要旨
英国総選挙まで残すところ1週間となった。 与党・保守党が、このまま勢いを保って過半数を制すれば、英国は20年1月末にジョンソン首相の合意に基づきEUを離脱し、現状を維持する「移行期間」に入る。しかし、歓迎ムードは長くは続かず、すぐに「20年末の崖」、すなわち、「将来関係協定なき移行期間終了」リスクが意識されるようになるだろう。
保守党のリードはジョンソン首相がとってきた強硬路線の成功を意味する。国民投票から3年半にわたり混迷が続いたことで、「離脱疲れ」が広がっていることにも支えられている。
最終盤での形成逆転をもたらし得る要因としては、第1に再分配重視の労働党への支持の広がり、第2に若い世代の既存の政治への不満の噴出ある。 「新たな普遍的な福祉国家」を目指すような労働党の政権公約を、保守党は厳しく批判し、ビジネス界や市場関係者の間でも評判は悪い。しかし、保守党政権下の大規模な歳出削減に不満を持つ有権者や繁栄から取り残されているとの疎外感を持つ有権者が評価する可能性はある。
労働党への支持は年齢層が低くなるほど高い。保守党政権が若い世代を軽視しているという不満が予想以上に強く、既存のメディアや世論調査、専門家らの予想外の結果が出る可能性も意識しておく必要はある。
英国社会には「離脱疲れ」が蔓延し、離脱が生活の改善につながるとの思いも根強いことから、ジョンソン首相が過半数を制する可能性は高そうだ。その場合、離脱後のEUとの新たな関係への移行を円滑に進めることと、離脱によってさらに拡大するおそれがある格差への対応に力を入れる必要がある。
最終盤の形成逆転で、労働党中心の政権が誕生した場合も、不確実性と分断は続く。国民投票を経て残留という結果になれば、離脱派は強い不満を抱くことになり、国内の分断は一層深まるだろう。