老舗・船橋屋のツイッタードラマはなぜ、若者に人気なのか?

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(画像=THE21オンラインより)

創業1805年の老舗くず餅屋・船橋屋に、ピーク時、新卒1万7,000人が殺到した。10年で経常利益6倍を達成した八代目当主・渡辺雅司氏の数々の経営改革の成果だ。『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)出演でも話題になり、5月に出版した著書『Being Management 「リーダー」をやめると、うまくいく。』(PHP研究所)も発売後即重版がかかるなど好調だ。同社は「ツイッタードラマ」を活用した革新的なマーケティングでも知られている。詳しくうかがった。(取材・構成=前田はるみ)

老舗和菓子屋が実践するマーケティングの基本とは

東京・亀戸天神そばの老舗和菓子屋、「船橋屋」が制作したツイッタードラマが若者に人気だ。今年2月に配信された『ふたりぼっち』は、1週間で視聴回数が1400万回を記録。老舗和菓子屋とツイッターの意外な組み合わせが何かと注目されるが、「ツイッタードラマは単なる手段。マーケティングで大事なことは、商品を買うことでお客様がどうなりたいのかを突き詰めて考えること」と八代目当主の渡辺雅司氏は話す。老舗和菓子屋が実践する「マーケティングの基本」とは?

「船橋屋は創業から200年以上経った今も売上げを伸ばしています。なぜ、お客様は船橋屋でくず餅を買うのかを考えると、お客様は決してくず餅を買っているのではなく、それを囲む家族団らんとか、亀戸天神のお土産の思い出を買っています。もう一つは、くず餅を食べるとお腹の調子がいいとか、肌ツヤがよくなるといったお客様の声です。その声をきっかけにくず餅に含まれる乳酸菌を研究し、一定期間、摂取したところ、善玉菌の割合に改善がみられました。 つまり、お客様は自分が幸せを感じたり、ライフスタイルが向上したりするものにお金を払っているのです。この考え方をベースに、自分たちがお客様に提供できることは何かに向き合うことが、マーケティングの基本です。物が溢れる時代だからこそ、本物が選ばれていくと思います」

作り手や売り手もブランドを構成している

ところが、多くの会社は、売上や利益を目的とした施策を考えがちだ。それによって一時的に売れるかもしれないが、長続きしないと渡辺氏は指摘する。

「江戸時代から続く当社のくず餅は、和菓子唯一の発酵食品です。製造に約450日という手間暇をかけて店頭に並べても、2日しか日持ちしません。もし、自社の利益だけを考えれば、保存料を加えて拡販することもできます。でも、私たちはそうまでして売上を伸ばしたいとは思いません。それよりも、身体にいいものを販売したい。それが結果的にお客様に受け入れられると信じているからです」

マーケティングするのは、商品だけではない。

「消費者がブランドを選ぶとき、その会社の社員をみて選ぶという調査結果があります。当社のようなBtoC企業の場合、せっかく魅力ある商品を出しても、販売員が不機嫌そうな顔では魅力が半減してしまいます。

当社では、製造工程で職人が『美味しくなれ』と話しかけ、音楽を流しながら作っています。馬鹿げていると思うかもしれませんが、そのように心を込めて商品を作ったり、売ったりすることが大事なんです。そのためには、社員に会社や商品を好きになってもらわなければならないので、社員のモチベーションを高める仕組みの構築も含めてマーケティングだと考えています。永続する企業はそれをずっと実践していますね」