シンカー:日本の独特の国債の「60年償還ルール」がなく、社会保障の扱いの違いを調整すると、2020年度の当初予算の国債依存度は11.0%となり、米国の22.8%よりかなり低い。りんごとりんご(基準が同じもの)をしっかり比較すると、米国より財政は健全であるように見える。新型コロナウィルス問題に対処するため、2020年度は二度の大規模な補正予算を組んでいる。歳出と公債金を同額増やすと、2020年度の国債依存率は34.3%になる。もともと世間に広められていた31.7%という数字と大差はなく、米国の当初の22.8%から10%程度大きいにすぎない。米国も大規模な経済対策を行い、既に国債依存度は50.1%へ急激に上昇し、日本の水準を大きく上回っている。日本で、これだけ大きな歳出増加があっても、財政ファイナンスの不安がないのは、もともとの財政状態がそれほど悪くはなかったことが理由であるとみられる。米国と比較すれば、日本にはまだまだ財政拡大余地があるようだ。国債依存率が上昇傾向にあり財政政策が緩和的であることが米国経済の堅調さを支え、低下傾向にあり財政政策が緊縮的であることが日本経済のデフレ完全脱却を妨げていたことも分かる。ようやく、デフレ完全脱却という目標と整合的な緩和的財政政策になったと言える。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

2020年度の政府の一般会計当初予算は102.7兆円と歳出は過去最大となり、その内32.6兆円が国債の発行でまかなわれている。

歳出のどれだけを借金でまかなっているかを示す国債依存率は日本は31.7%である。

米国の連邦当初予算の22.8%と比べると、日本の財政は国債発行にかなり依存し、とても悪いように見える。

しかし、各国の予算の計上の仕方や項目が違うため、この国債依存率を単純に比べることは、りんごとりんご(基準が同じもの)の比較になっていない。

日本の独特の国債の「60年償還ルール」がなく、社会保障の扱いの違いを調整すると、国債依存度は11.0%まで下がる。

りんごとりんご(基準が同じもの)をしっかり比較すると、米国より財政は健全であるように見える。

新型コロナウィルス問題に対処するため、2020年度は二度の大規模な補正予算を組んでいる。

第一次補正予算は25.7兆円、第二次補正予算は31.9兆円の追加歳出があり、すべて公債金で賄われている。

歳出と公債金を同額増やすと、2020年度の国債依存率は34.3%になる。

もともと世間に広められていた31.7%という数字と大差はなく、米国の当初の22.8%から10%程度大きいにすぎない。

米国も大規模な経済対策を行い、既に国債依存度は50.1%へ急激に上昇し、日本の水準を大きく上回っている。

日本で、これだけ大きな歳出増加があっても、財政ファイナンスの不安がないのは、もともとの財政状態がそれほど悪くはなかったことが理由であるとみられる。

米国と比較すれば、日本にはまだまだ財政拡大余地があるようだ。

日本の独特のルールの存在が、財政議論を歪め、財政政策が硬直化する問題となっていると考えられる。

予算の計上の仕方や項目の違いを無視して、りんごとみかんを単純に比較してしまい、日本の財政状況が米国より極端に悪いという誤解を与え、財政政策が過度に緊縮的になってしまうこは適切ではない。

国債依存率が上昇傾向にあり財政政策が緩和的であることが米国経済の堅調さを支え、低下傾向にあり財政政策が緊縮的であることが日本経済のデフレ完全脱却を妨げていたことも分かる。

ようやく、デフレ完全脱却という目標と整合的な緩和的な財政政策になったと言える。

60年を超える期間の国債の発行の議論を困難にしてしまうことを含め、「60年償還ルール」は財政議論を歪め、財政政策が硬直化する問題となっており、廃止すべきではなかろうか。

財務省が国債の「60年償還ルール」を廃止して償還費を予算外で処理することを検討していたとの報道があった。

実現すれば、ゆがんでいた日本の財政制度がグローバル・スタンダードに合う形に改正されることになる。

図)日本の国債依存度

日本の国債依存度
(画像=財務省、SG)

図)日本の国債依存度(60年償還ルールなし、社会保障調整、2020年度当初予算)

日本の国債依存度(60年償還ルールなし、社会保障調整、2020年度当初予算)
(画像=財務省、SG)

図)日本の国債依存度(60年償還ルールなし、社会保障調整、2020年度補正予算後)

日本の国債依存度(60年償還ルールなし、社会保障調整、2020年度補正予算後)
(画像=財務省、SG)

図)米国の国債依存度(2020年度当初予算)

米国の国債依存度(2020年度当初予算)
(画像=CBO、SG)

図)米国の国債依存度(2020年度補正予算後)

米国の国債依存度(2020年度補正予算後)
(画像=CBO、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社調査部
チーフエコノミスト
会田卓司