(本記事は、大久保 豊、西村 拓也、稲葉 大明、尾藤 剛、小野寺 亮の著書『人工知能と銀行経営』きんざいの中から一部を抜粋・編集しています)
プラットフォーマーに浸食されるか、電子接続するか
銀行・地域金融機関が取り扱う金融商品・金融サービスは、単品販売ではなくなり、ポイント制度、キャッシュバック、受発注・相見積り等の商取引との構造化された“パッケージされたビジネス”となります。
“動的共鳴多次元一貫”というフィナンシャル・デジタライゼーションを拒むことはできません。法人個人を問わず、お客様がフィナンシャル・デジタライゼーションの世界に包摂されていくからです。それが不可避だからです。
そのような世界において、いかに対処すべきでしょうか。
すべてがデジタルの世界で生起し完結する世界において、その中心は残念ながら、銀行・地域金融機関とはなりえません。もはやお金が中心ではなく、“情報連結”するものが支配力を行使するのです。ITやIoTを梃子とした、業法上の制約が小さい“プラットフォーマー”が台頭します。いや、すでに台頭し強力な支配力を行使しているのは皆さんご存知のとおりです。
銀行・地域金融機関はデジタル社会のプラットフォーマーとはなれません。しかし、プラットフォーマーと協業して電子接続することはできます。
国民経済・地域経済の発展に有力なプラットフォーマーを選別し、電子接続します。そして、その電子潮流を自行に導き、商取引と構造化された“パッケージされたビジネス”の輪に入り、プラットフォーマーから融資案件や資産マネジメント案件の電子紹介を受け、またこちらからプラットフォーマーに対し、彼らのビジネスが伸張する電子紹介をします。
電子潮流は、地理的制約を超越したバンキング・ビジネスの発展を生起させ、新機軸の手数料ビジネスを生み出すことが期待されます(図表2-1)。
中国最大のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)であるウィーチャット(WeChat)を展開するテンセント(時価総額40兆円)が設立した微衆銀行(WeBank、2014年設立の中国初の民営銀行)のビジネスモデルは、個人ローン、投信等のスマホ販売に関し、“他の金融機関”に技術提供し販売協力することを第一としています。既存の銀行・地域金融機関は、プラットフォームの“1つのカスタマー・グループ”として位置づけているのです。
プラットフォーマーと電子接続する。そのために、成し遂げなければならないことがあります。それこそが、デジタル・プロセス・リエンジニアリング=DPRなのです。
プラットフォーマーと電子接続するということは、銀行内のビジネスプロセスを“デジタル”により革新する内部改革が必要不可欠です。
そうでなければ“デジタルは流れない”。デジタルが流れなければ、プラットフォーマーは電子接続する意味を感じず、接続するどころか排除することになります。
それは、法人個人のお客様の立場にとってみても同じことです。電子接続している取引銀行の内部が“人力対応”で、プラットフォーマーが要請するデジタライゼーション・ビジネスを履行できないのであれば、そもそもメインバンクとしないでしょう。
ニッポン大企業の商流ネットワークをバックボーンとしているメガバンクにおいては、違った次元でプラットフォーマーになれる可能性があります。
また、プラットフォーマーがねらうマーケットは、日本の基幹企業ではありません。小企業・個人事業主そして個人です。いくらプラットフォーマーが頑張っても、メガバンクの世界的金融力には太刀打ちできません。
プラットフォーマーが浸食するのは、地方銀行をはじめとする地域金融機関のマーケットです。一般個人層においては、預金・決済業務のみならず、資産運用業務、ローン業務(住宅・カードローン)において、総合的かつ大規模な浸食が想定されます。
メガバンク、大手地方銀行、ゆうちょ銀行等のナショナル・ブランド行を除いては、一般個人層は、もはや地域金融機関のコアカスタマーとして期待できなくなると想定します。
外国為替や振込手続は、急速にスマホや暗号通貨にシフトしています。手数料が無料あるいは驚くほど低価格なので対抗がむずかしい。
少額送金、仲間内の割り勘などはLINE Payが便利です。なぜなら、送金と同時にLINEができるからです。「送金しました」「たしかに入金確認しました」「お祝いをいただきありがとう」と会話できるからです。
金融庁は、送金・決済サービスの規制に関し、資金移動の規模により3つに再分類し、少額の資金移動業者に対しては、資金保全のための供託金額を引き下げる等の参入障壁の緩和を検討しています。この規制改革は、早ければ2020年、実現されると報道されています。
リアルな円通貨もさまざまな電子マネーに置き換わっていきます。
今後、中国のようにスマホでのQRコード決済が急拡大するでしょう。加盟店においては、店頭にQRコードを表示するだけでいっさいの設備費用が不要だからです。
スマホQRコード決済の大展開として、ソフトバンクの「PayPay100億円あげちゃうキャンペーン」は記憶に新しいところです。わずか10日で“190万人”のユーザーを獲得しました。1人当りの獲得コストは5,000円でした。たった10日で大手地方銀行の顧客数に到達しました。
楽天ペイのQRコード決済に、Suica機能を融合する業務提携が発表されました。楽天の電子決済可能店はすでに全国300万カ所、Suicaは110万カ所です。両社はもちろん、決済データをさらなるビジネス発展に活用していきます。そして利用する個人には、お得なポイントを小まめかつ動態にて付与します。楽天はすでに年2,500億円のポイントバックをしていると報道されています。
LINEも“先着3,000万人に1,000円”をというスローガンのもと、スマホ決済サービスであるLINE Payにて総額300億円の還元キャンペーンを始めています。LINEの友達なら自己負担ゼロ円で1,000円相当のポイントを送り合うことができるものです。
デジタルガレージ社は、決済システム(クラウドペイ)のサービスを開始すると発表しました。これはスマホ決済のQRコードを束ねるサービスです。NTTドコモ、LINE、メルカリ、中国アリババ、テンセントの日中5社のプラットフォーマーのQRコードを1つにして利用できるようにするものです。店側はそれぞれのプラットフォーマーと契約する必要がなく、導入費用もかかりません。
経済産業省によると、2018年の日本の電子商取引は前年比プラス8.9%の17兆9,845億円になったと発表されました。そのうち、スマホ経由が4割を占めるとのことです。
10年後の銀行ATMは昔の公衆電話ボックスのようになり、平成遺産といわれるのでしょう。ごく近い将来、一般個人層のほとんどが銀行店舗にもATMコーナーにも行かなくなります。“スマホこそが店舗”なのです。
24時間365日年中無休で密なる関係が築ける“スマホ店舗”の圧倒的な“立ち寄り立地”は、銀行のホームページではありません。プラットフォー マーが支配した電脳社会の窓である彼らのポータルサイトです。