(本記事は、マーク・ハイマン氏の著書『アメリカの名医が教える 内臓脂肪が落ちる究極の食事』= SBクリエイティブ、2020年6月20日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

脂質の大誤解を解く

脂肪を食べてみるみる腹が凹む究極の食事術
(画像=nadianb/stock.adobe.com)

前章で述べた、「脂質への誤解」が解けたきっかけは、脂質に関する2つの大きな説が誤りだとわかったことだった。

1番目の説は、すべてのカロリーが体内で同じように作用するというものだった。脂肪1グラム当たりのカロリーは炭水化物やタンパク質の2倍以上あるため、当然、脂質の摂取を減らせば体重が減るということになる。つまり、あなたが摂る脂肪が内臓脂肪や皮下脂肪といった体脂肪に変わるというわけだ。

2番目の説は、脂肪であるコレステロールの沈着が心臓病を引き起こし、脂質、特に飽和脂肪酸がコレステロール値を上げるため、脂質の摂取が心臓病の原因になるというものだった。筋が通っているように思えるが、体は複雑で、こんな単純すぎる結論ではとても説明できない。すべての科学者と関連業界は、間違った仮定にもとづく誤った考えにのめり込んできた。

この章では、こうした2つの説がどのようにして科学業界で受け入れられるようになったか、そして、なぜこれらが間違っているのかを検討したい。

食事は遺伝子ごと体を変える「情報」

生物学(特に人類生物学)は限りなく複雑である。環境の影響を受けてダイナミックに変わる遺伝子・ホルモン・生化学の反応が絡み合っている。そして食物は、私たちが体と呼ぶ複雑なシステムの最大の「環境」調整物質だ。食物は単なるカロリーではなく、一口食べるたびに私たちの遺伝子、ホルモン、免疫系、脳内化学物質、さらには腸内細菌叢に根底から影響を与える情報である。

だが、食物に関する混乱を招く、もっと大きな要因がある。それは、栄養研究が一筋縄ではいかないことだ。私たちはどのようにして今の知識を得たのだろうか?

また、何が正確であるかをどうやって決めることができるのだろうか?

まず心得ておきたいのは、すべてのエビデンス、すべての研究が平等に創り出されているとは限らないということだ。若き医学生で医師であった私は、科学の絶対確実性を信じていた。科学は客観的で偏見に左右されず、私たちの問いに明快な解答を与えてくれた。 ところが時がたつにつれて、私はデータを注意深く分析することを学び、実際にどんな質問がなされ、どのような意図で研究が実施され、それがうまくいったのかどうかを知るために、研究を詳細に分析して手法と実際のデータを検討するようになった。さらに利益相反の有無を明らかにするために、研究資金の提供者を徹底的に調査した。

スタンフォード大学予防研究センターのジョン・イオアニディス博士は、ほとんどの栄養研究の信頼性に異議を唱えた。集団の食事の調査から結論を出す研究の大半は誤りであることが、その後の実験的研究で立証されたのである。イオアニディス博士は「その後のランダム化比較試験で、観察研究の主張の検証を行ったが、成績が芳しくないこと(ある再検証では0/52の成功率)、そして間違いがいつまでも続いていることへの批判が集中した1」と述べている。これらの概念や仮説を実際の人への実験で試すと、52の集団(観察)研究のうち、摂取すべき食品について元の考えが正しいと証明されたのは、0だったのだ!

本当に信頼できる医学的根拠

研究にはさまざまなタイプがあり(たとえば、観察研究 対 ランダム化比較試験 対 動物実験)、それぞれのタイプから導き出される結論は異なる。因果関係を証明するものもあれば、関連性だけを示すものもある。各タイプの研究にはそれぞれプラスとマイナスがあり、どれか1つの研究から確定的な結論を下すことはできない。すべてのエビデンスの重みと各タイプの研究がどのように行われたかを検討することが重要である。たとえば、それは被験者に一定の食事をとるように依頼し、それを期待する研究だったのだろうか、それとも、こっそりとアイスクリームを食べないように、自宅で食べる食品を研究者たちが供給したのだろうか?

摂取すべき食物に関するアドバイスと指針を参加者に与えるだけの臨床試験はまた、被験者を長期間病院に収容して、すべての食べ物を提供して直接代謝を測定する「代謝病棟研究」とまったく違う。

どんな集団を研究対象にしたかを知ることも大切だ。皆が体重82キロの白人男性だったのだろうか?

