約10年かけて店頭展開強化のノウハウを築いてきた

KISSME,松本憲明
定番棚用の店頭販促物(画像=THE21オンライン)

江戸時代後期、文政8年(1825)に紅屋「伊勢屋半右衛門」として創業した化粧品メーカー・〔株〕伊勢半は、現在、「KISSME(キスミー)」をコーポレートブランドに掲げ、2019年2月期までの5年間で売上高を約170%に伸ばしている。国内に限っても約150%という快進撃。それを支える国内での営業戦略について、営業本部営業統括部部長の松本憲明氏に聞いた。


近年、存在感を増している化粧品メーカーの中には、ユーザーに直接、インターネットで商品を販売するビジネスモデルの会社も多い。一方、伊勢半は、代理店を通して、バラエティショップやドラッグストア、量販店などに商品を流通させる、いわば従来型のビジネスモデル。最も売れている商品は、全国約2万店の店頭に並ぶという。商品の売り場に販売員がいるわけでもなく、棚に陳列されている商品をユーザーが自分で選んで購入するセルフ販売方式だ。

では、なぜ、これほど売上げを伸ばすことができているのか?

要因としては、インバウンド需要が増えたことや、2017年発売の「キスミー フェルム 紅筆リキッドルージュ」など、ヒット商品が出たこともあるが、それに加えて、独自の営業戦略も大きい。

同社には、大手チェーンの本部との商談を担当する広域営業部の他に、約70人のセールスと現在34人のSMD(サービスマーチャンダイザー)がいる。セールスは、店舗を巡回し、店頭展開の強化を担当。SMDは、従来は店舗を巡回して什器メンテナンスや清掃などだけを行なっていたが、この2年間ほど、セールスと同じく、店頭展開の強化にも力を入れてきたという。合わせて約100人の社員が、約4,000店舗で、一斉に店頭展開のために活動できる体制が、伊勢半にはあるのだ。これが最大の強みだと、松本氏は話す。

KISSME,松本憲明
〔株〕伊勢半 営業本部 営業統括部部長・松本憲明氏(画像=THE21オンライン)

「一番重視しているのは、商品が最もよく売れる、定番棚の1段目と2段目のスペースをいただいて、900ミリ幅の店頭販促物を置かせていただくことです。定番棚は、春と秋の年2回、入れ替えがあって、どの商品をどの棚に並べるかは、直近3~4カ月間のPOSデータで判断されます。ですから、定番棚の1段目、2段目をいただける販売実績を、エンド棚で作ろうと、セールスやSMDがそれぞれに活動しています」(松本氏)

店舗では、通常、900ミリ幅の店頭販促物を三つ並べられる長さの什器を平行に並べて、通路が作られている。この通路を向いて商品が陳列されているのが定番棚だ。エンド棚とは、什器の端に、定番棚とは違う向きを向いて作られた、プロモーション用の売り場のこと。伊勢半のセールスやSMDは、自ら、このエンド棚に工夫を凝らした売り場を作ることで、自社商品の販売実績を作っているのだ。販売店にここまで入り込んでいる化粧品メーカーはそうないという。

「もちろん、代理店が同席している場で、販売店の本部に企画のご提案をさせていただき、各店舗の定番棚に一斉に同じ店頭販促物を置いていただくのが基本ですが、本部に許可をいただいたうえで、各店舗を担当するセールスやSMDがそれぞれに、エンド棚に売り場を作っています。現場を重視して、店舗のスタッフの裁量を大きくしているチェーンも増えています。

エンド棚のための店頭販促物も会社として用意していますが、どれをどう使うかは、各担当者に任せています。自分で飾りを用意したり、オリジナルのPOPを書いたりと、様々な趣向を凝らして、驚くような売り場を作ってくれていますね。『マミー』という商品のキャラクターのぬいぐるみを手作りして置く担当者まで現れて、年々エスカレートしています(笑)」(松本氏)

どれだけインパクトがあるエンド棚を作ったかのコンクールが社内で行なわれており、優秀者は「キング・オブ・コンクール」として表彰される。それもモチベーションにつながっているようだ。

KISSME,松本憲明
コンクールの様子(画像=THE21オンライン)

店頭でのこうした活動のためには、店舗のスタッフとの信頼関係が不可欠だ。10年ほど前、当時の営業メンバーが伊勢半で最初に始めたときは、ここまで店舗スタッフとコミュニケーションを取ることは、業界にあまり例のないことだった。しかし、何度も店舗に足を運び実績が上がるにつれ、信頼関係が築かれてきた。

「これは私個人の考えですが、信頼関係を築くためには、こちらの提案を押しつけないことが大事だと思います。当社の商品を展開するために他社の商品を移動させる必要があれば、自ら率先してその作業をするなど、販売店に対する当然の礼儀のようなことも大切です。

当社では、販売店の方とどういう話をして、どのように作業をし、どういう売り場を作れば、どういう結果が出るのかを、先輩に同行することで、新人が受け継いでいっています。全国に7カ所ある支店でそれぞれロールプレイングもして、相手に想いが伝わった状態にするためにはどうすればいいのかも学んでいます。

今の体制ができるまで、本当に大変でした。他社がすぐに真似できるものではないと自負しています」(松本氏)

(『THE21オンライン』2019年10月10日 公開)

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