中村 太郎
中村 太郎(なかむら・たろう)
税理士・税理士事務所所長。中村太郎税理士事務所所長・税理士。1974年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。税理士、行政書士、経営支援アドバイザー、経営革新等支援機関。税理士として300社を超える企業の経営支援に携わった経験を持つ。税務のみならず、節税コンサルティングや融資・補助金などの資金調達も得意としている。中小企業の独立・起業相談や、税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実・迅速なサポートに定評がある。

事業開始や事業拡大のための融資を申し込む際に必要となる「事業計画書」は、書き方に迷う人も多いだろう。事業計画書は、創業者が描く理想や夢を具現化するために、具体的な方法や手段、手順をまとめて示すことも必要である。今回は、事業計画書の書き方のポイントや作成前にやるべきことについて解説する。

目次

  1. 事業計画書とは?
  2. 事業計画書の目的
  3. 事業計画書を作成する5つのメリット
    1. 1.資金調達を成功に導く
    2. 2.事業の問題点や経営課題を整理できる
    3. 3.無理な借入れがなくなる
    4. 4.目標を可視化して行動に移すことができる
    5. 5.社内外の説明資料に活用できる
  4. 事業計画書に書くべき内容
  5. 事業計画書にフォーマットやテンプレ、書き方の決まりはある?
    1. 事業計画書のフォーマットやテンプレがある場合
    2. 事業計画書のフォーマットやテンプレがない場合
    3. 事業計画書で必ず求められるもの
  6. 事業計画書の書き方13個のポイント
    1. 1.事業の目的・創業の動機
    2. 2.経営者のプロフィール
    3. 3.事業の内容
    4. 4.取扱商品やサービスの内容
    5. 5.競合分析
    6. 6.収支計画
    7. 7.事業の見通し
    8. 8.マーケティング、PR戦略
    9. 9.取引先、取引関係の情報
    10. 10.役員、従業員の数と人件費
    11. 11.借金の状況
    12. 12.必要な資金と調達方法
    13. 13.書き終えたら第三者から意見を
  7. 事業計画を書く際によくある疑問点
    1. Q1.事業計画書はいつ準備すればよいのか?
    2. Q2.事業計画書は何年分書けばよいのか?
    3. Q3.事業計画書の将来の売上高はどうやって計算すればよい?
    4. Q4.事業計画書を作成する資格は?
    5. Q5.事業計画書に書くことは何ですか?
  8. 事業計画書を書く前に実施すべき3つのこと
    1. 1.融資の対象を把握しよう
    2. 2.頭の中で事業概要を説明してみよう
    3. 3.伝えたい内容を絞ろう
  9. 事業計画書で不安を感じたら専門家に相談を

事業計画書とは?

事業計画書とは? 作成前にやるべきことと書き方のポイント
(画像=takasu/stock.adobe.com)

事業計画書は、日本政策金融公庫や民間の金融機関などが、融資を検討するときに判断材料とする書類のひとつで事業の方針や戦略、戦術、将来性、経営者の能力などを伝える大切な書類だ。

もちろん、融資の審査は事業計画書だけで行われるものではない。過去の決算書や経営者個人の保証の有無といった定量的な要素のほか、融資の額や返済期間、保証の有無といった融資の諸条件を踏まえての総合判断となる。したがって、「事業計画書にこれを書けば審査に通る!」という裏技のようなテクニックは残念ながら存在しない。

融資をする金融機関側にとって一番大切なのは、「貸したお金を、期限までに利息付きで返してくれること」だ。融資を行う側も、安定した売上げを将来にわたって出し続けられる事業かどうかを見極めなければならないのである。

そのため、事業の将来性を確認できる事業計画書は、融資の判断材料としてかなり重要であり、特に創業融資であれば、過去の実績がないためより重要な判断材料になるだろう。

したがって、金融機関が納得する事業計画書を作成できれば、融資の成功に大きく近づくことができる。

なお、融資を受けること以外についても、事業計画書は、国や地方などが実施する補助金の交付決定における採択の判断材料になったり、ベンチャーキャピタルなどの投資家が企業への投資を決めたりする際の判断材料になる。