それとも、アフリカ系アメリカ人の女性、あるいはアジア系の子どもだったのだろうか?

遺伝的特徴の異なる集団がどのように違った食事に反応するかには、大変な違いがある。研究が1つの集団への効果を示しても、それは他の集団には当てはまらないかもしれない。

もう1つの問題は、大半の栄養研究が大規模な集団研究に頼り、それらの食事パターンはほとんどが食事アンケートや1日の食事の記憶によるものだったことである。この1週間、あるいは1カ月の間に食べたありとあらゆる物を本当に覚えているだろうか?

そして、その食事アンケートの内容は過去5年、いや30年の間に食べた物をどのくらい表しているだろうか?

その時々に推奨されていることによって、被験者が自分の食習慣を過少報告、あるいは水増し報告することが多い、と研究で詳しく説明されている。たとえば、 肉食が体に悪いと思っていれば、おそらく実際に食べた肉の量を過少報告するだろう。

これ以外にも、考慮すべきことがある。誰がその研究の資金を提供しているのだろうか?

利益相反はないのか?

たいていの医師が認めるように、科学はビジネスの対象になっている。研究者の仕事には資金が必要であり、多額の費用(この場合は何百万ドル)がかかることが多い。一般に資金源は2つあり、米国国立衛生研究所(HIH)を通じて資金提供する政府、そして民間産業(この場合は大手製薬会社、または食品産業)である。

ある研究の資金が食品会社から提供されている場合、その会社の製品に対して肯定的な研究結果を出す可能性が8倍になることがわかっている2。全国酪農協議会(NationalDairy Council)が牛乳に関する研究に資金提供すれば、牛乳が健康に良いという結果が出る可能性が高い。また、コカ・コーラがソフトドリンクの研究に資金を出していると、ソフトドリンクは肥満や病気と無関係であるという結果が出そうだ。このような事例では、客観的で透明性の高い研究を見いだすのは至難のわざである。なぜなら、研究は特定の結果またはデータの選択を示すことを目的としており、望ましい影響を得るために強調点が「作り出される」からだ。

実際の実験ではない集団研究で、問題になる要素を探り出すのは非常に難しい。たとえば、アジア人がアジアから米国に移住すると、肉を食べる量が多くなり、心臓病とがんを患う人が多くなるが、彼らは肉よりずっと多くの糖類を摂っている。ということは、肉が原因なのだろうか、それとも糖類が原因なのだろうか?

こうしたタイプの集団研究は、因果関係ではなく相関関係を示せるだけである。だが、メディアと消費者は研究結果を拡大解釈し、福音のように受けとめる。

実験的栄養研究の多くでは、被験者数がほんのわずかであり、確固たる結論を下すのが難しい。さらに悪いことに、比較のために用いる食事は(対照群)、理想的な代替食ではない。ポテトチップ、コカ・コーラ、ベーグル、パスタといった有害なヴィーガン食を、健康に良い野菜、オリーブオイル、ナッツ、グラスフェッドの肉といった高脂質の自然食と比べてもあまり役に立たないし、フィードロット肉(「フィードロット」は家畜を肥育するための飼育場)やトランス脂肪酸の多い食品を含み、新鮮な野菜や果物を含まない食事を、野菜中心の低GI 自然食品やヴィーガン食と比べても役立たない。

ではどうすれば、矛盾が多く紛らわしい情報の意味を理解し、栄養科学の不必要な分極化から逃れ、理想的な体重と最適な健康を実現する方法を見つけられるのだろうか?

あなたはパズルのようにすべての断片をつなぎ合わせ、あらゆる潜在的な問題と対立を考慮し、そのデータが示唆するストーリーに注目しなければならない。

個々の栄養素に注目してはいけない

本書で私は、健康に良い行動を妨げる固定観念や神話の誤りをあばくつもりだ。栄養について混乱が生じるのは、いわゆる栄養主義の影響もある。栄養主義とは、食事の成分をビタミンや特定の脂質などの栄養素に分析し、これらの栄養素を個別に調べる科学である。

