スマートフォンの普及により、いまや24時間いつでも、どこからでも投資用口座や市場、関連情報等にアクセスすることが可能となった。しかし、その一方で多くの投資家が「マイオピック・ロス・アヴァージョン(近視眼的な損失回避思考)」に陥っているとの報告もある。

四六時中、市場をチェックしたり、投資関連情報等の通知を受けとれるのは便利であることに違いないが、一方で必要以上に敏感になることで、かえって損失を招いたり、利益を縮小させる原因になっているとの指摘もある。

スマートフォンの普及が「スマートな投資」の弊害になっているとすれば、これほど皮肉な話はない。人々がマイオピック(近視眼的)な投資行動に走る心理的背景を、行動経済学の観点から読み解いてみよう。

「200ドル儲けるより、100ドル損するほうが怖い」?

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(画像=Graphs / pixta, ZUU online)

ポール・アンソニー・サミュエルソン氏は、顕示選好の弱公理、ストルパー=サミュエルソンの定理などで知られ、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者である。ある日、サミュエルソン氏は実験的に「50%の確率で200ドルを獲得するか、100ドルを失う」という賭けを同僚にもちかけた。同僚は「200ドルを得るより、100ドルを損するほうが怖い」と拒んだという。また、サミュエルソン氏は別の実証研究で「100ドル得た後で50ドルを失った人」は最初から50ドルを得ていた人に比べ満足度が低いことも明らかにしている。

「200ドルを手にするチャンス」「同じ50ドルに変わりない」頭ではそう理解していても、心や行動が伴わない。このように、人々がロス・アヴァージョンと呼ばれる「得を逃してでも損を回避する本能」は昔から指摘されていた。

「情報の汚染」がマイオピックな行動を助長する?

「マイオピック・ロス・アヴァージョン」とは、目の前の物事に気をとられることで「損失回避本能」が加速するという概念である。興味深いのは「情報の汚染」がマイオピックな行動を助長する原因の一つであることが、数々の調査で明らかになっている点だ。

シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスのリチャード・セイラー教授や、行動経済学の生みの親でプリンストン大学のダニエル・カーネマン名誉教授などが、複数の投資家の投資パターンやパフォーマンスを比較したところ「最も多くの情報を得た投資家にはリスクを最小限に抑える傾向がある反面、収益も最小限だった」という。

同様の結果は、シカゴ大学経済学部のジョン・リスト教授らの調査からも報告されている。こちらは価格情報をたまにしかチェックしないトレーダーと、頻繁にチェックするトレーダーを比較したもので、前者は後者よりリスクの高い資産に投資する傾向が33%強く、収益も53%高かった。

これらの実験結果は、情報量が多いほど、目先のリスクやネガティブな要素にばかり気をとられ「損失を回避する本能」が強くなる傾向にあることを示唆している。近年はスマートフォンの普及等により、誰もが気軽に株や通貨などの取引に参加できるようになったが、「情報の汚染」がマイオピックな行動を助長し、多くの投資家がせっかくのチャンスを逃しているとも指摘される。

「木を見て森を見ず」という言葉がある。物事の細部にとらわれすぎると、全体を見失いかねないことを戒めた言葉だ。スマートフォンの普及等はマイオピックな行動を助長し、文字通り「森を見ることができない」投資家を増やしているのかもしれない。

「森を見る」ために大切なこととは?