事業計画書の目的

経営者が事業計画書を作成する一番の目的は、企業の資金調達を成功させることにある。事業計画書を作成し、金融機関や投資家、補助事業を実施する国や地方公共団体などに向けて開示することで、自社企業への資金の融資や補助が適当であることをアピールできる。

そのため、事業計画書は開示先のさまざまな視点に適格に応えるものでなければならない。

・融資や投資を受ける際の視点

相手の視点が自社企業のどこに向けられているのか、それを知るためのポイントの1つが、「デット・ファイナンス」と「エクイティ・ファイナンス」の違いにある。

金融機関の融資のように、利息とともに返済を求める「デット・ファイナンス」では、前述の通り、相手が知りたいのは「期限内に返済してもらえるか」である。

資金繰りを含む事業計画書が緻密かつ現実的であるか、過去にも融資を受けた実績があればその返済はどうであったかなど企業の信頼性を重視されるだろう。

これに対し、ベンチャーキャピタルによる投資などの「エクイティ・ファイナンス」では、株価の上昇や配当が重要であるため、ビジネスモデルや競合対策といった事業の先見性や戦略を重視される。

・補助金の申請先の視点

補助金申請のための事業計画書であれば、補助金事業は国や地方公共団体のもとで行われるため、画一的な基準をしっかり満たすことが求められる。

そのため、補助金事業の趣旨にマッチする事業内容が記載されているのはもちろん、加点要素によくある「○○を○%アップさせること」のような数字的な条件を裏付ける内容が盛り込まれていることが望ましい。

事業計画書を作成する5つのメリット

事業計画書作成の具体的なメリットとは何か?

1.資金調達を成功に導く

事業計画書の内容によって、資金調達を成功に導くことができる。例えば、創業融資のように過去に実績のない事業でも、事業計画書を作成することで、その事業の成功の可能性を伝え、融資の判断材料にしてもらうことができる。

2.事業の問題点や経営課題を整理できる

事業計画書を作成するには、事業の内容や目的、商品やサービスの特徴、競合、取引先など、事業の基本事項や事業を取り巻く環境を整理しなければならない。それにより、事業の内容に不足や矛盾点がないか、あるいは事業に問題点や経営課題がないかを事前に把握することができる。

経営者が気づく問題点や経営課題は、融資担当者も気がつく可能性が高い。事業計画書を作成し、このようなポイントを整理することで、あらかじめ解決策を考えておくことができる。

3.無理な借入れがなくなる

事業計画書では、3年から5年ほどの先の収支計画まで考える必要がある。将来の収支を可視化することで、今、融資で調達しなければならない金額や返済可能な金額が見えてくるはずだ。計画書の上でさえ返済できないような金額を、金融機関が貸してくれることはないし、そのような金額を他者から借り入れるべきではない。

4.目標を可視化して行動に移すことができる

事業計画書に掲げる計画は、理想的な成長を遂げたときの内容になっているだろう。言い換えれば、その事業の成功ビジョンだ。したがって、融資を受けるためだけに仕方なく作成してはもったいない。融資を受けた後も、計画の実現に向けて行動することが大切だ。

また、書類で可視化したことによって、目標の内容を共同経営者などと共有することもできる。

5.社内外の説明資料に活用できる

事業計画書を作成することで、経営目標を共有したい相手への説明資料として活用できる。

自社の経営陣に対する説明資料として活用するのはもちろんのこと、従業員や社外取締役、ビジネスパートナー、アライアンス先、重要な取引先に対する説明や目標の共有に役立てることができる。

事業計画書に書くべき内容

事業計画書に記載すべき内容には、事業の概要、経営者の経歴、市場や競合の分析結果、事業の強み、経営状況や体制、収支計画及びその根拠などが挙げられる。

ただし、これらのうち、どの部分を強調したりどの情報を掘り下げて説明したりするかについては、その事業計画書を見せる相手によって異なる。

事業計画書を提出する相手によって知りたい部分に違いがあるためだ。

例えば、資金調達の目的で金融機関に提出する場合、相手が重視するのは「貸したお金を返してもらえるか」であり、「返済可能な資金繰りができる事業内容かどうか」、突き詰めれば収支計画が実現可能かどうかにある。

