(本記事は、小林裕彦氏の著書『温泉博士が教える最高の温泉 本物の源泉かけ流し厳選300』集英社の中から一部を抜粋・編集しています)
新五大美人・美肌湯
戦前の鉄道省のパンフレットに、川中温泉かど半旅館(群馬県)、龍神温泉(和歌山県)、湯の川温泉(島根県)の三湯が挙げられていたことから、これらを日本三大美人湯というそうです。しかし、これらの三大美人湯については、循環風呂が多い温泉地があったり、美人湯と呼ぶにふさわしい特定の温泉成分も十分ではないようなので、少し美人湯の根拠に乏しい感じがします。
また、美肌の湯というものもあるようです。
そもそも美人の湯と美肌の湯の区別も分かりにくいですね。そこで、新たに、美人・美肌湯を選定したいということになるわけですが、肌がきめ細かくしっとり、ツルツルということになると、温泉の成分としては、保温効果に優れ、セラミドを整える効果の高いメタケイ酸を多く含む温泉が美肌の湯ということになります。
また、アルカリ泉や炭酸水素塩泉の中で、単にアルカリ度が高いとか炭酸水素イオンの量が多いだけでなく、体感的にヌルヌル、ツルツル感があって、肌にしっとり感と潤いをもたらす源泉かけ流しの温泉が美人・美肌湯ということになると思います。
以下の温泉は、私が選んだ新五大美人・美肌の湯です。
●1 中山平温泉 しんとろの湯 宮城県大崎市鳴子温泉字星沼18-9 日帰り
この温泉は入った瞬間、皮膚に膜が張ったような何とも言えない気持ちになります。
含硫黄─ナトリウム─炭酸水素塩・塩化物泉で、pHは9.3のアルカリ性です。メタケイ酸が何と754.0㎎/㎏で、これはかなり高い数値です。
一般的にメタケイ酸の含有量が50㎎以上なら美肌に有効とされ、100mg以上ならかなりの美肌効果があると言われています。
ちなみに、別府鉄輪温泉では、メタケイ酸の含有量が600㎎/㎏を超える所がいくつかあるのですが、ツルツルすべすべ感はさほどないように感じます。メタケイ酸の含有量は他の温泉成分とともに、美人の湯のひとつのファクターであると考えていただければと思います。
●2 熊の川温泉 熊ノ川浴場 佐賀県佐賀市富士町上熊川118 日帰り
PH9・5のアルカリ性単純泉ですが、さまざまなミネラルを含むと思われるヌルヌル感のある泉質の良い温泉です。
温泉に入るとすぐに体に細かな気泡がついて、体中が包まれる感じがします。ぬるめの源泉にゆっくり浸かると、いかにも美人、美肌になれそうです。
●3 湯布院温泉 束ノ間(旧庄屋の館) 大分県由布市湯布院町川上444−3
ナトリウム・塩化物泉です。
湯布院温泉は無色無臭の比較的地味な単純泉のイメージが強いのですが、この旅館は少し趣が異なります。コバルトブルーが鮮やかな温泉です。メタケイ酸の量が594mg/㎏とかなり多く、入るとツルツルになり、美人の湯にふさわしいです。
●4 別府鉄輪温泉 神丘温泉豊山荘 大分県別府市小倉4組
PH9・1の弱アルカリ性単純泉ですが、源泉が近いせいか、炭酸ガスの気泡が体について、ツルツル感が強いです。
よく肌に優しい泉質とか言われますが、この温泉は、肌に馴染んで膜を作るような感じの泉質です。
●5 山鹿温泉 さくら湯 熊本県山鹿市山鹿1番地1 日帰り
PH9・62のアルカリ性単純温泉です。
さくら湯は、地域に根ざした共同湯です。いつ行っても広い浴槽の中に大勢の人が入っています。浴槽に入った瞬間、何とも言えないヌルヌル感ととろみを感じることができ、良いお湯だということを実感できます。
三大山の中温泉
●1 赤湯温泉 山口館 新潟県南魚沼郡湯沢町苗場山5合目
現天皇陛下も学習院大学の学生当時訪れたという温泉です。
