「それにしても、人間は生きられるものだ! 人間はどんなことにでも慣れられる存在だ。わたしはこれが人間のもっとも適切な定義だと思う」ロシアの文豪ドストエフスキーの『死の家の記録』にそのような一節がある。1860年から1862年にかけて発表されたこの小説は、ドストエフスキー自身がシベリアの監獄で囚人として過ごした4年間の体験がベースになっているとされている。160年ほど前の小説であるが、巧みな筆致で描かれる人間の姿は、21世紀の現在でも多くの人の心を打つ傑作だ。折しも、筆者の住む欧州では新型コロナウイルスが猛威を振るう中、リモートワークやハイブリッドワークなどニューノーマル(新常態)の働き方が急速な広がりを見せている。私たちはどんな環境にも慣れなければならない。過酷な環境だからこそ、柔軟な対応が求められる。すべては生きるために。そう、誰もが生きるために懸命なのだ。

ところが、このような環境にありながら、欧州の一部では驚くべき議論が巻き起こっている。パンデミック後も在宅勤務を希望する人を課税対象とする「リモートワーク税(Remote Work Tax)」の導入が議論されていると、英ガーディアン紙など複数のメディアが報じているのだ。今回はリモートワークが社会に広く浸透する中で浮上した「リモートワーク税」の理想と現実をリポートする。

リモートワーク税、所得の5%が課税対象になる?

リモートワーク,海外
(画像= travnikovstudio / pixta, ZUU online)

現在議論されている「リモートワーク税」はフリーランスと低所得者を除く在宅勤務希望者に課税し、その徴収金を遠隔勤務が不可能なエッセンシャル・ワーカー(医療・福祉従事者などの生活必須職従事者)や低所得者、失業者への助成金に充てるというものだ。提案者であるドイツ銀行リサーチ部門のストラテジストチームは、リモートワークの日数×所得の5%を課税することで、米国で年間総額490億ドル(約5兆642億円)、ドイツで約200億ユーロ(約2兆5321億円)、英国で70億ポンド(約9780億8149万円)を徴収できると見積もっている。

たとえば英国で年間所得3万5000ポンド(約489万円)以上の在宅勤務希望者から1日5%=7ポンド(約978円)のリモートワーク税を徴収した場合、25歳以上の最低所得層の12%に2000ポンド(約28万円)を支給できるという。

リモートワークは一部の労働者の「特典」なのか?