補助金の申請であれば、その補助事業の事務局が提出先になる。事務局が第一に見るのは申請要件を満たすかどうかだ。競争率が高い補助事業であれば、さらに加点要素やその補助金の目的により合致していることも求められるが、まずは申請要件を満たさなければ、その競争のステージに書類を上げることができない。申請要件は、法令や行政の指針、ガイドライン等で厳格に定められている。補助金ごとの公募要項などを読み込み、求められている事項を網羅するよう事業計画書を作成することが重要になる。

幹部や従業員などに経営計画として伝える場合は、売上高の目標とそのために強化・改善したい部分を明確にすることが求められる。それに加えて、経営理念やミッションを言葉にして共有しておくとよいだろう。幹部や従業員は10年、20年にわたって力を発揮してもらわなければならない存在だ。数値的な目標と、それを実現する使命感や社会的な意義を経営者と同じ目線で共有してもらう必要がある。

事業計画書にフォーマットやテンプレ、書き方の決まりはある?

事業計画書には、フォーマットやテンプレがある場合とない場合がある。

事業計画書のフォーマットやテンプレがある場合

金融機関などから融資を受ける際には、あらかじめフォーマットやテンプレートが用意されていることがある。その場合は、指定されたフォーマットを使用して事業計画書を作成しなければならない。

例えば、日本政策金融公庫では、事業計画書(新たに事業を始める場合は創業計画書)の様式があらかじめ定められている。審査に最低限必要な項目ばかりなので、漏れなく記載しなければならない。

様式内で書ききれない項目があるならば先方の担当者と相談し、資料を別途添付するなどの工夫をしてもよいだろう。

事業計画書のフォーマットやテンプレがない場合

事業計画書のフォーマットやテンプレがなければ、自分で記載例などを探して作成することが求められる。この時、融資を受ける際には融資用のものを参考にするなど、目的を合わせるとよいだろう。

補助金については、たまに採択事例紹介として採択者の事業計画書が公開されていることがある。

事業計画書の項目をすべて模倣する必要はないが、「なぜこれが採択されたのか」という視点で何件か目を通せば書き方の参考になるだろう。

事業計画書の参考になるものがまったくない場合は、相手が事業計画書に求める事項をいったん自身の中で整理するとよい。

事業計画書で必ず求められるもの

事業計画書では、資金調達の方法にかかわらず以下のような経営に関わる疑問点の解消を必ず求められる。

・事業の内容
・この事業でどのようにして収益をあげるのか
・どれほどの収益見込みがあるのか
・どのようにしてこの収益を見込んだのか

この点に、資金調達を行う相手先の視点を加えれば、記載すべき項目がある程度決まってくるだろう。

事業計画書の書き方13個のポイント

ここでは、具体的な項目別に、事業計画書の書き方のポイントを紹介する。必要に応じて項目を加えたり、複数の項目を1つにまとめたりしても構わない。

事業計画書の作成様式が決められている金融機関もあるため、その点は事前に確認が必要だ。

1.事業の目的・創業の動機

融資の審査など資金調達のための事業計画書であれば、創業の目的や動機は、融資や出資を求める相手を説得するための序章となる部分だ。

相手が注目するのは、①この事業をどう成功させるのか、②この人にそれが可能かどうか、という点である。

「なぜその事業を自分でやろうと思ったのか」この点を意識して書くとよい。

詳細な事業戦略や自身のプロフィールは後半の場所に記載できるため、ここでは、事業を選んだ簡潔な動機・目的と、その事業を成功させられると考える最も強い理由をあげて記載するようにしよう。

もしかすると、社会的な意義が高い事業であれば賛同が得られやすいとか、独特な価値観や感性を見せたほうが良い印象をもってもらいやすいと期待する人もいるかもしれない。しかし相手が融資先なのであれば、営利に直接的に結び付かない部分にそこまで力を入れる必要はない。

資金調達のための事業計画書は、資金を提供する相手としてふさわしいかどうかを、端的にいうと営利に関わる部分を伝えることにまずは専念したほうがよい。バックグラウンドに関する風呂敷を広げすぎず、簡潔に記載しよう。

