「経営者にサインを」は、フランスではあり得ない
加えて、労使間の関係も大きく異なる。かつてゴーン氏が日産の工場を訪れたとき、従業員はゴーン氏を救世主か英雄のように熱狂的に歓迎し、着ていたシャツにサインを求めたりした。フランスのルノー工場に限らず、他の大手企業の従業員では、そのようなことはまず起こり得ない。経営者と被雇用者の間には深い溝があるからだ。
ゴーン氏の改善活動は確かに見事なものだったが、こうした日本人社員の土壌によって支えられていたのである。そのため、同じように旗を振ったところで、ルノーでは社員の抵抗もあり効果が上がらなかったということだろう。
ゴーン氏はフランスから日本に来ると、とたんに元気になったというが、それもうなずける話である。
ともあれ、ゴーン氏の「名経営者」という肩書は、あくまで限定的だと言わざるを得ないのである。
「名経営者」はどこで間違ったのか-ゴーンと日産、20年の光と影)
法木秀雄(早稲田大学ビジネススクール元教授) 発売日: 2019年10月23日
約20年に及んだ「カルロス・ゴーンの日産」は、ゴーン氏の突然の逮捕によって幕を閉じた。あれから1年、いまだ日産が混乱を続けている理由は「ゴーン氏の負の遺産」にあると著者は指摘する。
元日産自動車北米副社長。BMWジャパン、クライスラージャパンのトップ。そして早稲田大学ビジネススクール教授。そんな経歴を持つ著者だからこそ書ける「ゴーン改革の真実」とは? 成功と失敗のすべてが詰め込まれた最強のケーススタディ。(『THE21オンライン』2019年10月18日 公開)
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