田坂広志氏 出版記念講演会より
去る5月27日(月)、丸善丸の内本店セミナールームにて、多摩大学大学院の名誉教授である田坂広志氏の講演会が開催されました。新著、『能力を磨く ─ AI時代に活躍する人材「3つの能力」』の内容をもとにしたその講演のダイジェストをお届けします。
第1の逆説「AI革命の時代こそチャンスである」
このたび、『能力を磨く ─ AI時代に活躍する人材「3つの能力」』という本を上梓しました。このタイトルを見て、「そうだ、能力を磨かなければ。大変だ……」と気おくれする方は、これからちょっと厳しいかもしれません(笑)。
AI革命の時代がやってきます。たしかに大変なことはいろいろありますが、一方でいままで磨けなかった能力が磨ける、チャンスの時代でもあります。そう考えて、「よし、自分の中で眠っていた可能性がいよいよ開花するぞ」と思えるような方が、これから活躍されると思うのです。
野球でもそうですね。九回裏二死満塁で打席に立ったときに「どうしよう、三振したら立つ瀬がない」と考えてしまうタイプは伸びない。「こんなチャンスに回ってくるなんて、俺は持っているな」という打者が成功するのではないでしょうか。
「AI革命によって知的職業に就く人の半分が失業する」と言われています。しかし実は、職業そのものが淘汰されてなくなるということはあまりない。AIによって置き換えられるのは、職業ではなく能力です。
わかりやすく言うと、営業という職業がなくなることはないけれど、マニュアル営業をやっているような人はAIに仕事を取られてしまう、ということです。そうではない営業パーソン、難しい商談になってもお客様の気持ちを考えて適切に判断し、自ら責任を持って対応できるような営業パーソンは、不要になることはないのです。
身につけるべき「5つの能力」
知的職業には5つの能力が求められます。最初の段階として「基礎的能力」。もう少し具体的に言うと知的集中力と知的持続力です。2つめは「学歴的能力」で、これは論理思考力と知識の習得力です。
ただしAI革命の時代には、こうした論理思考力があったり、知識が豊富であったりという能力だけでは、AIに淘汰されてしまいます。
これからより求められるのは3つめ以降の能力です。まずは「職業的能力」。スキルやセンス、テクニックやノウハウといったことが基本になる能力です。これらを身につけている方は、AI時代でも、それなりに活躍できるでしょう。
しかし、さらに活躍するためにはもう一段上のレベルである「対人的能力」が必須です。なぜなら、コミュニケーションやホスピタリティなどの能力において、AIが人間を凌駕する時代は当分の間来ないからです。
そして、もっとも上位にあるのが「組織的能力」です。リーダーシップやマネジメントと言われる分野です。ただしマネジメントのうち管理業務、たとえば資材管理や工程管理といったことはAIにすべて置き換わります。だから、人間にしかできないマネジメント能力を身につけないといけない。これについては後ほどお話します。