補助金の申請のための事業計画書であれば、補助事業の目的を公募要領などから読み取り、それに合致する創業動機・事業目的があれば簡単に入れておくとよいだろう。

2.経営者のプロフィール

略歴(最終学歴や職歴)、保有資格などを記載する。プロフィールでは、これまでの経験・経歴から、その事業を成功させられる見込みのある人物であるかどうかを確認する。

融資を受ける事業内容が、これまでの職務経験や保有資格と結びつくと評価されやすいため、関係する職歴があれば、当時の担当業務や役職なども簡記しておこう。

事業内容に関わる直接的な経験がない場合、「何を書いても意味がないのでは?」と思うかも知れないが、そんなことはない。関係のない職歴であっても、何かしら事業に関連する業務や社会経験はあるし、記載があるかないかでは印象が異なる。長く勤めた勤務先があれば、勤勉な人柄もアピールできるだろう。

事業計画書とは?書き方のポイントや作成前にやっておく3つのこと

3.事業の内容

事業の目的や経営理念、ビジョンなど、事業の全体像を記載する。書きたいことが多すぎてまとまらない時は、商品やサービスの特徴に直接関係のある内容に絞るとよい。例えば、美容室関連の事業で「子ども同伴可の美容室」という特徴がある場合、「〇〇地区の子育て支援」などを目的に掲げるとわかりやすいだろう。

金融機関側も「社会貢献」のような抽象的な目的よりも、商品やサービスに関係のある内容を目的に掲げた方が具体的なイメージがしやすい。

事業計画書とは?書き方のポイントや作成前にやっておく3つのこと
事業計画書とは?書き方のポイントや作成前にやっておく3つのこと
事業計画書とは?書き方のポイントや作成前にやっておく3つのこと

書きたい内容が決まらない時や書き出しに迷った時は、「何をして収益を生み出す事業か」の「何をして」の部分を短い文章で言語化するところから始めるとよいだろう。

そこから相手が疑問に感じることや知りたいと思うことを、提出先の立場から想像して情報を書き足していくと、流れが良く、汎用性の高いものができやすい。

4.取扱商品やサービスの内容

具体的な商品・サービスの内容や、セールスポイント、ターゲット市場や顧客などについて記載する。新しいビジネスは、収益化のイメージをしにくい場合があるので、イメージ図や具体的な内容も交えた説明資料も添付するとよいだろう。

事業計画書とは?書き方のポイントや作成前にやっておく3つのこと
事業計画書とは?書き方のポイントや作成前にやっておく3つのこと
事業計画書とは?書き方のポイントや作成前にやっておく3つのこと

5.競合分析

計画している事業の商品やサービスが、収益化できると判断した根拠を示す項目だ。市場規模や顧客のニーズ、市場の流れや成長性、自社の強みなどを数値化し、他社にない独自のアイデアがあれば、しっかりアピールしよう。

・市場規模や顧客のニーズに関するデータの探し方

統計の数字に基づき、たとえば、市場規模が拡大傾向にあることや消費量が増加傾向にあることなどに触れ、自社の商品・サービスとトレンドがマッチしている点を書くことで、説得力のある事業計画書になる。

市場規模やニーズに関するデータについては、まず政府の統計から探すとよい。

【サービス産業の市場規模調査】

サービス業の市場規模については、総務省統計局の「サービス産業動向調査」を確認するとよい。産業分類ごとのサービス業の月間売上高と増加率、それらの推移を確認できる。

対象となる産業分類は、大分類でいうと「情報通信業」、「運輸業、郵便業」、「不動産業、物品賃貸業」、「学術研究、専門・技術サービス業」、「宿泊業、飲食サービス業」、「生活関連サービス業、娯楽業」、「教育、学習支援業」、「医療、福祉」、「サービス業(他に分類されないもの)」である。それぞれの中分類ごとのデータも確認可能だ。

