第2の逆説「高学歴のビジネスパーソンこそ危ない」

さて、これらの3つの能力を身につけている人は多くありません。特に、逆説的ですが、高学歴の方々が一番危ない。高学歴がマイナスになる、と言っているのではありません。

若いころから優秀だと言われ続けていると、お客様に対してどうしても「上から目線」になってしまって、その結果お客様が離れていきます。こういう人は相手の気持ちを感じ取る力を磨いていないし、自分も見えていない。そうしたことに自覚がないまま、いつのまにかお客様を遠ざけている営業パーソンは、決して少なくない。

前述した「職業的能力」を身につけることはもちろん大事なのですが、スキルやセンス、テクニックやノウハウだけ磨いてもだめです。それに加えて、マインドやハート、スピリットやパーソナリティという能力を磨いていかなければならない。

世の中には「スキル倒れ」という言葉があります。プレゼンは上手いけれども、顧客の心が離れていくという人がいますね。なぜ、そうなるかというと、一つには、「上から目線」で話すからです。もう一つは、相手に売りつけてやろう、買わせようという「操作主義」的な意識が強すぎるからです。お客様にはそれが見えるから、結果として売れない。これが「スキル倒れ」という状態です。

こういう落し穴に陥っている人は、スキルだけを身をつけてもだめです。その奥にあるマインドやハート、スピリットやパーソナリティ、言葉を換えれば、心構えや心の姿勢といったものを磨かないとプロとして一流のレベルにはいけない、ということを理解する必要があります。

そして、これらを身につけるには、「反省」を習慣にすることです。IQや学歴はまったく関係ありません。日々の経験を振り返るという意味での「反省」を日々の習慣にしているか、経験したことから、しっかりと智恵を掴んでいるかこそが、問われるのです。

1日の反省はほんの5分でできます。たとえば、営業から帰ってきて、売れた、売れなかったということよりも、商談中にお客様の質問に上手く答えられなかった、お客様を不快な気分にさせてしまったかもしれない、といった振り返りをする。これを怠らない人は、経験が糧となってどんどん成長します。反省しない人はせっかくの経験を無にしてしまう。大きな差です。

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(画像=日本実業出版社)

第3の逆説「不器用が有利」

「反省」によってスキルやマインドを身につけることができれば、AI時代にも大きな競争力になりますが、さらに活躍するために、皆さんにぜひ身につけていただきたい能力があります。

それは「智恵の伝承力」です。皆さんが持っている素晴らしいスキルを、次世代に伝えることができるかどうか。正確に言うと、若い人がそのスキルを身につけるのを支えられるかどうかが重要です。

智恵の伝承力がある人を見ていると、共通のものがあります。それは「不器用である」ということです。今日ここに、自分のことを不器用だと思っている方がいらっしゃったら、「おめでとうございます」と言いたい。これは、皮肉でも嫌味でもありません(笑)。

不器用な人は、ひとつのスキルを身につけるのに大変苦労します。実は私も不器用で、ひとつの仕事を仕上げるのに、優秀な同僚の何倍も時間がかかっていました。

しかし不器用な人は、苦労している分、人に教えるのがうまいのです。私も教えることには自信があります。不器用だからこそ、不器用な部下の気持ちに寄り添って教えられる。なまじ器用だと、無意識に「何でできないの?」という感情が態度に出てしまって、部下もついてきてくれません。これでは部下をマネジメントできない。

不器用こそ有利。この逆説を、今日はしっかりとお伝えしたいと思います。

AIには発揮できない「共感力」

4つ目の能力である「対人的能力」とは、要するにコミュニケーション力ですが、さらにそれは、言語的なコミュニケーション力と非言語的なコミュニケーション力に分けられます。そして、言語学者が明らかにしているように、実は、コミュニケーションの8割は非言語的なものです。それは、ビジネスの現場での営業の商談や企画会議も例外ではありません。

ところが、いまの時代のコミュニケーション論は、この2つの区別を考えていないうえに、言語的なコミュニケーション力に重点を置きすぎています。そのため、文章力を上げようとか、パワーポイントの使い方を工夫しようといったことばかりが言われます。しかし、残念ながら、非言語的コミュニケーション力の身につけ方を教えてくれる本もないし、人もいません。

