新型コロナウイルスの第二波がなお世界各国で猛威を振るう中、我々はすでに、ウィズコロナ、アフターコロナと言われる新しい生活様式を探り始めた。特に、外出制限や自粛に伴い多くの人々が自宅や屋内で過ごす時間が多くなり、行動スタイルが一変したことで、経営の重要要素と言われるヒト・モノ・カネといった経営資源の構造が大きく変わろうとしている。

人々の消費行動の変化により急激に需要の落ち込む製品やサービスが現れるなど、企業活動においても大きな影響が生じている。一方で、外出自粛に伴って需要の伸びた「巣ごもり消費需要」というジャンルも登場するなど、企業にとっては事業拡大のチャンスと捉えることもできるだろう。

このような不足の事態に対応すべく、日本企業全体の99%以上の存在を占める中小企業や、その経営者には今後何が求められるのか。重要となる視点や戦略を考察した。

これからの中小企業経営者に求められる5つの視点

コロナ
(画像=denisismagilov/stock.adobe.com)

ウィズコロナ、アフターコロナの時代に向けて、企業経営の考え方は今まさに転換期が訪れていると言えるだろう。身近な所では、テクノロジーやITを活用したリモートワークが一部の企業で推進されるなど、すでに企業経営は変化し始めている。

ここではより大局的な視点から、今後の経営シーンで具体的に考えておくべき5つの視点を解説したい。

DXが一層推進する

まず取り上げたいのが、デジタルトランスフォーメーション (DX) だ。これは「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」」という概念のことを指し、経済産業省もDX推進におけるガイドラインを策定している。

このDXにより、消費者の生活シーンや企業活動シーン等あらゆる場面において、さまざまなモノや情報がデジタルデータとして蓄積され、管理、運用されることで、我々の利便性や行動体験を格段に向上させることが期待されている。

特に経営者にとっては、世界中のあらゆるモノや情報がインターネットを介してつながるIoT (Internet of Things)、蓄積したデータを分析、学習するAI、スピーディーかつ大容量のデータを扱えるクラウド、高速で低遅延なデータ通信を可能とする5Gなどといった、DXを構成する中核技術の動向に注視したい。

これらの技術が、自社の取り巻く業界や企業活動にどのような影響を及ぼすかを考え、自ら積極的にテクノロジーを取り込んでいくことが重要だ。

消費構造が変化する (UberEats、シェアリング等の加速)

次に、大きな消費動態や構造の変化に注意しておきたい。これまでは、ものやサービスを買って所有し、消費するという「モノの消費」が主流であった。しかし、UberEatsやAirbnb等に代表されるような、モノを共有して必要な時にだけ使う「シェアリングエコノミー」」や、モノやサービスから得られる経験や体験を目的とする「コト消費」といった消費活動に注目が集まり、消費者のニーズとそれに伴う消費行動が変化しようとしている。

所有に対してお金を払うのではなく、使用した期間や、使用した結果得られる体験に対してお金を払うという概念に変わってきているのだ。さらに、そのサービスが企業のみならず、個人が提供者となってCtoCビジネスとして成立しているケースも多い。

企業経営者にとっては、「消費者は何に対してお金を払うのかを的確に掴み、サービス設計をすること」および「企業だけでなく、個人も競合相手になりうること」を十分に理解しておく必要がある。

人材を含めたリソースが不足し、最適活用が求められる

コロナウイルスによって、人やモノのリソース活用への制限が顕著となった。各国の規制に伴い、旅行客だけでなくビジネス目的での渡航が制限され、優秀な外国人人材を取り込むことが一時的に出来なくなっている。また、マスク等の医療用品は自国優先の風潮が広がり、各国で輸出規制をかける動きも生じた。

人やモノの移動の制限は、ひいては企業の製造拠点や物流拠点の戦略を変化させ、既存のサプライチェーンの流れを大きく変える引き金となる。すでに、安い人件費目的で中国や東南アジアに生産拠点を構えていた企業の一部が、国内に生産を戻そうとする動きも出てきている。

人やモノの移動の規制によりグローバル間での競争や囲い込みが激しさを増す中、自社として何に投資するのが最適なのかを戦略的に意思決定し、適切にリソース配分を実行しなければならない。

グローバル化でなく、「世界で戦える競争力」が必要に

これまで企業では「グローバル化」を合言葉として、海外に支店や工場を構え現地ネットワークを構築したり、海外販売比率を増やそうと営業やマーケティングに注力したりする投資が主流であった。しかし、上にも述べたように、サプライチェーンの見直しや消費行動の変化に伴い、「グローバル化」が再定義されようとしている。

今後は、海外に支店や工場を構えた越境サプライチェーンの構築や、海外販売比率の大小によってではなく、「真のグローバル競争力」をつけるための投資が必要だと言えるだろう。自社の強みやサービスの本質的価値を明確化し、世界で戦える品質と顧客体験、そして、他社と差別化した価値を持つ商品やサービスを打ち出し、不測の事態を乗り越える力をつけていきたい。

再編、パートナー提携が経営の必須材料に

事業提携やパートナー契約等、他社の力を借りて成長を加速させる方法が、今後一層増えていくのではないかと考える。自社だけのリソースで成長に限界がある場合には、あらゆる業種や業界の知見を融合させ、新たなビジネスを創出していくことが効果的だ。

その方法として、事業提携やパートナー契約、さらにはM&Aといった手法が考えられる。特に中小企業においては、他社と連携することで規模の経済でコスト優位性を得たり、大企業と連携することで、財務面や人的リソース、ブランド強化において大きく優位となったりすることができるだろう。

外部の企業と連携することは、社内に新しい風を吹かせる意味でもメリットがある。自社としてどのような業界、領域と連携することが、成長において最も効果的なのかという視点を常に持っておきたい。

テクノロジーを活用した新たなビジネスチャンスに商機がある

以上、5つの大局的な視点を解説してきた。アフターコロナも見据え混沌とした社会情勢の中で、まさに答えのない時代に身を置いている中小企業経営者にとっては、どのような状況変化に対しても最適な意思決定ができるよう、日ごろからさまざまな経営シナリオを描いておく必要があると言えよう。

5つの視点の中には、コロナウイルスがその状況を加速したものもあれば、その終焉と共に重要度が変わってくる要素までさまざまである。自社の業界では、何が企業活動の存続に対して致命的となるのかを考察しておきたい。

特に、リモートワークやバーチャル等、ITを活用した働き方の変化はコロナウイルスの影響で急速に広まった。まずは、これらのテクノロジーを活用し、新たなビジネスチャンスを捉えることが、長期的に見ても企業経営にとって大きなメリットとなるのではないだろうか。(提供:THE OWNER

文・森琢麻(M&Aコンサルタント)