相続分が同等になることで想定されるトラブル

まず、平成13年7月1日から平成25年9月4日までに開始した相続で遺産分割協議中の方々のうち、嫡出子・非嫡出子が法定相続人として存在するケースでは、法定相続割合という前提が覆されるため、争いの種となり、話し合いが長引くことが想定されます。

また、遺産分割時のトラブルを避けるためには、親が遺言を書いておくことが推奨されています。遺言の内容が法定相続分よりも優先されるためですが、遺言を書く際は「遺留分」に留意する必要があります。「遺留分」とは亡くなった方の配偶者や子、直系尊属(親など)に認められた最低限の取り分のことで、具体的には「法定相続分の半分」とされています。

そのため、嫡出子と非嫡出子を持つ親で、「非嫡出子には遺留分に相当する金額を相続させる」等の遺言を書いている方にとっては、今回の改正が影響を及ぼします。非嫡出子の法定相続割合および遺留分が変更となることから、遺言の内容を見直す必要や、配偶者や嫡出子と話し合う必要が出てきます。

今回の決定が注目を集めたのは、子を平等に扱うことを優先させるのか、その父母の関係(法律婚か否か)を優先させるのかが争点となったことが理由として挙げられます。結果として、諸外国の状況や国民の意識の移り変わりを理由に、子の平等の観点が優先されました。そのため今回の決定については、父母の法律関係、つまり「結婚制度」の崩壊に繋がるのではとの指摘もありました。

夫婦は法律により相互の扶助義務が定められています。そのため、夫婦は生計の維持や子育て、親の介護などの苦楽を共にし、嫡出子はその夫婦により育てられ、将来的に親の財産を受け継ぐというのが、日本における一般的な家族像となっています。

そのような家族像に属さない非嫡出子の相続分を嫡出子と同等とすることに、否定的な感情を抱く人が一定数いることも理解できますし、改正前の法律は配偶者や嫡出子の感情に適したものだったと言えます。

ただし、近代法では「人は自己の非行のみにより罰や不利益を受ける」という基本原則があります。たまたま父母が婚姻関係になかったという、非嫡出子の立場からは選択する余地も責任もない事柄を理由に、法律の立場で差を設けて不利益を及ぼすことは許されず、法の下の平等の観点からは当然の判決であったと考えられます。これから、改正後の新法の下で改めて家族のあり方が見直され、今後の家族制度の多様化に影響を与えていくこととなるでしょう。

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