この方法は、特定の経路や病気に狙いを絞った単一分子が存在する薬剤の研究に役立つが、個々の栄養素の研究には役立たない。それは、私たちが食べるのは食べ物であり、1つの栄養素ではないからだ。人が摂取する食べ物には何十もの成分、さまざまなタイプの脂質、タンパク質、炭水化物、ビタミン、ミネラル、植物栄養素などが含まれていることが多い。たとえば、「一価不飽和脂肪酸」と見なされているオリーブオイルにはまた、飽和脂肪酸が約20%、多価不飽和オメガ6脂肪酸が約20%含まれ、オメガ3脂肪酸も少し含まれている。牛肉にもさまざまなタイプの脂肪が含まれている。栄養学の分野では、個々の栄養素に焦点を当てることから、食事パターン、自然食品、複雑な食物の組み合わせ、つまり実際の食事法に注目することへと転換が起こりつつある。

脂質は悪者ではない

カロリー、体重、代謝について理解する際にまず、2つの矛盾する考えがあった。1つ目は、体内ではすべてのカロリーが同じ使われ方をするというものだ。これは、単純な物理現象にもとづいていた。つまり、実験室で炭酸飲料やオリーブオイルの100カロリーを燃焼させると、まったく同じ量のエネルギーが放出されるというわけだ。

しかし、これを人間の生理に当てはめて論理的に考えてみよう。そのカロリー源にかかわらず、体重に同じ影響がもたらされるだろうか?

私たちは、体重の調節が単なる摂取カロリーと消費カロリーの問題だと絶えず聞かされている。食べる量を減らしてもっと運動するだけで体重が減るという説はエネルギーバランス仮説と呼ばれ、自明の根本的真理のように思えるが、誤りであることがわかっている。

体重維持のための摂取カロリーと消費カロリーの公式は学問の世界と政府の政策に組み込まれ、カロリー計算が重視されることになった。最新の食品表示規制もカロリーを重視し、ラベルに太字で大きく表示することを求めている。すべてのカロリーが同等で、脂質には炭水化物やタンパク質の2倍のカロリーが含まれる(1グラム当たり9カロリー 対1グラム当たり4カロリー)とすると、カロリーを減らすには脂質を減らすのが一番良いというのは理にかなっている。バターは高エネルギーなので、バターを食べるよりパンとパスタを食べるほうがたくさん食べることができる、私はそう教えられ、新しい研究がこの考えを覆すまでそれを信じていた。

当然ながら、エネルギーバランス説には、意志の力が減量のカギであり、やるべきことはカロリー制限と運動量を増やすことだけだという意味が込められている。この偏った考えの論理的な結論はこうなる―あなたが太り過ぎなら、それはきっと、あなたが怠け者の大食家で、運動しないで食べることが大好きだからだ。

しかし、この考え方は誤りであることが実証されたのである。

1 . Ioannidis JPA. Implausible results in human nutrition research. BMJ. 2013 ;347 :f6698 .
2. Lesser LI, Ebbeling CB, Goozner M, Wypij D, Ludwig DS. Relationship between  funding source and conclusion among nutrition-related scientific articles. PLoS Med. 2007 Jan;4 (1 ):e5 .

アメリカの名医が教える 内臓脂肪が落ちる究極の食事
マーク・ハイマン(著者)
医学博士。9度にわたって『ニューヨーク・タイムズ』紙のナンバーワン・ベストセラー作家となり、専門分野で国際的に認められたリーダー、演説家、教育者、提唱者でもある。また、クリーブランド・クリニックのプリツカー財団機能性医学委員⾧、クリーブランド・クリニック機能性医学センター所⾧、ウルトラウェルネス・センターの創設者兼ディレクターであり、インスティテュート・フォー・ファンクショナル・メディスンの理事⾧、ハフィントンポストの医学編集者を務めている。
金森 重樹(監訳)
1970年生まれ。東大法学部卒業後、フリーター時代に1億円超の借金をつくる。不動産会社に就職後、29歳で行政書士として脱サラ。現在は不動産、建築、介護事業など年商100億円の企業グループオーナー、ビジネスプロデューサー。20代のころから恒常的に体重が90キロ近くある肥満体型だったが、高脂質・断糖食ダイエットを実践した結果、2カ月で58キロまで減量することに成功。現在はツイッターを中心に、高脂質・断糖食ダイエットの普及活動に取り組んでいる。主な著作に『自分の小さな「箱」から脱出する方法』(監訳)、『完全ガイド 100%得をする「ふるさと納税」生活』など。

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