中国国内の鉱山閉鎖という市場の矛盾
では、中国の鉱山について、もう少し詳しく見てみましょう。2013年の中国の鉄鋼生産量は7億8千万トン。2位の日本が1億1千万トンですから、約7倍の生産となります。全世界で15億トンもの鉄鋼が生産されていますが、中国だけでその半分を占めている事になります。ちなみに、中国で採掘される鉄鉱石は4億トン(2011年)ですから、その時点で資源輸入に頼らざるを得ないことになります。
そればかりではなく、①中国の鉄鉱石鉱山は採掘技術が低く人災が多い、②石炭や金といった精製技術の不要な鉱山に外資(日本も含む)の出資が集中している、などの要因によって、ヴァーレなどの寡占状態が揺るがないものとなっています。
また、ブラジルや豪州が露天掘りなのに対し、中国にはその技術が鉄鉱石採掘にはありません。結果として、国内にありながらコスト高、あるいは採掘量の保証もない鉱山ばかりとなり、中国では鉄鉱石の産出国でありながら、海外メジャーの価格引き下げのたびに閉山する鉱山が増加してしまう矛盾に悩まされています。年間300万トン以下の小規模鉄鉱石生産会社が、市場の50%を占めるため、中国政府は業界の再編成を促しています。
中国政府の鉄鋼生産の狙い
中国経済はどうなっているのでしょうか?先進諸国から発展途上国までが、中国との関わりを強めている中で、その経済運営は中国共産党の幹部一握りの手に委ねられています。ですが、中国最大の鉄鋼メーカー、宝山鋼鉄は中国最大の商業都市上海の宝山区にあるため、生産余剰になっているにも関わらず、中国政府は生産し続けるように「指導」している、と言われています。
不動産バブルが過熱している中国全土では、マンションや橋脚などの鉄鋼需要が続いていますが、あまりにも高騰しすぎている地価や家賃、住宅購入費用に国民の多くはもはや投資することもままならなくなっています。そのため、ソフトランディングを行っている政府の不動産投機抑制策が発令され、それが更に宝山鋼鉄、武漢鋼鉄集団などの有力企業に経営危機をもたらしているのです。
非常に自己矛盾を抱えたままの鉄鋼生産過剰ですが、ここまでの予測を立てていたヴァーレは、1トン110ドルという強気の見通しを崩しません。この根拠は、既に2013年までに経営合理化策を終了しておいたこと。これを前提に、鉄鉱石に事業規模の6割を投資していることから、もはや他社を寄せ付けない技術力と鉄鋼メーカーへの圧力が可能となったからでしょう。
中国政府といえども、石炭採掘の技術とは比べ物にならない複雑で、巨額の投資が必要な鉄鉱石採掘関連事業には、おいそれとは足が向かないのも理解できるのではないでしょうか。
資源メジャーの強さは当面継続する
鉄鉱石を必要とする市場は、極端に減る事はありません。問題は、高度な鉄鋼生産が可能なメーカーでなければ、生き残れないということです。幸い、シェールガス革命によって、火力燃料が安価に出回る可能性が現実となりました。
石油より安い資源の誕生で、今後よりコストパフォーマンスのよい鉄鋼生産が可能です。資源メジャーの勢いは10年20年先どころか、50年以上先を見越して強さを発揮するでしょう。