誰もが「書く力」を求められる時代に

文章のコツ,山口真由
(画像=THE21オンライン)

財務官僚から弁護士へ、そして現在は数々の報道・情報番組でコメンテーターを務め、講演会でも活躍している山口真由氏。そんな山口氏のアウトプットのエッセンスを凝縮した『思い通りに伝わるアウトプット術』が発刊された。数あるアウトプットの中でも、「書く」ことの重要性は年々高まっている。ここでは、ベストセラー作家でもある山口氏の「心に届く文章の書き方」について聞いてみよう。

「カラフルな文章」が読者をひきつける

テレビ等での「語る」姿が印象的な山口真由氏だが、数々のベストセラーを生み出した「文筆家」としての顔も持つ。文章を書くという作業とどのように向き合っているのだろうか。

「私が書く文章は、大きく二つのタイプに分けられます。一方は論文や法律関係の文書など、読む相手が特定されているもの。もう一方は一般向け書籍やネット記事など、不特定多数に向けて発信するもの。両者は、たとえテーマが同じでも、表現方法は大きく違ってきます」

前者に求められるのは、徹底的な正確性。法律という分野においては、解釈に幅を持たせないことが必須なのだという。

「誰が読んでも同じ意味で伝わるよう、厳格なルールにのっとった文法で書かなくてはなりませんし、主観や感情の入った文章は厳禁。結果として無味乾燥な文章になりますが、読み手は仕事上、必ず最後まで目を通すわけですから、『面白さ』は必要ありません」

逆に一般向けの読み物では、読者の興味を最後までひきつけなくてはならない。

「ある法律について紹介する場合、その基盤となる法理論を事細かに説明されても、一般読者には退屈でしょう。ですから、幹の部分はシンプルにして、枝葉=エピソードを膨らませます。例えば『代理懐胎(代理母出産)』というテーマについて書くなら、代理母となった女性が出産後に引き渡しを拒んだ『ベビーM事件』を紹介。この事件は、追い詰められた彼女が窓から子供を放り投げて夫にキャッチさせ逃走するなど、とてもドラマチックです」

こうしたエピソードを通して、登場人物の心情や人となり、場面のイメージなどがまざまざと浮かび上がってくる。

「読者の関心をひくのは、そうした『カラフルな文章』です。これを入れることで、本当に伝えたい幹の部分に関しても、より興味を持って読んでくれるようになるのです。 ちなみに以前、ベビーM事件についての論文に、『窓から赤子を投げ……』と書いたところ、『赤子』ではなく『新生児』にせよ、との赤字が(笑)。論文はあくまで『モノクロ』であることが求められるのです。

論文や書籍を書く機会があまりない方でも、企画書や報告書などについて、『この文章には何が求められているのか』を意識して書くと、より伝わるのではないでしょうか」

文章への苦手意識は「1文字」で消える!?

「相手の求めるものを意識して文章を書く」というと、ハードルが高いように思える。

「文章が苦手な人にお勧めしたいのは、まずは『1文字でもいいから書いてみる』こと。例えばワードに『企画書』と打ち込むだけでも、書くことに対するハードルはぐっと下がります。パソコンとずっとにらめっこしていても、何も浮かびません」

うまく書こう、と思わないことも重要だ。

「仕事の文章はエッセイなどとは違い、芸術性を求められるものではありません。社内でエッセイの出番があるとしたら、社長の『年頭所感』くらい。名文をひねり出すのは偉い方々に任せておいて(笑)、私たちは気楽に構えていいのです」

まずは全体構成を考えることなく、頭に浮かんだことをランダムに書き下すのがコツだ。

「当然、まるで整っていない文章になりますが、それでいいのです。現在では多くの人がパソコンを使って文章を書いていると思いますが、パソコンなら消したり書き足したり、段落ごと入れ替えたりと、後から自由自在に修正ができます。『書き直す前提』で書けばいい、と思えば気楽ですよね」

いったん書き出し、それを眺めることで、客観的に自分の思考を把握することが重要だ。

「『自分はこう考えていたのか』と俯瞰できれば、それを整理したり、そこからまた発想が湧いたりと、考えを深めることができます。こうして、だんだんと文章を洗練させていくのです」