(本記事は、横山利香の著書『リスクが嫌いな人のお金の教科書』WAVE出版の中から一部を抜粋・編集しています)
リスクを減らした不動産投資なら不動産投資信託(REIT)を
不動産投資で家賃収入生活というと、家賃収入だけで生活できる夢のような大家生活が待っていると考えている人は意外と多くいます。
しかし、日本では少子高齢化が急速に進んでいるうえに、不動産投資の人気化や相続税対策の一環として、賃貸用の不動産が全国的に供給過剰気味になっています。
賃貸物件が増えるにもかかわらず人口が減少していけば、空室になるリスクは必然と高まります。たとえ大家になっても、空室が発生すれば家賃収入が減り、返済計画に狂いが生じてしまう可能性があります。
収益用不動産の購入はよい借入だと言いましたが、すべての不動産投資がうまくいくとは限らないのは、こうした時代による変化があるからです。
大家としては、順調に賃貸住宅の経営を行いたいと考えるのが普通ですから、空室発生によって返済不能に陥るリスクを回避するために、数十年間家賃を保証するという家賃保証ビジネスが存在しているのです。
数年前から世の中を騒がしている「家賃保証ビジネスの行き詰まり問題」は、不動産投資で楽に儲けたいと考える人たちとともに成長してきたビジネスが、少子化や供給過剰という時代の流れによって、そのビジネスモデルが破綻したひとつの例なのかもしれません。
しかし、不動産投資で成功している人もいるわけですから、考えようによっては、家賃保証をしなければ経営が成り立たない不動産を購入すること自体が投資としてどうなのだろうか、というところも問題ではあるでしょう。
ちょっと話が逸れてしまいましたが、アベノミクス景気の拡大に伴って最近は不動産価格も上昇傾向にあり、不動産投資に興味を持つ人が増えています。
借入を行うことで自分の手持ち資金以上の不動産を購入でき、家賃収入を得られる仕組みをつくることができるのが不動産投資の魅力なのですが、不動産を購入するために借入を行うことに抵抗を感じる人も少なくありません。
借入を行ってまで不動産を購入することには抵抗があるという人や、高額な投資を始めることには抵抗があるという場合には、少額から不動産に投資ができる不動産投資信託(REIT)を検討してみてもよいでしょう。
REIT(リート)は、たくさんの投資家から集めた資金で、複数のオフィスビルや商業施設、マンションなどの不動産に投資します。そして、その投資した不動産から得られる賃貸収入や不動産の売買益を投資家に分配する仕組みの金融商品です。「REIT」は「Real Estate Investment Trust」を短縮したもので、アメリカでつくられた仕組みです。そのため、日本(JAPAN)をつけて「J-REIT」とも呼ばれています。
REITは株式と同じように証券取引所で売買するもの
一般的な投資信託は、たくさんの投資家から集めた資金をまとめて、資産運用のプロであるファンドマネージャーが運用を行ってくれます。この時の投資対象は、国内外の株式や為替等ですが、REITの場合には不動産であるという点が異なっています。
また、一般的な投資信託は、銀行や証券会社を通じて購入しますが、REITは証券会社を通して自分で売買を行うことができます。
というのも、REITは投資信託のひとつですが、株式のような「投資証券」を発行している金融商品であるため、「不動産投資信託」という名称ではありますが、証券取引所に上場されている投資信託になるからです。
一般的な投資信託は、自分で取引する価格を決めることができません。しかし、REITは証券取引所に上場していますから、株式投資と同じように自分で証券会社から注文を出すことができ、取引する価格を自由に決めて売買できる点が魅力になります。
ですから、売買の方法から見れば、投資信託というよりも株式投資に近いと言えるかもしれません。
また、不動産投資で現物の不動産を購入する時になぜ借入を行うのかと言えば、収益用不動産の価格が数千万円程度から数億円と高額だからです。不動産投資の経験があるなしにかかわらず、ゼロから始めて短期間で複数の不動産を購入することは難しいと言わざるをえません。
その点、REITであれば、数万円程度と少額からの投資が可能です。そのため、REITに投資すれば、プロが選定した複数の不動産に数万円程度から投資することができるようになる点も魅力のひとつと言えます。
さらに、不動産投資のデメリットとしては、高額であるために流動性の低さが挙げられるでしょう。現物の不動産を売買する場合には、売りたい人と買いたい人の条件が合致することで取引が成立します。
