会社を成長させるには、従業員のモチベーションを高めることが必要不可欠だ。従業員に的確なアプローチができなければ、会社の生産性は下がってしまう。本記事で紹介する施策や事例などを参考に、モチベーション向上に視点を置いた取り組みを実践していこう。

仕事におけるモチベーションの意味とは?

経営戦略
(画像=PIXTA)

本来、モチベーションという言葉は「動機」という意味であり、欲求から行動へと変わるプロセスを指す。しかし、ビジネスシーンにおいては「仕事への意欲」そのものを指して使用されるケースが多く、高いモチベーションをもって業務に臨むことが理想的な働き方とされている。

というのも、モチベーションが高い従業員は会社への忠誠心が強く、自発的に業務に取り組むことから業績への貢献度が高い傾向もある。逆にモチベーションが低い従業員にはやる気がない発言や行動が多く、業績面に悪影響が及びやすい。

そのため、経営者は常に「モチベーションマネジメント」を行い、従業員のやる気を高める工夫をすることが重要だ。

代表的なモチベーションの理論

モチベーションマネジメントを行う際にぜひ参考にしたい理論が、仕事における満足と不満足の関係性を明確にした「ハーズバーグの二要因理論」である。モチベーションを構成する要素には「動機付け要因」と「衛生要因」の2種類があり、どちらか一方ではなく双方にアプローチをすることによって、モチベーションを効率的に高められるという考え方だ。

具体的な要素

ちなみに、動機付け要因とは仕事の満足度に関わる要因であり、衛生要因とは仕事の不満に関わる要因を意味する。具体的にどのような要素が関わるのか、それぞれの主な特徴を以下でチェックしていこう。

要素の例特徴
動機付け要因・達成
・承認
・仕事そのもの
・責任
・昇進
・成長 など
ないからといってすぐに不満を招くわけではないが、あればあるほど仕事への満足感が高まる
衛生要因・会社の方針と管理
・会社や上司からの監督
・監督者との関係
・労働条件
・給与
・福利厚生 など
整備されていないと従業員は不満を感じやすいが、整備されていても不満がなくなるだけで満足感が高まるわけではない

上記の「異なる要因が共存している」という考え方がこの理論の特徴であり、両者は相反するわけではなく、互いに足りない部分を補うような関係性となっている。つまり、動機付け要因や衛生要因のどちらか一方だけを満たすのではなく、不満に関わる衛生要因を解消したうえで動機付け要因にアプローチすることが、モチベーションを高める近道になるわけだ。

従業員のモチベーションを高めるメリットと効果とは?

上記で解説したハーズバーグの二要因理論を活用すれば、従業員へのモチベーションマネジメントは効果的に遂行できる。では、従業員のモチベーションが高まるとどのような利点があるのか、主な3つのメリットや効果についてひとつずつ確認していこう。

1.離職率が低下し、採用コストを抑えられる

一般的にモチベーションが下がった従業員は、退職を意識することが多い。そのため、従業員のモチベーションを高めることは離職率の低下につながり、それによって人員不足で人手を補う必要性がなくなることから、「採用コストの削減効果」も期待できる。

2.労働生産性が高まる

従業員のモチベーションが高いほど、業務に対する集中力やパフォーマンスはアップする。つまり、クオリティの高い仕事を効率的に遂行できるようになり、必然的に組織としての生産性も高まる。

3.効率的に人材を育成できる

従業員のモチベーションが高まると、自ら作業効率や質の向上に努めたり、スキルアップに励んだりといった能動的な行動が増える傾向にある。それに伴って個々の成長スピードが高まるため、モチベーションマネジメントに取り組めばより効率的に人材を育成できるはずだ。

従業員のモチベーションを管理するポイント3つ

前述したメリットや効果を享受するためには、まずはモチベーション管理のコツをしっかりと押さえておく必要がある。以下の3つのポイントを参考に、個々の従業員に適したモチベーションマネジメントを進めていこう。

1.モチベーションが低下する仕組みや原因を理解する

モチベーションの向上を目指すうえで最も重要といえるものが、モチベーションが低下する仕組みや原因を理解することだ。モチベーションが下がる要因は個人によってさまざまだが、大きく以下の3つのカテゴリに分けられる。

モチベーション低下の要因具体例
・個人の要因日常生活における心身の疲労やプライベートでの問題 など
・対価の要因労働や実績に対する報酬に満足していない など
・組織の要因組織や業務に馴染めない、目標が曖昧である など

これらの要因により、一時的にモチベーションが低下することは誰にでも起こりうることだ。大切なのは「経営者としてその変化に気づけるかどうか?」であり、そのためには常日頃から従業員とコミュニケーションを取って良好な信頼関係を築くことが求められる。

2.給料以外に働きがいを持てるような環境を整える

先述のハーズバーグの理論にある通り、給料や待遇といった「衛生要因」は不満の解消にはなるものの、モチベーションアップにはつながりにくい。そのため、金銭以外にも働きがいをもてるような環境を整えることも重要だ。

例えば、「この仕事はあなたにしかできない」と能力を褒めたり、「○○さんがいるから助かっている」と努力を認めたりなど。従業員の努力や成長に目を向けてやりがいのある環境作りを行えば、金銭報酬以上のモチベーションアップ効果を狙える。

