(本記事は、⼤⻄益央氏の著書『なぜ、2時間営業だけでうまくいくのか?』光文社の中から一部を抜粋・編集しています)

なぜ、2時間営業だけでうまくいくのか?

勝利
(画像=garagestock/Shutterstock.com)

ボストンのお店は、基本は夜の2時間営業だけです。

しかも夏は、1ヵ月まるまるお休みをいただいています。

なぜ、そんなことが可能なのでしょうか?

それは、それだけ店を開けなくても問題ないくらい利益が出ているからです。家賃も払えるし、それ以外の支払いもできる。日本とボストンを往復するのに飛行機代が約20万円かかりますが、問題なく払えます。

1日2時間営業でも利益が出る。そんな仕組みをどうやってつくっているのか。ちょっと種明かしをしたいと思います。

まずうちは、ラーメン1杯が20ドル(約2000円)くらいします。

これは原価計算とは関係のない値付けです。原価率はおそらく10%もいっていないでしょう。ふつうに考えればありえないくらい高いラーメンかもしれませんが、この値段にしているのにはいくつか理由があります。

ぼくは1日の売り上げが、最低でも1200ドルくらいは必要だと思っています。1日1200ドル稼ぐことができれば、家賃が払えて、自分の給料も出て、利益も少し残ります。

ただ2時間営業して、ぼくがオープンからクローズまでラーメンをつくり続けたとしても、せいぜい60杯くらいしかつくれません。60杯で1200ドル稼ぐためにどうすればいいか? 計算してみると「1杯20ドル」という値段が導き出されます。20ドルのラーメンというのは、つまり「稼ぎたい金額から逆算をしている」だけなのです。

20ドルは、いわば「入場料」です。

ボストンのお店は、60人が20ドルで入れるお店なのです。

よく「原価が3割くらいになるように値段をつけなさい」と教えられることがありますが、ぼくはそんなことはまったく考えていません。

20ドルが高いか安いかは人それぞれでしょう。ただ、「20ドルを払ってでも、もう一度食べに行きたい」と思っていただける店をつくればいいだけなのです。

多くの人は「原価3割」と決めています。すると、どんなことが起きるかというと「その原価率で利益が出る」までの努力しかしなくなるのです。実は「原価3割」でやるほうが楽なのです。

原価3割でやっていれば、言い訳もできます。お客さまから「値段が高い」と言われても「それでもうちは原価3割かけていますので」と言えば、正論のように聞こえるからです。そこに甘えているだけなのです。

ぼくは20ドルを払っていただけるだけの努力をしなければいけません。そのぶん、ものすごく負荷はかかります。そのためにいろいろなアイデアを出す必要があるのです。

言い訳をせず「20ドル払ってでもまた来たい」と思われる店をつくる。そのことしか考えていません。その結果、人が来なくても、値下げをすることはありません。

「どうしたらこの値段でお客さんが来るか?」しか考えない。だからこそ、工夫が生まれ、魅力的なお店になっていくのです。

【POINT】
稼ぎたい金額から逆算して値付けをせよ

「業界のルール」を疑え

常識を疑うことです。

それぞれの業界には、先人たちが従ってきた常識や習慣があります。

誰かがルールとして定めたわけではないのに、固定観念で「みんながそう思っている」だけのことは多いのです。

ぼくは、そこをゼロベースで見直して、視点を変えるようにしています。すると「みんな常識かのように言うけれど、実はそんなルールなんて存在しないんだよな」と気づくことが多いのです。

「原価3割」の話も、さも常識かのように言われていますが、誰も「それがルールだ」なんて言っていないのです。

常識に従っているから、店がつぶれてしまうのです。

飲食業は10年続く店が6%しかないと言われますが、それはまさに「常識にとらわれている」からです。特にラーメン屋は、開業から1年で3〜4割はつぶれてしまうと言われています。

もともと実力があってうまくいったお店だけが街にあるので、多くのラーメン屋が生き残っているように見えますが、実際はそれくらいシビアな世界です。

何も疑問に思わず、常識に従っていたら、つぶれてしまう可能性が3〜4割もあります。だからこそ、新しく出ていくものはこの常識を疑う必要があるのです。

大手のラーメン屋であれば、原価率から逆算して値付けをするのはわかります。シェアを取りにいかなければならないからです。なるべく安く設定して、競合他社に勝たなければいけない。

コンビニの100円コーヒーなど、まさにそうです。「サラリーマンの平均年収が441万円だとしたら、1日にかけられるコーヒー代はこれくらいだろう。だから、価格設定はこれくらいが妥当だ」。こういった考え方は、大手の勝ち方であり、1日に何万杯も売らなければならない人たちが考えることです。

小さなお店が、同じ論理で価格設定をしていては生き残れません。

ぼくは、20ドル(約2000円)払う人を毎日60人集めればいいだけのこと。「20ドルは高い」と言う人がどれだけいようと、60人だけ集めることができたらやっていけるのです。大手がやっている計算方法を、小さな店にあてはめる必要がそもそもないのです。

「ラーメン1杯750円」といった値付けは大手の決め方です。ぼくらは大きなマーケットでシェアを取りにいくような段階ではありません。それが「業界の常識」であろうが「慣例」であろうが関係ないのです。

小さなお店には小さなお店の「勝ち方」があるのです。

【POINT】
常識に従っていては生き残れない

なぜ、2時間営業だけでうまくいくのか?
⼤⻄益央(おおにし・ますお)
「Tsurumen」店主。1976年、⼤阪市⽣まれ。1999年、近畿⼤学商経学部経営学科卒。2007年、地元⼤阪市鶴⾒区でラーメン店「鶴麺」をオープンし、2010年に2号店「らぁ麺Cliff」(現「Tsurumen」)をオープン。2店舗を⼤阪屈指の⼈気店に育てた後、2018年4⽉にボストンで「Tsurumen Davis」を開店。最低気温マイナス10℃以下にもなる極寒のボストンで、1時間待ちの⾏列を作る超⼈気店となる。「いまボストンでもっとも熱いレストラン」第1位を3ヵ⽉連続獲得。ボストンNo.1のメジャーな新聞「Boston Globe」の1⾯を飾るなど、メディアからの注⽬も⾼い。営業時間2時間のみや、オープンから1000⽇しか営業をしないなど、飲⾷店らしからぬ独⾃の“仕事幸福論”も注⽬を集め、「情熱⼤陸」〈2019年2⽉放送〉に出演。「Boston Magazine」誌「Best of Boston 2019」受賞。

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