自動車産業の進化を表す「CASE」とは?

電気自動車に自動運転機能が搭載される時代には、これと同じことが起こり得るのです。コア部品であるAIと全固体型蓄電池を購入すれば、どの企業でもハイエンドな自動車を販売できるようになる。すると、業界構造がパソコン業界のように変わるのです。

そうなれば、ホームセンターや家電量販店で中国の新興メーカーに製造委託した自動車が売られる時代がやってきます。今ちょうどドン・キホーテやホームセンターでプライベートブランド的に65インチの4Kテレビが10万円程度で売られていますが、それらの製品が大手ブランド品と性能がそれほど変わらないのと同じ状況になるのです。

自動車業界ではこのような未来を見据えてCASEというコンセプトで自動車産業の進化をとらえています。Cはコネクテッドつまり自動車がネットワークにつながること、Aは自動運転、Sはシェア(共有)、EはEV化つまり電気自動車へのシフトです。

この4要素のうち、AとEがトヨタをはじめとする大手自動車メーカーにとっての競争優位を揺るがす以上、生き残るためにはCとSで進化を遂げることが自動車メーカーにとっては重要だという認識が広がっています。

生き残りを賭けたCとSにまつわる課題

では、それによってトヨタは生き残ることができるのでしょうか。ここに大きな矛盾が存在します。このCとSについて自動車メーカー自身が後ろ向きなのです。自動運転車時代には、自動車の中で行なうことが運転ではなく別のものになる。

だから、Cの要素として音楽などのエンタテイメントコンテンツの流通や、自動車の行き先のレストランの比較といった要素に自動車会社が力を入れるべきだというアドバイスがまことしやかにささやかれていますが、それは中国やアメリカのIT大手が推進するコネクテッドのビジョンとは大きく異なるものです。

本来のコネクテッドとは、中国でアリババや滴滴出行が力を入れているような都市交通システム全体の最適化制御を、市内を走行する無数の自動車から得られるビッグデータを活用しながら実現していくようなビジョンです。

これが日本では行政の協力含め全く手がつけられない。だから自動車メーカーは「コネクテッドとはコンテンツだ」という消去法でできる範囲内の研究開発しか行うことができていないのです。

S(シェア)の方も同様です。ウーバーが始めたライドシェアの追及は本来、自動車メーカーが真剣に検討する要素のはずなのですが、ライドシェアが進むと不都合なことに自動車の販売台数は大きく減少すると予測されています。だから自動車メーカーは、実際には力を入れることができていないのです。

つまり、CASEのAとEで競合障壁を壊されるうえに、活路であるはずのCとSについてはIT企業ほどの力を入れられていない。この状態にこそ、自動車産業が世界的に衰退していくという未来予測の根拠があるのです。

そもそも、トヨタをはじめとする日本の自動車メーカーのライバルであるアメリカのテスラモーターズは、商品開発思想自体がCASEを見据えています。

例えば、自動運転のためのAIは、ダウンロードによってアップグレードが可能な設計になっています。ソフトウェアも充電池も、リプレイスすれば新型と同じ性能になる商品を発売しているのです。

その一方で、日本車は新商品が誕生したらとたんに陳腐化する設計思想で開発されている。目先のことしか考えずに経営を行なっているから、衰退すると予測されるのです。