3.高めるだけではなく、「維持」することも考える

モチベーションの向上には限度があるため、なるべく高い状態で維持できるように工夫することも必要だ。モチベーションの維持には「成長」が欠かせない要因といわれており、人は常に成長を自覚できれば自然とやる気をキープできる。

では、自身の成長はどのようなときに自覚できるのだろうか。具体的なタイミングとしては、「フィードバックを得たとき」が挙げられる。フィードバックによって課題点や目標が明確になれば、多くの従業員は前向きな意識や行動に移れるのだ。

ぜひ従業員へのフィードバックを習慣化し、個々の成長を可視化させることでモチベーションの維持を目指してほしい。

従業員のモチベーションを高める施策とは?具体例を紹介

では、実際のモチベーションマネジメントとしてはどのような取り組みが有効なのか、具体例を挙げて解説を進めていこう。ここでは、特に効果的とされる3つの施策を紹介する。

1.マスタリー目標やキャリアビジョンを明確にする

モチベーションを高めるポイントは成長にあるため、個々の従業員に「マスタリー目標」を設定する方法は非常に効果的だ。マスタリー目標とは、自分自身の成長や能力向上にフォーカスした目標のことであり、この目標を明確にすることで失敗を恐れず積極的に業務を遂行しやすくなる。

また、マスタリー目標の設定時には、「今後どのようなキャリアを目指したいのか?」と将来像をイメージさせることも重要になる。キャリアビジョンへの欲求が高まれば、長期的なモチベーションの維持・向上につながりやすい。

2.成果や進捗を見える化する

自身の業務が組織や社会の役に立っていることを実感すると、動機付け要因が満たされる影響でモチベーションが高まりやすくなる。そのため、進捗や成果、貢献度の「見える化」を実践し、数値の発表や表彰などで具体的にフィードバックをする方法も検討しておきたい。

3.人事評価制度を見直す

人事評価は従業員のモチベーションに大きく影響するため、上手く作用するように制度の見直しを図ることも重要事項といえる。その際には成果や貢献度の公平な評価はもちろん、プロセスに対してもしっかりと評価できるような基準を設けることが必要だ。

モチベーションマネジメントの成功事例

ここからは、実際にモチベーションマネジメントに成功した事例をチェックしていこう。以下で紹介する3社の取り組みを参考に、自社にはどのような施策が効果的なのか考えてみてはいかがだろうか。

【事例その1】ザ・リッツ・カールトン

まず注目したいのが、世界規模でホテル事業を展開する『ザ・リッツ・カールトン』が実施している施策である。同ホテルブランドは、「クレド」と呼ばれる経営理念の実現に向け、顧客だけではなく上司や同僚、部下にも感謝を示せるシステムを確立させた。

具体的には、従業員全員に「ファーストクラス・カード」と呼ばれる感謝・敬意の意味をもつカードを配布し、お礼を伝えたいときなどにそのカードを用いることで、従業員が気軽にお互いを褒め合うというもの。ちなみに、そのカードには「どのような状況でどのように助けてもらい、それによってどれだけ助かったのか?」などを詳しく記載する欄があり、最終的にはコピーを人事が預かって評価に反映させる仕組みがとられている。

この制度によって従業員は自らの成長や貢献を目に見える形で実感でき、さらには組織からも評価されてモチベーションが向上する。また、コピーは社内食堂に提示されるため、ほかの従業員にも良い刺激や教訓を与えられるのだ。

このザ・リッツ・カールトンの事例は、ハーズバーグの理論のうち動機付け要因にあたる「承認」を上手く活用した効果的な施策といえる。

【事例その2】クックパッド株式会社

レシピサイトを運営する『クックパッド』では、従業員のキャリアビジョンへの欲求を満たすことを目的とした施策を遂行している。具体的には、追加で人員が必要になった部門が現れた場合に、社外だけではなく社内からも募集を行い、従業員からの異動願いを歓迎するといった施策だ。

つまり、会社として個々の「やりたい」という意思を尊重し、その実現に向けて全面的に応援する姿勢を形にした制度である。ちなみに、社内公募に申し込む際は直属の上司による承認などは一切必要なく、さらには公募に申し込んだ事実も内密にしてもらえる。

この施策によって、クックパッドでは従業員ひとり一人の自発性が向上し、高いモチベーションが保たれている。

【事例その3】東京海上日動システムズ株式会社

東京海上グループにおけるIT戦略の中核を担う『東京海上日動システムズ』では、すべての従業員が経営ビジョンを話し合う「全社論議」を開催することで、モチベーションマネジメントを行っている。つまり、全従業員参加型の会議で自由に意見を交わさせることにより、従業員の意欲を巧みに刺激しているのだ。

ちなみに、経営層は会社の方向性を提示するのみで、具体的な目標やプランは各部署やチームに委ねている。このように、経営を大きく左右する領域にまで従業員の意見を反映させれば、特に意識が高い従業員のモチベーションは格段にアップするだろう。

従業員のモチベーションを注視し、課題に適したモチベーションマネジメントを

従業員のモチベーションは、会社の成長や業績に直結する要素である。そのため、経営者は常に多角的なアンテナを張り、モチベーションの維持・向上に視点を置いた施策に取り組むことが重要だ。

まずは、現状の労働環境や評価制度が適切なものなのか、従業員の目線で見直してみると良いだろう。その上で課題に適したアプローチを心がけ、効率的なモチベーションマネジメントを目指していきたい。(提供:THE OWNER

文・石田真帆(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)