しかし、不動産価格は数千万円から数億円という金額ですから、スーパーの食料品のように「新鮮だから、これにしましょうか」などと気軽に売り買いできるものでもありません。売り買いする人が少なく流動性が低いため、売りたい時に売れず、買いたい時に買えないこともあるでしょう。
その点、REITは、株式投資のように証券取引所を通して取引できますから、買いたい人が多いと値上がりし、売りたい人が多いと値下がりするという需要と供給の関係で価格が決まります。
そして、少額から取引できますので、手軽に取引できる点もREITの魅力と言えるでしょう。なお、売買単位はすべての銘柄が1口からとなります。
安定的に高い分配金が支払われている点がREITの魅力
REITが安定した収入を得られる投資先として人気を集める理由は、定期的に収入を得られる「分配金」にあります。後述しますが、分配金は株式投資における「配当金」にあたり、決算が行われるたびに支払われる仕組みになっています。
REITでは、投資している不動産から安定した家賃収入が期待できますし、不動産市況が好調だった場合には、不動産そのものが値上がりすることで売却益も得られます。
REITは、利益の90%超を分配するなど、一定の条件を満たせば実質的に法人税がかからないため、利益のほとんどを分配金として分配する仕組みになっています。
そのため、安定的に高い分配金が支払われるようになっている点がREITの魅力のひとつとなっています。
2019年1月末現在、上場しているREITは61銘柄あり、分配金は一般的に年に2回(1回のものもある)支払われます。
REITの分配金がどの程度の利回りなのか、気になりませんか? インターネットなどで「REIT」「利回り」「一覧」などと検索すれば、REIT全銘柄の価格に加え、利回りなどについて調べることができます。ぜひ一度検索してみてください。
分配金は決算などで運用会社などから発表されますが、金額はそれぞれのREITによって異なっています。
たとえば、サムティ・レジデンシャル投資法人というREITがあります。関西を基盤としているサムティグループをメインスポンサーとしていて、シングルやコンパクトタイプを中心とした住居特化型のREITになります。2019年2月28日現在、株価は9万5700円で、2019年の1口当たりの分配金は、1月は3050円、7月は3474円(予想)です。
次に星野リゾート・リート投資法人というREITがあります。日本各地に高級リゾート宿泊施設を展開している星野リゾートをスポンサーとするホテル特化型のREITになります。2019年2月28日現在、株価は53万2000円で、2019年の1口当たりの分配金は、4月は1万2918円(予想)、10月は1万2921円(予想)です。なお、サムティ・レジデンシャル投資法人は3459という4桁の証券コード(銘柄コード)、星野リゾート・リート投資法人には3287が割り当てられています。すべてのREITには、必ずこの4桁の証券コードが割り当てられていて、売買の時にはこの番号で取引を行います。
1回の分配金の額だけを見ると、3050円と1万2918円ですから、金額が多いのは1万2918円でおトクそうにみえます。しかし、REITの価格を見ると、約9万円と約53万円と異なっていることがわかります。分配金の金額だけではどちらのREITの分配金がおトクなのかはわかりません。
そこで、どのREITがおトクなのかを調べるためには、投資金額に対して受け取れる分配金の利回りがいくらなのかを調べるわけです。
分配金の利回りは、「(今期予想分配金×2)÷前日終値」で求めることができます。分配金は定期預金の金利にあたります。この計算式に当てはめて計算すると、2019年2月末現在、サムティ・レジデンシャル投資法人の分配金利回りは6%台ですが、星野リゾート・リート投資法人の分配金利回りは4%台になります。
計算式を見るとわかりますが、分配金の利回りはREITの価格と、分配金の金額によって決まります。ですから、いくら分配金が多くても、その分だけ価格が高ければ分配金利回りは低くなります。そして、毎日REITの価格は変動しますので、分配金利回りも変動することになります。
つまり、分配金に変動がない場合、REITの価格が安くなれば利回りは高くなり、価格が高くなれば利回りは低くなります。また、REITの価格が変わらない場合、分配金が増えれば利回りは高くなりますし、分配金が減少すれば利回りは低くなります。分配金の金額だけでは、その分配金が本当におトクなのかはわかりませんから、必ず利回りを計算するようにしましょう。