総務省統計局「サービス産業動向調査」

【卸売業・小売業の市場規模調査】
卸売業・小売業の市場規模調査は、経済産業省の「商業動態統計」を確認するとよい。

業種別の販売額と増減比のほか、販売店舗別(大規模卸売店、百貨店・スーパー、コンビニ、家電大型専門店、ドラッグストア、ホームセンター)での商品別販売額、都道府県別販売額の推移も調べることができる。

経済産業省「商業動態統計」

【顧客ニーズの調査】
総務省統計局の「家計消費状況調査」では、世帯の消費の動向を見ることができる。

商品・サービスごとの1か月あたりの支出やインターネットショッピングによる支出などを、世帯の人員や年収、年齢、世帯主の勤め先の企業規模などに分けて調べることができる。

総務省統計局「家計消費状況調査」

【統計がない場合】

調べたい業種に対象を絞った統計がない場合、その業種を主管する省庁がある場合は、そのホームページも確認するとよいだろう。

たとえば、飲食業や美容業であれば厚生労働省、不動産関連であれば国土交通省、ペット関連であれば環境省などだ。

もし近年の審議会や研究会で、その業種に関係する問題点が審議・研究されていれば、会議の配布資料に、市場規模や業界の問題点などが掲載されている場合がある。資料はホームページに掲載されており、誰でも入手可能だ。

審議会や研究会で取り扱われる議題は、将来の法改正などその業界の動向に関わる情報である。よって、事業計画書の策定に必要かどうかに関係なく、関心をもつことが大切だ。次項のSWOT分析にも役立つだろう。

他には、民間の調査会社に依頼して、より細かいニーズを把握する方法がある。

・SWOT分析による強みの分析と書き方

自社の強みは、ただそれだけを書いても、経営にどのように役立つかが判断できず説得力がない。自社の経営環境を踏まえ、事業に優位に働くことを説明することがポイントだ。

SWOT分析とは自社のもつ「強み(Strength)」と「弱み(Weaknesses)」を、外的要因である「機会(Opportunities)」と「脅威(Threats)」と組み合わせて、経営戦略や問題の解決策を見つける方法である。

【強み・弱み】

自社の強みと弱みについては、機会と脅威を踏まえた上で、競合には無いが自社にはあるもの、競合にはあるが自社には無いものをあげると説得力のある内容にしやすい。

競合については、ホームページやSNS、実地調査などで、ターゲットや商品・サービス内容、価格、販売方法、知名度やブランドなど、その特徴を調べておく必要がある。

【機会・脅威】

強み・弱みが内部の要因であることに対し、機会・脅威は外的要因である。機会は好機となる外的要因、脅威は悪い材料となる外的要因だ。競合の存在や市場の成長性、景気、法改正に関するものなどが考えられる。

以下のように、「強み・弱み」と「機会・脅威」を掛け合わせ、強みを活かして弱みを解決する策を考えるとよい。

・強み×機会・・・強みとチャンスを活かし、成長するための戦略を立てる
・強み×脅威・・・強みを活かして脅威を打開する、あるいは強みを活かすために脅威を排除する方法を検討する
・弱み×機会・・・機会を活かして弱みを解決する、あるいは機会を活かすために弱みを克服する方法を検討する。
・弱み×脅威・・・リスクを最小に抑える対策を用意する。

【SWOT分析を活用した書き方のイメージ:弁当屋の例】

(強み)管理栄養士の資格×(機会)中年男性の間で美容や健康意識が高まっている
→○○調査の結果から、40代男性を中心に美容や健康に関する消費が半年前から急増していることが判明した。オフィス街の販売所に「管理栄養士が作った日替わりヘルシー弁当」を販売することで、美容や健康意識の高い男性客を取り込む予定である。

定型の様式で記載欄がない場合は、「商品やサービスの内容」の項目に加えるとよい。分析結果の根拠となった資料は別途添付するか、面談時に手持ち資料として持参して説明できるようにしておこう。

6.収支計画

収支計画は、一定期間の事業の収支を予想して記載する。現在の収支を記載し、その横に一定期間後の予想数値を記載することが一般的だ。収支の項目は、損益計算書を簡易的にしたものをイメージすればよい。

