(本記事は、小林裕彦氏の著書『温泉博士が教える最高の温泉 本物の源泉かけ流し厳選300』集英社の中から一部を抜粋・編集しています)
良い温泉の条件
私なりの良い温泉の条件を挙げると、かけ流しで、塩素殺菌がなされていないことを当然の前提として、次のとおりです。
(1)源泉の注入量が多い (2)源泉から近い(足元湧出がベスト) (3)色、臭い、ヌルヌル感など泉質が個性的である (4)複数の泉質がある (5)低温の源泉浴槽がある (6)飲泉可能である (7)浴槽や露天風呂に個性がある (8)自然環境に恵まれている (9)共同湯巡りができる (10)歴史を感じさせる古き良さがある (11)施設がさほど大規模ではなく、小綺麗で、サービスが良い (12)料理がバイキングでなく、手作りでおいしい (13)宿泊料がリーズナブルである
(1)源泉の注入量が多いことは重要です。浴槽の源泉の入替時間が短いほど良いということになります。
(2)源泉からの近さも重要です。泉質は源泉からの距離が大きければ大きいほど、落ちてしまいます。
また、足元湧出は、源泉が直に湧いている所に浴槽を作ったというものです。新鮮な温泉は、浴槽の温泉の表面を泡がはじいていて、入った瞬間気泡に包まれたり、何かエネルギーを吸収したような感じがします
(3)の色、臭い、ヌルヌル感などの泉質ですが、この点は好き嫌いの個人差があると思います。
私の場合、温泉に魅せられた当初はガツンと来る白濁した硫黄泉などが好きだったのですが、最近は湯質が柔らかくて、泡がお湯の水面ではじけるような感じで、ぬるめで長湯ができるような温泉が好きです。その上で、色や臭いにある程度の個性があって飽きが来ない温泉が最高です。源泉成分表には現れないようないい泉質の温泉に巡り会えたときの感激はひとしおです。
単純泉というと、よくがっかりされる方がいらっしゃいますが、それは塩素臭い循環風呂の単純泉に入ったからだと思います。
単純泉は、源泉温度が25℃以上で、溶存物総量が1g未満のものをいいますが、古くからの単純泉では、モール泉(植物が腐葉上から石炭に変わる亜炭層を経て湧くコーヒー色の温泉)のように色が付いていたり、ほのかに湯の花が舞っていたり、温泉らしい臭いや味がするものもあり、なかなか奥深いです。後に出てくる総合力の高い旅館30選+αや地域別おすすめ温泉200選の中にも単純泉はたくさん入っています。
(4)複数の泉質も重要です。せっかく行く以上は複数の種類の温泉を楽しみたいですね。
(5)低温の源泉浴槽があるということ、これが少し分かりにくいかもしれません。鉱泉分析法指針では、25℃未満は冷鉱泉、25℃以上34℃未満は低温泉、34℃以上42℃未満が温泉、42℃以上が高温泉とされています。
この点も好き嫌いがあるとは思いますが、私は、低温泉と38℃くらいまでの温泉が好きです。それは、長湯ができることと、あえて加温、加水しておらず本物のかけ流し温泉に入れるからです。
(6)の飲泉も重要です。本当に泉質の良い温泉は、飲んで美味しいです。白浜温泉(和歌山県)の牟婁の湯などでは、行幸源泉が使われていますが、これが実に甘い感じがして大変美味しいです。
飲泉許可は、硫黄泉、鉄泉、よう素泉など飲用水質基準に定められている溶存物質の上限を超えてしまうことからなかなか許可が出ないようですが、私は、飲泉許可やコップの有無にかかわらず、本物のかけ流し温泉の場合は自己責任で飲泉しています。
飲泉も重要ですが、風呂上がりに冷たいお茶かお水を準備しておられる旅館も有り難いです。
(7)の浴槽や露天風呂の個性は言うまでもありません。木や石を使った個性的な浴槽に泉質のいい源泉が大量に注入されているのがベストです。
(8)の自然環境に恵まれているということは単に山奥とか海辺というのではなく、心が癒されるような自然豊かなのどかな場所ですね。
(9)の共同湯巡りができることも重要なファクターです。良い温泉は長い間地域の人によって守られています。
(10)の歴史を感じさせる古き良さは重要です。良い温泉はやはり古くから人々を癒してきたので、それなりの古き良さ(侘び寂びといってもいいと思います)があります。
つげ義春氏は、「そういう貧しげな宿屋を見ると私はむやみに泊りたくなる。そして侘しい部屋でセンベイ蒲団に細々とくるまっていると、自分がいかにも零落して、世の中から見捨てられたような心持ちになり、なんともいえぬ安らぎを覚える」(『貧国旅行記』)と書いていますが、私も秘湯を巡っているうちに、その気持ちがよくわかるようになってきました。
(11)から(13)は、温泉そのものというよりも旅館のもてなしの良さになるのかもしれませんが、これは泉質ほどではありませんが、大切なファクターです。施設がさほど大きくないというのは、少し分かりにくいかもしれません。私は、以前は、大きな施設の旅館が好きだったこともありますが、どうしても浴槽が大きくなり、その分泉質が落ちるし、何かがやがやした感じがするので、最近は少し遠ざかっています。
また、宿泊料はやはり重要でして、私の場合、2万円以上の旅館はあまりお勧めしていません。後述の地域別おすすめ温泉200選に、例えば、福島県、神奈川県、鳥取県、鹿児島県の某旅館のように、泉質はかなりいいのですが、宿泊料が高い旅館はあえて入れていません。これは、それほどの料金を無理して払ってまでも行かなくてもという感じなのです。近くにもっと料金が安くて、泉質が同じくらいかもっといいところがあるからです。
このほかにも、洗い場に石鹸があることは個人的には重要です。液体石鹸だけでは、ヌルヌルして気持ちが悪いからです。スリッパは誰が履いたか分からないから気持ちが悪いとか、水虫が移るから嫌だという人がいますが、私はあまり気になりません。
良い温泉の評価は人それぞれで相対的ですね。
冷泉をすべて加温しては駄目!
源泉の温度について述べると、例えばそれが25℃であっても30℃であっても必ずすべて加温する必要はないのです。例えば、大分県の「寒の地獄温泉」、山梨県の「岩下温泉」「増富ラジウム温泉」「下部温泉」などは、いわゆる冷泉であることを逆に「売り」にしています。三重県の榊原温泉(枕草子で「ななくりの湯」として紹介されている温泉です)などでは、源泉を加温した浴槽よりも、冷たい源泉風呂に入っている人の方が多い感じです。
本物の源泉のかけ流しだと、少々ぬるくても入れるし、入っているとジワーッと効いてきます。せっかくの自然の恵みである冷泉を何でもかんでも沸かすといった愚かなことはやめるべきで、小さくてもいいので源泉浴槽を設けるべきです。
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