確にしたことで、米国株が過去最高値更新の動きとなり、世界的に市場参加者の安心感が強まっているためと考えられます。

ただ、株価上昇の割に東京株式市場は迫力不足のように感じられます。東証1部の売買代金は7/2(火)以降、連日で2兆円を割り込む「様子見」状態となっています。FRBが金融緩和姿勢を強めたことで、円高・ドル安が進み、景気・企業業績への不安が一層強まってきたことが大きな要因と考えられます。株式市場では明確な「物色の柱」が見当たらない上、日韓関係をめぐる新たな問題の台頭も懸念されます。

こうした中、株式市場では「キャッシュリッチ企業」に対する注目が高まってきています。総資産や時価総額に対し、現金預金の比率が高い企業は、好財務体質であることが多く、その分倒産リスクが低く、株主還元への期待も高いとみられます。M&Aの対象になりやすい側面があり、株価のパフォーマンスも上がりやすいと考えられます。そこで、今回の「日本株投資戦略」では、スクリーニングにより、「キャッシュリッチ企業」の抽出を行ってみました。

株式市場で注目度が高まる「キャッシュリッチ企業」とは!?

日本株投資戦略,上方修正期待銘柄
(画像=PIXTA)

それではさっそく、「キャッシュリッチ企業」をスクリーニングにより、抽出してみたいと思います。

(1)東証1部または同2部の上場銘柄であること
(2)時価総額に占めるネットキャッシュの比率が60%以上の銘柄であること
(3)総資産に占めるネットキャッシュの比率が60%以上の銘柄であること
(4)直近の決算で営業黒字を計上していること
(5)会社予想ベースの業績見通しを公表していること
(6)広義の金融や「その他」を除く業種であること

上記の全条件を満たす銘柄を、(2)で計算した時価総額に占めるネットキャッシュ比率が高い順に並べたものが表1になります。これらの銘柄は一般的に好財務体質であると考えられ、その分倒産リスクが低く、株主還元への期待も高いとみられます。また、M&Aの対象になりやすい側面があり、株価のパフォーマンスも上がりやすいと考えられます。

なお、ここでネットキャッシュとは、現金預金から長短借入金等を差し引いた金額と定義します。財務データが発表されている直近決算のデータを用いています。例えば、東建コーポレーション(1766)は6/12(水)に発表された2019年4月末データを用いており、現金預金1,206億円を7/9(火)の時価総額861億円や総資産1,949億円と比較したものです。なお、同社は長短借入金はなく、無借金経営の会社となっています。

この会社のように、ネットキャッシュが時価総額よりも大きいというのは、その会社の株式を時価で100%買収した場合、会社を清算(税金は未考慮)しても現預金が残るという計算になります。その意味で、かなり割安感が強い状態と考えられます。ただ、実際に買収が検討される場合、株主構成や事業環境等が吟味されることになります。特定株主・安定株主の比率が高い場合、実際の買収は困難になるでしょう。また、時価総額の減少や総資産のきそんにより(2)や(3)の数値が高くなる場合、事業環境の悪化等が背景の場合もあるので注意が必要です。

日本株投資戦略,キャッシュリッチ企業
(画像=SBI証券)

表1:株式市場で注目度が高まる「キャッシュリッチ企業」
コード / 銘柄 / 株価(7/12) / 現金預金比率対時価総額 / 現金預金比率対総資産
<1766> / 東建コーポレーション / 6,460 / 140.1% / 61.9%
<7544> / スリーエフ / 397 / 117.5% / 74.6%
<2428> / ウェルネット / 971 / 87.4% / 75.4%
<6459> / 大和冷機工業 / 1,061 / 80.7% / 60.1%
<6535> / アイモバイル / 778 / 75.2% / 80.3%
<3632> / グリー / 519 / 68.9% / 68.2%
<3275> / ハウスコム / 1,343 / 61.2% / 67.2%
<3682> / エンカレッジ・テクノロジ / 832 / 60.9% / 83.7%
※Bloombergデータ、会社公表データを用いてSBI証券が作成。スクリーニングは7/9(火)現在の株価データで行っていますが、時価の表示は7/12(金)終値に更新しています。

「キャッシュリッチ」であることの意味は?

日本企業が保有する現金預金比率が回復傾向にあります。長期的にみると、平成バブルを背景に1990年1~3月期にピークを付けた後は減少に転じ、リーマンショックで2008年7~9月期にボトムを付けましたが、その後は回復傾向を辿ってきました。(図1)

図1:日本企業の現金預金比率(四半期末)

法人企業統計をもとにSBI証券が作成。総資産に対する現金預金の比率。金融を除くベース。
(画像=法人企業統計をもとにSBI証券が作成。総資産に対する現金預金の比率。金融を除くベース。)

このように、企業の現金預金の量・比率は、日本経済の好不調を素直に反映しており、また、その回復自体は財務体質の強化に役立っています。冒頭で触れたように、現金預金の比率が高い企業は、好財務体質であることが多く、その分倒産リスクが低く、株主還元への期待も高いとみられます。

事実、上場企業の配当総額は2019年3月期に9兆851億円と前年度比9千億円弱拡大しました。リーマンショック以降の企業の保有現金高の回復が背景にあります。2019年4~6月期には、マクセルホールディングス(6810)のように、前期の純利益の2.5倍に相当する総額130億円の配当を実施して話題になりました。

現金預金比率が高いということは、財務体質の良さにつながる反面、その分純資産が膨らみ、ROE(自己資本利益率)を下げる要因になり得ます。投資家からすれば「不必要な現金預金が多く、資金効率が悪い企業」として映ってしまうことがあります。このような場合「もの言う株主」等から増配圧力が高まる可能性もあります。

また、企業によっては、豊富な現金預金を活かし、自社株買いに打って出る企業もあるでしょう。このように、現金預金比率の高い企業には、投資に値する魅力がある場合も少なくありません。

表1の最上位に出た東建コーポレーション(1766)ですが、賃貸住宅管理業界への逆風で株価も下落傾向をたどってきました。ただすでに予想配当利回りは3.4%前後と高水準です。

スリーエフ(7544)は7/11(木)に2020年2月期第1四半期を発表し、営業利益の黒字転換が確認されました。前期の無配から今期は1株6円の配当回復が期待できそうです。

図2:スリーエフ(7544)

図2:スリーエフ(7544)
(画像=当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。)

決済代行大手のウェルネット(2428)は一時に比べて利益水準が低下してしまいましたが、総資産223億円のうち、純資産は168億円と現金預金が豊富。今期も1株50円の配当を予定しており、予想配当利回りは5%を超えています。

大和冷機工業(6459)は業務用冷凍冷蔵庫の大手メーカーです。長年着実に利益を積み上げてきて、現金預金を積み上げてきました。自己資本比率は85.2%と好財務体質が誇りです。

グリー(3632)は携帯ゲームSNS「GREE」運営で、近年利益は減少傾向にあり、その下げ止まりを模索しています。ただ、過去の蓄積で現預金は863億円と豊富で、しかも無借金経営で財務体質は堅固です。増配余力は大きそうです。

図3:グリー(3632)

図3:グリー(3632)
(画像=当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。)

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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鈴木英之
SBI証券 投資調査部

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