そのためには、まず、相手の「無言の声」に耳を傾ける努力をする必要があります。実は、そのためにも「反省」の習慣が重要になってきます。

そのためには、会議や会合、商談や交渉などの後に、必ず、その場を追体験し、相手の表情や仕草などから、その心の動きを想像し、推察するということを繰り返すことです。最近では、「空気を読む」ということが盛んに言われますが、しかし、実際に空気を読む修行をしている人はあまりいないのですね。

こうした修行を通じて、相手の非言語的なメッセージにも耳を傾け、その「無言の声」を聴くことができるようになれば、プロフェッショナルとして、一段階成長できますが、このコミュニケーション力という意味では、もうひとつ大切なことがあります。

それは「共感力」です。相手の置かれた立場や感情を想像し、その思いに共感することができること。この「共感力」は、そもそも感情のないAIには絶対に発揮できない能力であり、人間だけが発揮できる能力です。そして、この「共感力」を高めるためには、何よりも自分自身が苦労した経験が重要です。部下が苦しんでいるときに共感できるのは、自分も似たようなことで苦しんだ経験があるからです。

自ら成長する意欲があればこそ

この「体験的共感力」は、本を読んだだけでは決して身につきません。自身がどういう苦労の経験をしてきたかにかかっています。だとすれば、どういう人が強いか。それは、苦労してきた人です。そして、仕事に真剣に向き合えば向き合うほど、たくさんの苦労を経験するのですね。

私も、著書にはあまり書きませんが、厳しい法人営業の世界で、いろいろな苦労をさせていただきました。そのおかげで、ささやかながらも体験的共感力を身につけることができました。この体験的共感力は、良きリーダーになるためにも、重要な資質だと思います。

なぜなら、部下は自分たちのリーダーについて、正反対の2つの言葉を語るからです。

1つは、「あの人は苦労知らずだから、我々の苦労をわかってくれない」という言葉。もう1つは、「あの人は苦労人だから、我々の苦労をわかってくれる」という言葉です。

このどちらの言葉を部下から言われるのか、それは、AI革命の時代に生き残れるかどうかということを超え、マネジメントの道を歩む人間にとって、極めて大切なことです。

そして、この「対人的能力」を身につけたならば、さらに一段上の「組織的能力」も身につける必要があります。

先ほど述べたように、マネジメント業務のうちの管理業務は、すべてAIが担うようになっていきます。では、人間にしかできないマネジメントとは何か。それは、「心のマネジメント」です。

心のマネジメントとは、たとえば、苦しんでいる部下を励ますことであり、成長の壁に突き当たっている部下を支えることです。たとえば、部下が勇気づけられるような、心に沁みる言葉を語れるかが問われるのです。

そして、皆さんがもし、リーダーとして部下の成長を支えたいと考えているのなら、何よりも、自分自身に問うべきことがあります。それは、自分自身が成長したいと強く願っているかどうか、ということです。「この部下たちと一緒に成長したい」と、誰よりも強く願い続けることです。その意欲があるならば、皆さんは、必ず、良きマネジャー、良きリーダーになっていけるでしょう。

(了)

プロフィール

田坂広志(たさか ひろし)
1951年生まれ。74年東京大学卒業。81年同大学院修了。工学博士(原子力工学)。同年民間企業入社。87年米国シンクタンク、バテル記念研究所客員研究員。同年米国パシフィック・ノースウェスト国立研究所客員研究員。90年日本総合研究所の設立に参画。10年間に延べ702社とともに20の異業種コンソーシアムを設立。ベンチャー企業育成と新事業開発を通じて新産業創造に取り組む。取締役・創発戦略センター所長等を歴任。現在、同研究所フェロー。2000年多摩大学大学院教授に就任。現在、名誉教授。同年シンクタンク・ソフィアバンクを設立。代表に就任。05年米国Japan Societyより、US-Japan Innovatorsに選ばれる。08年ダボス会議を主催する世界経済フォーラムのGlobal Agenda Councilのメンバーに就任。10年4人のノーベル平和賞受賞者が名誉会員を務める世界賢人会議Club of Budapestの日本代表に就任。11年東日本大震災に伴い、内閣官房参与に就任。13年「21世紀の変革リーダー」への成長をめざす学びの場、「田坂塾」を開塾。現在、全国から5000名を超える経営者やリーダーが集まっている。著書は、国内外で80冊余。

(提供:日本実業出版社)

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