東証のシステム障害による終日売買停止については、多くのコメントが出ており、その通りだと思う。だからこれ以上、僕が言うことは特にないが、あえて言えば「絶対起きてはいけないこと」というのは必ず起きるということだ。ここから思い出したい教訓は、ロバート・ルービンの言葉、「絶対ということは絶対にない」。投資では流動性リスクが非常に大事であり、取引できなくなるリスクを常に考慮するということだ。特に短期のディールを考えるとき、思うタイミングで売れなくなるリスクを考慮しなければならない。東証のシステム障害以外にも地震などの天災やテロなど予測不能なブラックスワンはたくさんある。そこまで考慮してポジションを組むようにしよう。

昨日は日銀短観の発表があった。もし東証が開いていればNY市場の大幅高を受けて反発していたかもしれないが、短観の弱さで相殺されたかもしれない。確かにDIは下げ止まった。しかし海外の景況感の戻りに比べると戻りが鈍い。新聞に書いてあった通りだ。米国も欧州も中国もPMIはコロナ前を回復しているのに、日本の短観DI(明るい水色)だけがV字回復していない。

日本の短観DI
(画像=Bloomberg)

しかしこれは統計の仕組みによるところも大きい。日銀短観は企業の業況について、前との比較でなく今時点が「良い」「さほど良くない」「悪い」で答えるようになっている。3択で真ん中の回答が「さほど良くない」となっている時点ですでにネガティブなバイアスがかかっている。なぜ「普通」とか「良くも悪くもない」としないのだろう。

これに対してISMなどPMIは、一カ月前と比べて「Better」「Same」「Worse」で答えるようになっている。BetterはGoodの比較級だ。より良い、良くなっている、ということだ。ここで思い出すのは「『悪い』は現在の状況 『良くなっている』は変化の方向(FACTFULNESS)」ということだ。PMIの回答は、比較だから、現在が悪くても、良くなっていればBetterと答える。変化を見るか、現状を見るかの違いだ。

悪い中にも明るい光が見える業界がある。不動産だ。昨日のNHKクローズアップ現代は非常に興味深かった。新型コロナウイルスの感染拡大で、都心離れ・郊外志向が加速するかと思いきや、いま、都心の不動産の購入や投資が活発化するという意外な動きが広がっているのだ。

不動産サービス大手のジョーンズラングラサール(JLL)によると、今年上半期の世界全体の不動産投資額が前年同期比3割減る中、日本への投資は同6%増えた。中でも東京圏へ150億ドルが流れ込んだ。NY、ロンドンを抑えて世界の主要都市で初めて首位に立った。150億ドルというと1兆6000円億である。ロックダウン(都市封鎖)が実施されないなど、世界的にみればコロナの経済的影響が小さかった面が評価された。

香港の大手投資ファンド、PAGは今後4年程度で日本の不動産に最大約8400億円を投じると報じられた。

前々回のレポートでも書いた通り、世界は未曽有のカネ余りである。一方、受け皿になるのは流動性の高い株式市場と不動産市場しかない。これらの資産は資産インフレになるだろう。いちばんいいのは、都心の一等地の不動産を購入することだが、次善の策はREITに投資することだ。3番目のオプションとして低迷している不動産株に投資することだろう。

不動産株
(画像=Bloomberg)

広木隆 広木 隆(ひろき・たかし)マネックス証券 チーフ・ストラテジスト
上智大学外国語学部卒業。国内銀行系投資顧問。外資系運用会社、ヘッジファンドなど様々な運用機関でファンドマネージャー等を歴任。長期かつ幅広い運用の経験と知識に基づいた多角的な分析に強み。2010年より現職。著書『9割の負け組から脱出する投資の思考法』『ストラテジストにさよならを』『勝てるROE投資術

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