SDGsやESGといえば世界規模で共有する課題であり、各国の自治体や企業の取り組みはもちろんのこと、投資家にとってもいまや重要なテーマの一つと言っても差し支えないだろう。
SDGs(持続可能な開発目標)は2015年に国連サミットで採択された国際目標だ。人間社会と生態学的持続可能性を改善するための17のグローバル目標と169のターゲット(達成基準)で構成され、たとえば貧困や飢餓、環境といった国際社会が抱える問題等への各国の意識を促し、産業・技術の革新等を通じて経済成長を目指そうというというものだ。一方、ESGは同様の課題に企業が取り組むことでビジネスの持続的な成長を目指すもので、いまや投資家にとっても重要なテーマの一つとなっている。ESGの頭文字を構成するEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)への積極的な取り組みが長期的な利益につながるという概念だ。
だが、理想と現実には大きな隔たりがある。後段で詳述する通り、具体的なターゲットを特定している企業は全体のわずか14%という調査結果もある。理想を高らかに掲げるのは素晴らしいことだが、それを具体的な戦略に落とし込むのは容易なことではない。そうした中、海外で有効な戦略として耳目を集めはじめているのが「ネクサス・アプローチ(Nexus Approach)」という考え方だ。
今回は、SDGsからESG経営・投資の新たなキーワードとなる可能性を秘めた「ネクサス・アプローチ」についてリポートする。
「経済活動と社会貢献」のジレンマ?
2019年、ロンドに本拠を置くPwC(プライスウォーターハウスクーパース)が世界31の国・地域の1141社を対象に実施した調査によると、全体の72%が自社のサステナビリティ報告書や年次報告書等でSDGsを取り上げていることが分かった。しかしながら、具体的なターゲットを特定し、実践している企業は全体のわずか14%に過ぎず、理想と現実の間に大きな隔たりがあることが浮き彫りとなった。
まず、原因の一つとして考えられるのが「経済活動と社会貢献」のジレンマだ。たとえば、製造業や農林水産業、鉱業・採石業などは人間が生活していく上で欠かせないビジネスだが、同時に環境等に深刻な悪影響を与える要素も内包している。一例を挙げると、2018年にオックスフォード大学動物学科のジョセフ・プーア教授らは「世界の温室効果ガス(GHG)排出量の26%は食品産業によるもの」との共同調査報告書を発表している。すなわち、需要の増加にともない単純に生産量を増やすと環境汚染や食品ロスを招くリスクを内包しているが、極端に生産を制限すると今度は飢餓や貧困問題を悪化させる要因となりかねない。これが「経済活動と社会貢献」のジレンマだ。