登山道を片道4~5時間歩きます。かなりしんどい山道です。宿泊者は私以外は全員登山目的の方で、私が翌日は山に登らずに下山すると言うと皆さん、「えっ何で」という感じで驚かれていました。
茶色に濁った含石膏食塩泉に入ると、疲れが吹き飛びます。
●2 本沢温泉 長野県南佐久郡南牧村海尻
登山道を片道3時間ほど歩きます。
帰りの登山道でツキノワグマに遭遇しました。襲われなくて良かったです。大声を出してもしばらく逃げなかったので、本当に恐かったです。登りの登山客に注意を促したところ、誰も信じてくれませんでした。
旅館内の内湯と少し離れたところにある露天風呂は白濁した濃い硫黄泉です。
●3 三斗小屋温泉 大黒屋 栃木県那須郡奥那須三斗小屋温泉
日本百名山のひとつ、茶臼岳の北西に位置し、那須ロープウェイから、登山道を4~5時間かけて歩きます。大黒屋と煙草屋旅館の2軒があります。長時間歩いてへとへとにはなりますが、湯の花が舞う単純泉に浸かりながら癒しの時間を過ごすのは最高です。
新三大秘湯
誰が何をもってそう名付けたのか不明ですが、ニセコ薬師温泉(北海道)、谷地温泉(青森県)、祖谷温泉ホテル(徳島県)を日本三大秘湯というそうです。おそらく、江戸時代などにおいては、以上の三湯は相当秘湯だったのだろうと思われます。
しかし、交通が発達した今日、これらは本物の秘湯といえるのかどうか疑問です。また、ニセコ薬師温泉は現在廃業しています。
ただ、秘湯という言葉の響きは何かわくわくするので、現代の三大秘湯を検討する必要はあると考えます。
秘湯とは、(1)交通の不便な、(2)一軒宿で、(3)建物に歴史があり、(4)何か秘密の隠れ家的な感じがする、素朴な温泉宿だと私は考えていますが、その条件に当てはまる新三大秘湯を挙げてみます。
●1 青荷温泉 青森県黒石市大字沖浦字青荷沢滝ノ上1‐7
ランプの宿は全国にいくつかありますが、本当に電気がないという意味では本物のランプの宿です。
山の中の一軒宿で、宿の造りも浴槽も本物の秘湯です。柔らかな単純泉がかけ流されています。ランプの薄暗い灯の中でだんだん目が慣れてきて、神経が研ぎ澄まされる感じがいいですね。
露天風呂は混浴です。部屋の壁が薄いので隣の部屋の声が聞こえてきます。本物の暗闇が分かる温泉です。
●2 西山温泉 老沢温泉旅館 福島県河沼郡柳津町五畳敷字老沢114
アクセスが不便な秘湯です。
階段を降りていくと、厳かに神様を祀っており、その前に3つの浴槽があります。思わず手を合わせてしまうくらいの秘湯です。湯の花が舞う源泉にせっかく来たのだからと、ついつい湯の花が舞う源泉に長湯をしてしまいます。体がぐったりするくらい含硫黄ナトリウム─塩化物泉の成分が体に染み込みます。
●3 北温泉 栃木県那須郡那須町湯本151
硫黄泉で有名な那須温泉湯本の鹿の湯からさらに車で約15分の場所にあります。そして、駐車場からさらに10分程歩いて下っていかなければいけません。
修現僧が昔から訪れていたというだけあって、建物内部は大変薄暗く、令和の旅館に来たとは思えないくらいのタイムスリップした感じの異様な雰囲気です。増改築を繰り返したため、建物の内部は迷路になっています。
メインの内湯は、巨大な天狗の面がおどろおどろしくも3つ掛けられていて、さまざまな温泉成分の濃厚な単純泉がドバドバっと大量にかけ流しになっている開放的な混浴の浴槽です。着替え用のスペースなどはなく、浴槽のすぐ横で、服を脱ぐようになっています。
このメインの内湯以外は、鉄分を大量に含んだ内湯とその下にプール(源泉がかけ流されている贅沢なプール)などがあります。
「テルマエロマエ」という映画で、ここの温泉プールが出て来たときは感動しました。
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