記載するのは売上高、売上原価、一般経費(人件費、地代家賃、広告宣伝費、減価償却費など)、利益となる。法人の場合は、人件費に経営者の給与も含めなければならない。売上原価のない事業もあれば、一般経費の内訳も業種によって違いがあるので、項目は調整しよう。

事業計画書とは?書き方のポイントや作成前にやっておく3つのこと

7.事業の見通し

収支計画に合わせて、事業展開の予定もあれば記載しよう。例えば、「1年目にホームページを開設する」「2年目に正社員を1人増やす」「3年目に店舗を1つ増やしてアルバイトを2人増やす」など、極力具体的な計画を示すことが望ましい。

事業計画書とは?書き方のポイントや作成前にやっておく3つのこと

8.マーケティング、PR戦略

顧客に選んでもらうには、商品・サービスに優位性をつくるための販売戦略が必要となる。具体的には、低価格で販売することで優位性をつくる方法、個性的な商品・サービスで差別化する方法、特定のターゲットに絞る方法に分けることができる。どの方法で勝負するかを決めたら、その方法とターゲットに届くPR戦略を策定して記載する。

9.取引先、取引関係の情報

取引先の情報について記載する項目である。販売先、仕入先、外注先のそれぞれの名称やシェア率などを記載する。なお、事業計画書と別に作成する「資金繰り表」で、取引先等からの現金の回収・支払いのサイクルを示す。

事業計画書とは?書き方のポイントや作成前にやっておく3つのこと

10.役員、従業員の数と人件費

会社の組織体制や人件費関係を記載する項目である。役員、正社員、パート・アルバイトなどに区別して、人数や人件費を記載する。

事業計画書とは?書き方のポイントや作成前にやっておく3つのこと

11.借金の状況

事業資金の借り入れや、住宅や自動車などの経営者個人のローンについて記載する。

事業計画書とは?書き方のポイントや作成前にやっておく3つのこと

12.必要な資金と調達方法

事業に必要な資金と調達方法を記載する。一般的には、貸借対照表の資産の部と負債・純資産の部のように、必要な資金(左側)とその調達方法(右側)に分けて記載する。

【イメージ】

事業計画書とは?書き方のポイントや作成前にやっておく3つのこと

13.書き終えたら第三者から意見を

事業計画書を書き終えたら、経営や融資の知識を持つ専門家に見せてフィードバックをもらうことが重要だ。何度も見ている作成者の目では気づくことのできない不備が、必ず見つかるものだ。

この仕上げによって、融資担当者に伝わる説得力のある事業計画書に仕上げることができる。

事業計画を書く際によくある疑問点

事業計画を作成する際に、同じような疑問を持つ人も多い。ここでは、事業計画についての代表的な疑問と答えについて、いくつか紹介する。

Q1.事業計画書はいつ準備すればよいのか?

一般的な融資の流れは、事前相談→融資の申し込み→面談→審査→融資の決定となる。事業計画書は、融資の申し込み段階で提出すればよいので、まずは事前相談で融資の依頼先や想定金額についての情報を収集し、それから作成すればよい。

Q2.事業計画書は何年分書けばよいのか?

はっきりした決まりはないので、融資の事前相談の際に確認しておくとよいだろう。返済期間にもよるが、一般的には3年分から5年分を求められることが多い。事業計画書の様式で収支計画の年数が決まっているものは、それに従って記載する。

Q3.事業計画書の将来の売上高はどうやって計算すればよい?

例えば、「単価×1日の販売数量×営業日数」など、業種に応じた売上高の計算方法があり、これに毎年増えると予想される販売数量の割合を決めて、将来の売上高の推測値を計算するという方法がある。

販売数量などの増加割合については、できれば類似業種のデータなどを根拠とすることが望ましいが、モデルとなるデータを見つけるのは難しいのでケースバイケースだ。

日本政策金融公庫の創業計画書の記入例では、「過去の勤務経験」を根拠に判断した割合での計算例を示している。

Q4.事業計画書を作成する資格は?

