シンカー: 超長期を中心に需給懸念はやや和らいでいるようだが、新型コロナを受けた国債増発の対象にいまだなっていない40年債が増発の対象となるとの見方も根強い。日本では2019年末にも50年債発行の可能性が注目されたが、財務省は50年債/100年債に頼らなくても既存の国債により必要額を調達できているとし、超長期国債発行による利払い費増加も踏まえて必ずしもデュレーションの長期化を優先するわけではないという姿勢を示している。だが、40年以上の国債発行に慎重な理由は日本独自の仕組みである60年償還ルールによるものが大きいかもしれない。現在発行されている日本国債の年限は40年債を除いてすべて60の約数となるため、当初の発行から満期が来た場合には、発行当初と同じ年限で借換債を発行することが可能だが(例:30年→30年)、40年債の場合に関しては40年後には20年債、もしくはそれよりも短い年限の借換債を発行することで最終的には60年で全額現金償還することになる。このような事情によって、40年債を増発しすぎた場合の将来的な他の年限への影響が特に増額への足かせになっている可能性があるだろう。そもそも60年償還ルールと同様のルールはグローバルには存在していない。主要国では、償還については財政黒字になれば償還するものの明示的なルールではなく、日本のように60年償還ルールによって、財政赤字でも償還する必要があるのは例外と言えるだろう。EUやドイツのような独自のルールを設けている国も存在するため、一概に日本の財政規律が厳しすぎるということはできないが、60年償還ルールによって財政赤字であっても現金償還する必要があることが不必要な制約になっている可能性がある。また、60年の根拠である構造物の平均効用年数だが、技術進歩によりルール導入当初よりも長期化しているとみられ、現状に即していないと考えられる。以上のように、60年償還ルールといった現状にそぐわない制約に基づいて債務健全化を図り、増税によって経済成長を阻害してしまうことで税収も下振れさせるよりも、現状に即したルールに対応する方が長期的には債務健全化にとってプラスになると考えられる。新型コロナ後によって政府債務が急増している今だからこそ、そのような60年償還ルールの廃止や更なる超長期国債の発行を含めた議論を活発に行う必要があるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

60年償還ルールが40年債の増発の足かせに?

9月に行われた国債市場特別参加者会合では、次の国債増発に向けてあまり具体的な議論がなかったとされ、超長期を中心に需給懸念はやや和らいでいるようだ。だが、新型コロナを受けた国債増発の対象にいまだなっていない40年債が増発の対象となるとの見方も根強い。歴史的な低金利環境において各国はデュレーションを長期化してきており、極端なケースではオーストリアが100年債を発行した例もある。米財務省は50年債の検討を行うとするなど、さらに長期の借り入れに対して議論は盛んにおこなわれているようだ。日本では2019年末にも50年債発行の可能性が注目されたが、財務省は50年債/100年債に頼らなくても既存の国債により必要額を調達できているとし、超長期国債発行による利払い費増加も踏まえて必ずしもデュレーションの長期化を優先するわけではないという姿勢を示している。

40年以上の国債発行に慎重な理由は日本独自の仕組みである60年償還ルールによるものが大きいかもしれない。60年償還ルールは、建設国債及び特例国債の償還について、借換債を含めて60 年で現金償還を終了するというもので、公共事業(建設国債)を通じて建設した構造物の平均効用年数が60年程度であるという考え方に基づいている。20年債の場合では、20年後に発行額の1/3を現金償還するとともに、2/3にあたる20年の借換債を発行、さらにその20年後に1/2を現金償還するとともに、1/2にあたる20年の借換債を発行、最初の発行から60年後にすべて現金償還するということになる。

現在発行されている日本国債の年限は40年債を除いてすべて60の約数となるため、当初の発行から満期が来た場合には、発行当初と同じ年限で借換債を発行することが可能だが(例:30年→30年)、40年債の場合に関しては40年後には20年債、もしくはそれよりも短い年限の借換債を発行することで最終的には60年で全額現金償還することになる。このような事情によって、40年債を増発しすぎた場合の将来的な他の年限への影響が特に増額への足かせになっている可能性があるだろう。そして60年を超える債券については、60年償還ルールがある限り、現時点では実現の可能性が低いと言えるだろう。

一方で、歴史的な低金利環境の中で海外投資家を含めて利回りを求める動きは継続している。2025年の経済価値ベースのソルベンシー規制導入も関連して生保からの超長期債に対する需要も堅調なようであり、超長期債発行による利益は少なくないと言えるだろう。債務管理政策の柔軟性を高めるためにも、60年償還ルールを見直す必要があると考えられる。そもそも60年償還ルールと同様のルールはグローバルには存在していない。主要国では、償還については財政黒字になれば償還するものの明示的なルールではなく、日本のように60年償還ルールによって、財政赤字でも償還する必要があるのは例外と言えるだろう。一方で、EUにおいては財政収支、債務残高、構造的財政収支についてのルールが存在するとともにドイツのように原則として財政均衡を義務付けている国も存在する。このように一概に日本の財政規律が厳しすぎるということはできないが、60年償還ルールによって財政赤字であっても現金償還する必要があることが不必要な制約になっている可能性がある。

60年償還ルールの存在により、日本は毎年の予算に国債の利払費だけではなく、償還費も計上している。一方で、他の主要国では期限(60年内)に現金償還するといったルールが存在しないため、国債は継続的に借換され、予算には利払費だけ含まれる。60年ルールに準ずる国債依存度の計算では、2020年度当初予算で日本の国債依存度は31.7%、新型コロナ後の補正を経て56%程度にまで上昇している。ただ、60年償還ルールがなかったことを考えると、2020年度の国債依存度(社会保障費の扱いも修正)は当初で11%、補正後で34.3%と、グローバルスタンダードで見てみると、新型コロナによる財政悪化を経て初めて一般的に言われている国債依存度31%に近い値になることが分かる。また、技術進歩により60年償還ルール導入当初では60年程度とされていた構造物の平均効用年数はさらに長期化しているとみられ、現状に即していないと考えられる。以上のように、60年償還ルールといった現状にそぐわない制約に基づいて債務健全化を図り、増税によって経済成長を阻害してしまうことで税収も下振れさせるよりも、現状に即したルールに対応する方が長期的には債務健全化にとってプラスになると考えられる。新型コロナ後によって政府債務が急増している今だからこそ、そのような60年償還ルールの廃止や更なる超長期国債の発行を含めた議論を活発に行う必要があるだろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社調査部
チーフエコノミスト
会田卓司