事業計画書の作成自体に必要な資格はない。経営者が自分で作成することはもちろん、従業員や経営に関わる専門家に委託することも可能である。事業計画書の作成に適している専門家の例としては、経営コンサルタント業務を行う中小企業診断士、顧問税理士などがあげられる。また、中小企業庁のホームページから、国の「認定経営革新等支援機関」として登録している企業や専門家を検索し、直接連絡をとって相談することも可能である。

Q5.事業計画書に書くことは何ですか?

事業計画書に書く内容は、経営者の経歴、その事業の概要、市場や競合の調査結果、その事業や市場に対する強み、経営状態や業績、人員体制、3年~5年分程度の収支計画とその数値の根拠などがあげられる。ただし、これらのうち、どの部分を強調し、どの情報を掘り下げて説明するかについては、その事業計画書を利用するシーンで使い分ける必要がある。

事業計画書を書く前に実施すべき3つのこと

融資を実行するのは、融資の担当者個人ではなく組織である。したがって、事業計画書は、言葉で直接説明できない相手にも納得してもらえるものでなければならず、余計な疑義を生じさせないように作成しなければならない。

ここでは、事業計画書を作成する前に以下の3つを実施しておくとよい。

1.融資の対象を把握しよう

融資の中には、誰でも申し込める融資もあるが、応援したい取り組みや対象者が決まっているものもある。

たとえば、日本政策金融公庫の融資や、制度融資(金融機関と自治体が連携して行う融資)は、起業を応援する融資もあれば、売上拡大のための設備導入を応援するもの、働き方改革を応援するもの、災害からの復旧や経営の立て直しを応援するものなど、さまざまな融資に分かれている。

このような特定の融資の活用を事前相談などで勧められた場合は、事業計画書も、その取り組みに合致した内容であることを念頭に作成することが必要だ。

2.頭の中で事業概要を説明してみよう

事業計画書を書く前に、まずはどのような事業にするか、自分の中のビジョンをしっかり固めておこう。自分の中で明確になっていないまま作成を始めると、雲を掴むような内容になりやすく、前後の内容に矛盾が生じたり融資を受ける上で不可欠な説明が抜けてしまったりする可能性もある。

正確に事業内容を伝えるためには「5W1H」を意識するとよい。なかでも、誰が(Who)、何を(What)、どうやって(How)提供するかを中心にまとめ、いつ(When)、どこで(Where)、なぜ(Why)の要素で肉付けして、自身の事業について整理しよう。

3.伝えたい内容を絞ろう

事業計画書に記載すべき項目数は多いが、全項目を通じて見られるのは、最初に説明したように以下の4点である。

・事業の内容
・この事業でどのようにして収益をあげるのか
・どれほどの収益見込みがあるのか
・この収益を見込んだ方法

事業をスタートさせたときの思いや経緯を漫然と書いたり、読んだときの面白さを追求したりする必要はない。事業計画書に説明不足な箇所があっても、面談時に融資担当者から質問を受けるため、多少の補足はできる。上記の点を踏まえて、伝えたいポイントを絞って確実に書類に記載しよう。

事業計画書で不安を感じたら専門家に相談を

事業計画書の書き方について10個のポイントや作成前にやっておくとよい3つのことについて解説した。事業計画書の書き方だけでなく、事業の内容や競合分析、収支計画が現実的であるかなどに不安を感じたら、迷わず専門家に相談しよう。

そのようなときには、国の認定支援機関として認定を受けている専門家に相談するのがよいだろう。認定支援機関からの指導・助言を受ければ、日本政策金融公庫の一部の融資を有利な金利で申し込めるなどの利点がある。

認定支援機関については、中小企業庁のホームページで公表されているので参考にしていただきたい。

中小企業庁HP「認定経営革新等支援機関」

無料の会員登録でより便利にTHE OWNERをご活用ください
他ではあまり登壇しない経営者の貴重な話が聞けるWEBセミナーなど会員限定コンテンツに参加できる、無料の会員登録をご利用ください。気になる記事のクリップや執筆者のフォローなどマイページからいつでも確認できるようになります。登録は、メールアドレスの他、AppleIDやtwitter、Facebookアカウントとの連携も可能です。 ※SNSに許可なく投稿されることはありません

無料会員登録はこちら

(提供:THE OWNER